飛びながら燃料補給ができる空中給油は、航空機の行動半径を無限に広げることのできる便利な手段です。しかし、地上のガソリンスタンドとは違い、空のガソリンスタンドは24時間営業のセルフ式ではありません。現在の空中給油機は人が乗って操縦し、オペレーターが給油作業を行なっています。このため、空中給油機を上空に待機させておくのは、人的コストが結構高いのです。でも、そんな日々も終わりを迎えるかもしれません。アメリカ海軍は2018年8月30日(アメリカ中部時間)、無人給油機(ドローンタンカー)MQ-25スティングレイをボーイングに正式発注しました。

 MQ-25スティングレイは空母上で運用され、艦載機に対して空中給油してその作戦行動半径を広げるために構想された無人機。これに対し、ボーイングのほか、ロッキード・マーティン、無人機メーカーとして著名なジェネラル・アトミックスなどがコンペに名乗りを上げ、設計案と試作機を示して受注を競っていました。

 特に力を入れていたのがボーイングとジェネラル・アトミックス。ボーイングは新規設計のステルス性を持った機体、そしてジェネラル・アトミックスは無人偵察機プレデターCをベースにした手堅い設計の機体を提案していました。

ボーイングのMQ-25候補機

ボーイングのMQ-25候補機


ジェネラル・アトミックスのMQ-25案

ジェネラル・アトミックスのMQ-25案

 そして今回、MQ-25はボーイング案が正式採用されることになり、総額8億500万ドル(約940億円)で4機発注されることになりました。

 ボーイングMQ-25スティングレイは、F/A-18E/FスーパーホーネットやEA-18Gグラウラーとほぼ同じ大きさの単発ジェット機。正面から見ると平べったく、上から見ると弾丸に似た紡錘形をしており、ジェットエンジンへの空気取り入れ口は、クジラの鼻のように機体の上面に開口しています。主翼は前縁のみに浅い後退角を持った細めの直線テーパー形で、尾翼は垂直尾翼と水平尾翼を兼ねたV字形。この細い主翼は滑空性能を重視した形状で、空中給油機に必要な条件である、長時間にわたる上空待機が可能になっています。


 空中給油装置はアメリカ海軍で使用されるため、先端がラッパ状に広がった給油ホースを伸ばし、そこへ飛行機の受油口を差し込むという「プローブ&ドローグ」式。主翼の胴体に近い部分に左右1基ずつ装着する給油ポッドから給油します。

 海軍では、まずMQ-25スティングレイを空母からカタパルト発艦させ、上空待機させつつ作戦機が発艦、空中給油して攻撃目標へ……という形の運用をすることになるでしょう。攻撃陣に対して空中給油を終了したらMQ-25は一旦着艦、燃料を補給して再び上空で待機させることを繰り返して、作戦を遂行することになります。今までなら、空中給油機を帰還させたらパイロットを一定時間休息させないといけませんでしたが、無人機ならコントロールする要員を飛行中でも交代させることが可能なので、ずっと運用し続けることが可能です。

 24時間営業のセルフ式ガソリンスタンドのように、必要な時にずっと空にいてくれる無人の空中給油機。今回発注された4機のMQ-25スティングレイは、ミズーリ州セントルイスにあるボーイングの工場で製造される予定です。

Image:BoeingGeneral Atomics

(咲村珠樹)