警察に警察犬がいるように、軍隊にも犬は欠かせない存在です。周辺の警備や、その鋭い嗅覚で爆発物を探知したり、様々な場面で「軍用わんこ」は兵士と共に活動しています。もし、その軍用わんこが任務中にケガしてしまったら……?安心してください、そんな時のために、兵士たちは軍用わんこの手当てをする訓練を積み重ねているのです。

 アメリカ軍では、軍用わんこ(ミリタリー・ワーキング・ドッグ=MWD)のことを「K-9(ケーナイン)」と俗称しています。これはラテン語で「犬」を表すCanine(ケイナイン)という言葉から来た一種の略称。ここから、軍用わんこを飼育管理し、運用するセクションを「K-9 UNIT(ユニット)」と呼んでいます。

 K-9ユニットでは、軍用わんことペアを組むハンドラーと呼ばれる担当兵が、日頃の訓練から実際の任務に至るまで、文字通り「相棒」として活動します。お互いは深い信頼関係で結ばれ、ハンドラーは人間の戦友のような感覚になることもしばしばだといいます。

 アフリカのジブチにあるキャンプ・レモニエ。ジブチ国際空港に隣接し、ソマリアの海賊対処など、アフリカ北東部を所管する「アフリカの角共同統合任務部隊(Combined Joint Task Force – Horn of Africa(CJTF-HOA)」が司令部を置く場所です。日本の自衛隊も、海賊対処法に基づく派遣海賊対処航空隊(海上自衛隊P-3Cとその整備部隊)や派遣海賊対処行動支援隊(海上自衛隊と陸上自衛隊による基地業務と警護)の拠点を同じく隣接した場所に設けています。

 ここで2018年8月18日、負傷した軍用わんこの手当てをする訓練が行われました。参加したのは、指導役も兼ねる軍の獣医、そしてハンドラーや衛生兵ら現場の兵士たち。ぬいぐるみを使って、犬の解剖学的知識の講義と、それを踏まえた上での怪我の手当て法を学んでいきます。

 キャンプ・レモニエに駐在する陸軍の獣医、リチャード・ブレア大尉(獣医学博士)は、ここで任務に当たる陸海空軍・海兵隊の兵士に対して、軍用わんこの手当の仕方を教えていきます。

 「多くの人が負傷するような事態では、軍用犬も同じように負傷している可能性が高いのです。多くの兵士たちに、軍用犬が身につけている装具のポケットに応急手当て用のキットが入っているということを教え、それを有効に使うよう訓練しておけば、事態に対処しやすくなります」

 同じく陸軍の獣医、スティーブン・ペルハム大尉は、軍における犬の存在は今日の作戦において欠かせない存在であり、ケガの手当てを訓練しておくことは非常に重要だと言います。

 「この犬たちは爆発物の存在を探知し、多くの人を救うことができます。このような訓練を通じて、多くの犬を治療することができれば、またこの子たちと共に戦える状態を維持することができるんです」

 キャンプ・レモニエで救急救命施設を所管する、海軍のマーク・トーマス中佐は「ここの兵士たちが訓練する軍用犬の手当て法は、人間にも応用できるものです。実際にそのような、軍用犬を含む多くの負傷者が出た際に、必ず役に立つはずです」と訓練の意義について語っています。

 軍用わんこに対する応急処置の訓練は、キャンプ・レモニエだけでなく、各地のアメリカ軍施設で定期的に行われています。人と犬の信頼関係を築く上でも、こういう訓練は重要ですね。

Image:U.S. Department of Defense

(咲村珠樹)