ヘルプマークを導入・配布している自治体がある都道府県は、年内導入予定も含めて39都道府県(2018年7月23日時点)。7月20日には筆者の住む愛知県でも導入が始まり、交通機関車内にもヘルプマークを説明する車内広告が掲示されるようになりました。8月10には横浜でヘルプマーク啓発フリーライブも開催され、全国のあちこちで啓発活動が盛んになりつつあります。

 このヘルプマークは2012年に東京都が作成しました。外見だけではその障害や病、妊娠などがわかりにく人から、全国ヘルプマーク普及ネットワークが「身体機能等に特に基準を設けているわけではありません」と説明しているとおり、外見でわかりやすい障害やケガのある人まで幅広く身につけることが可能。2012年の東京都を皮切りに、徐々にその動きが全国に広まっている最中で、特に、これまで見過ごされがちであった外見だけではわかりにくい障害や病を持つ人にとっては様々な場面で、周囲の理解を得やすくするアイテムとして役立っています。

 それまでは、外見で障害がわかりにくいがゆえに電車の優先席に着座していたら注意された、ストーマ(人工肛門・人工膀胱)の処理のためにオストメイトのある多目的トイレに入ったら出てきた時に文句を言われた……など様々な問題が起きていました。このヘルプマークはそうした障害や病などを周囲にさりげなくお知らせするアイテムなのです。

 しかし、そんなヘルプマークも認知度はこれからといったところで、知らない事から生まれる偏見も依然としてみられます。今回はヘルプマークを持つ数人の人から話を聞き、まとめました。

■ 足を痛め、持病に若年性の糖尿病がある若い世代の人の例

 持病を抱えながら仕事をしているAさん(女性)は、足首を痛めて無理が利かない体。その為ヘルプマークを持つ事を決心したそうです。通勤の際には電車を使うAさんが怖いと思うのが、エスカレーターの片側を足早に通過していく人。こういう人はマークの存在にも気が付かず周囲に気を配る事もないのでとても怖く、駆け抜けていく振動も足に響いてかなり辛いという事です。特に下りで横側をすり抜けられるときの恐怖はかなりのものの様です。

 Aさんが感じるヘルプマークの認知度は大人の女性の方が男性よりも高いという事で、学生は座っていてもスマホに夢中になっている様子が多くみられるという事です。気が付いてくれた人は、それとなく立ち上がって席を譲ってくれるという事も。一方、外国人の方に対する認知度は全くと言ってないように感じるそうです。

■ 既往にクローン病を持つ働き盛り世代の例

 クローン病というのは大腸や小腸に炎症が多発し、腹痛や下痢、血便、体重減少を引き起こす国が難病指定している疾患。炎症が強い時は食事も制限され、いつ起こるか分からない腹痛や下痢に悩まされるこの疾患は健康な人にしてみれば想像を絶する状態。

 そんなクローン病を持つ都内在住のBさん(女性)は、内部疾患の割には体格が良く健康そうに見えてしまうらしく、自分の疾患についての不安もあった事からヘルプマークを手にしておこうと難病指定の書類更新のついでに保健所でヘルプマークの受理を申請しました。しかし、「今在庫が少ないので、貴女のような見た目が健康そうな人には渡せない」というまさかの返答。保健所内でもヘルプマークを持つ事についての正しい知識が周知されていないという事が露呈してしまいました。

■ 発達障害と白内障を持つ人の例

 新坂 時深さんは青森県在住の20代。4月にヘルプマークを付けていたら女子高生に声をかけてもらえた、という感謝のツイートが話題になりました。

 新坂さんは発達障害ゆえに大きな音に敏感で、パニックを起こしやすく動けなくなりやすい、人よりも疲れやすいという特性を持っています。さらに、若年性の白内障で視力にも不安がある状態。このため、自分が動けなくなってしまった場合に備えてヘルプカードをカバンに付けていました。このマークを付け始めて数年にして初めて、声をかけてもらえた事に感謝したという新坂さん。青森で他に付けている人も見かけず孤独を深めていたところでの声掛けが本当にうれしかったといい、もっと広まって欲しいと思っているという事です。

■ 双極性障害を持つ女性の例

 千葉県在住の中山さゆりさんの体験談。かつては躁うつ病と呼ばれた「双極性障害」が持病にあり、急なめまいを起こしやすく、乗り物酔いも強く出るそうです。そんな中山さんは人混みの中へ出る時は必ずヘルプマーク・カードを身に付けています。電車に乗る機会も度々あり、混雑時を避けるに避けられないという事もしばしば。そんな時はめまいからの転倒を防ぐためにも座っていたほうが良いのですが、なかなか座るチャンスが巡ってこない事も。その為、やむを得ずロングシートで立って吊革につかまっているのですが、ヘルプマークを見つけた人から席を譲ってもらう事は度々あるという事です。

 席を譲ってくれる人は、快く譲ってくれる人もいれば、イヤイヤな感じで譲ってくれるという人もいるそうで、マークの認知度は上がったものの「マークを持っている人がいるから仕方なく」譲っている人もいるようす。バツが悪い思いをする事もあり、気持ちよく譲ってもらう気になれない時は他の人に先に座ってもらう事もあるそうです。

■ ヘルプマークを何故持つのか

 ヘルプマークは、文字通り「助けて欲しい」という意思表示のためのもの。しかし、先の4つの例をみてもその助けて欲しいという原因の内訳はさまざまです。筆者が個人的に採ったアンケート結果によると、全体の54%が精神疾患、29%が心臓や消化管の疾患、次いで視聴覚や感覚器の障害と続いています。これらに共通して言えることは、「第三者の目には分からない事」であるといえます。

 うつ病は日本人の15人に1人はいるというほど身近な疾患。また、うつのベースには発達障害や生い立ちに関連するコミュニケーションの困難もあり、自分からはなかなか上手く言葉で表現しにくいという人も多くいます。心の病気と言われてきた脳の疾患や、特性の偏りは今でこそネットを中心にカミングアウトする人が増えてきたものの、実際にはまだまだ偏見も残っています。

 また、視覚障害でも白杖を持っている人はみな全盲と思っている人も依然として少なくなく、顔色は悪くないが心臓に先天的な疾患を抱えていて長時間の無理が困難という人など、私たちが気が付かない所で、健康な人には分からないものを抱えながら生活している人は意外といます。今まで見過ごされ人の何倍もの労力を要してきた人たちにとって、ヘルプマークやカードというのはその人よりも多く必要な労力に気が付いてもらい、必要な助けを得るためにとても分かりやすいシンボルマークと言えます。

■ 必要な助けを適切に行うこと

 ヘルプマークを見かけた人が感じる事は「どう声を掛けたらいいのかな」「自分に何かできる事あるのかな」という事が多いと思います。何をしたらいいか分からず、結局尻込みしてしまうという人もいるのではないでしょうか。でも、そこで見て見ぬふりをしてしまうのも何となく後味の悪さを感じる事にもなるのでは。

 もしヘルプマークを付けている人を見かけたら、まず、困っているかどうか少し観察してみて下さい。自分が電車のシートに座っていて見かけたら、まず席を譲ってみるところから始めてみると声を掛けやすいかもしれません。

 ヘルプマークを付けていても、普段は大丈夫だけどとっさの事に対応できないという先述の様な人も結構いるものです。とっさの時ってなかなか場馴れしていないと体が助ける方向に動かないかもしれませんが、知識を頭に入れておくだけでも行動の選択肢は広まります。様々な事情を抱えている、助けが必要な人に必要な助けができるように、普段からも気を配れるといいですよね。

<参考>
全国ヘルプマーク普及ネットワーク(@helpmarknetwork)

<記事化協力>
中山さゆりさん(@magnoliatears)
新坂 時深さん(@FredMarks_)
他匿名2名

(梓川みいな)