2018年6月30日、ロッキード・マーティンが製造するアメリカ軍最大の輸送機、C-5ギャラクシーが初飛行から50年の節目を迎えました。半世紀の年月を経過しても、いまだアメリカ軍で最大の貨物搭載量を誇るC-5。その能力の一端をご紹介します。

 ロッキード・マーティンC-5は、1960年代にロッキードC-133カーゴマスター(1957年運用開始)の後継となる大型輸送機を選定する「CX-X(後に「CX-HLS」に名称変更)」計画に基づいて開発が始まりました。各社が設計案を提出しましたが、ロッキード、ボーイング、ダグラスの3社案が最終審査へ進み、1965年4月にロッキード案が採用されることに決定しました。この決定の裏側には、当時のジョンソン大統領による政治決断があったとされています。この審査で落選したボーイング案が、のちにパンアメリカン航空の要望により、ジャンボジェットことボーイング747の原型となったのは有名な話です。

 詳細設計がまとまり、ジョージア州マリエッタの工場で初号機の組み立てが始まったのは1966年8月のこと。1年半近い組み立て期間ののち、初号機(C-5A)が完成したのは1968年3月2日でした。この完成披露式典では、当時のジョンソン大統領が幼い孫パトリック・リンドンくんとともにスピーチを行いました。地上試験をこなし、マリエッタのドビンス空軍基地で初飛行を行ったのが1968年6月30日です。各種試験飛行を済ませたC-5Aが引き渡されたのは1969年12月17日。1970年6月6日から実戦配備が始まりました。

試験飛行中のC-5A

試験飛行中のC-5A

 最初の海外派遣任務となったのは1970年7月9日のこと。ベトナム戦争最中の南ベトナムで空輸任務につきました。その後もC-5はアメリカが参加した多くの戦争や武力行使に伴い、世界各地に派遣されました。ミサイルに狙われた経験も1度や2度ではありません。

1970年9月・南ベトナムのカムランベイ基地にて

1970年9月・南ベトナムのカムランベイ基地にて


イラクでミサイルが至近距離で爆発し、破片を被弾したC-5の外板

イラクでミサイルが至近距離で爆発し、破片を被弾したC-5の外板

 また、軍事物資だけでなく、自然災害の被災者救援のため、支援物資を運ぶこともあります。大きな積載量を持つC-5は、一度に多くのものを拠点に運ぶことができるため、被災者救援でも大きな能力を発揮します。

ハリケーン「リタ」の被災者救援を行うC-5

ハリケーン「リタ」の被災者救援を行うC-5

 現在は2002年に初飛行した最新型のC-5Mスーパーギャラクシーに更新されつつあります。このC-5Mは旧来のアナログメーターの計器に代わり、コンピュータディスプレイによる統合計器システム(グラスコクピット)化されたほか、エンジンもより強力なF138-GE-100(民間機向けではCF6-80C2)に換装されたことで、最大積載重量が20%増加したほか、離陸滑走距離が30%短縮され、上昇率も38%向上しています。


 全長75.53m、全幅67.91mと巨大なC-5の特徴は、その並外れた積載量にあります。操縦席を上部に設置し、機首と尾部に大型の貨物用ドアを設けた関係で、太い胴体のほとんどを貨物室にすることができました。M1エイブラムス戦車なら2両まとめて入ります。また、通常サイズのトラックなら、2列に並べて6両が積載可能。ローターを外した大型輸送ヘリコプターCH-47も、2機がすっぽりと貨物室に収まります。



 また、飛行機を運ぶこともあります。主翼を外した状態でF-14やF-16を空輸したことも。C-5のコクピットセクションを輸送したこともあります。2009年9月13日には、最新型のC-5Mによって、80トン超の貨物を積載して高度1万2500mまで24分足らずで上昇するなど、合計で41もの輸送機による世界記録を達成しています。



 この並外れた積載量ゆえ、1974年10月24日にはICBMの空中発射試験に成功したこともあります。太平洋上空約6000mで、機内に積載した台座に乗せられたLGM-30ミニットマンを後部貨物ドアからパラシュートで投下。約2400m落下するうちに、パラシュートで垂直姿勢になったミニットマンはそのロケットモーターに点火、10秒間のエンジン燃焼で再び高度6000m以上に達し、C-5ならばICBMを空中から発射可能であることが示されました。これはあくまでも可能性を探るために行われた試験のため、現在ICBMを空中から発射しようという計画は存在していません。

 現在、アメリカ空軍では従来型のC-5を52機のC-5Mに更新する計画が進行中です。この計画が完了すると、C-5は少なくとも2045年までは現役にとどまる予定になっています。アメリカを代表する巨大輸送機は、まだまだ様々な物資を世界中に運び続けることでしょう。

Image:USAF

(咲村珠樹)