日本で初めて極地観測用に造られた砕氷艦「ふじ」(文部省の予算で建造され、海上自衛隊が運用を担当する船です)。今は名古屋港ガーデンふ頭に展示されています。昭和40年3月に生まれて約19年の間、南極の研究に大活躍したふじとその乗組員たちが遭遇した南極でのエピソードを漫画化したものがネット上で公開され、話題となりました。

 日本の海上を活躍する船たちを魅力的に擬人化しているツイッターユーザーの“うみ@ふね擬”(うみ)さんが、「ふじと南極のなかまたち」というハッシュタグで公開している、南極観測船ふじとペンギンたちのエピソード。ふじが南極の昭和基地に接岸する辺りからのペンギンたちとのやりとりなどが4コマ漫画にまとめられています。

 当初は海面を覆う氷を突き砕きながら陸地へ接岸を計画していたふじ。しかし、その氷の上で物珍しそうに見物に群がるペンギンたち。ものすごいガン見したまま、どれだけサイレンを鳴らしてもペンギンたちは氷の上から一歩も引かなかったようです。仕方なく、それ以上進むことをあきらめ、その場で海氷に横付けしたふじ。

 天敵もいない場所で長らく暮らしていたペンギンたちにとって、よそから来た者は恐怖ではなく興味の対象だった模様。人間たちを見ても逃げるどころか、船の中に入り込む事もしばしばでした。氷の上に作られたヘリポートからヘリを飛ばそうにも、ペンギンたちが近づいてしまい危険と判断した乗組員たちは……

「危険 ペンギンは立ち入り禁止」

の立札を立てたそうです。もちろん、全く効果がなかったことは言うまでもありませんでしたが。

 そんなペンギンたち、船の中に上がり込んでくると隊員たちの手によって降ろされるのですが、隊員たちがペンギンを下船させる時にまず行ったのが「写真撮影」だそう。ウチの編集部員が南極観測船の乗組員として南極観測の輸送任務に長年従事した海上自衛隊の方に聞いたところによると、ペンギンやアザラシなど、南極に生息する動物は、生態系を守るため、むやみに人間が近づいてはいけないという決まりになっているそうです。しかし向こうから近づいてきた場合は「仕方がないこと」なので、そばで写真を撮ったり、危険な場合は抱きかかえて移動させることができるとのこと。ペンギンたちと記念撮影してはしゃぐ隊員の皆さんを想像すると何だかほっこり。

 南極では海の下にいる生き物も研究と食の対象。釣れた魚は既知のものであれば天ぷらなどにしていたようですが、初めてタコが釣れた時には一度研究用に回したものの、次(既知のものになってしまうので、理論的には食べても大丈夫)に食べる機会があったかどうかは不明だったとの事。このタコの食感については後に南極の海洋研究に向かったママさん隊員の手記「ママ、南極へ行く!」(主婦の友社刊)により明らかにされています。日本人なら色々調理したくなるようです、タコ。

 この漫画がツイッターに公開されると、「ふじの事知らなかったけどすごく興味を持った」「ペンギンたちとの様子にほっこり」「地元だけど知らないエピソードばかり」「子供の頃に見た船内の展示マネキンが怖かった記憶があったけどこの漫画を見て別の見方ができるようになった」などなど、感想が寄せられています。

 うみさんによると、この漫画の出典となったのはふじの初代・第3代艦長を務めた本多敏治さんが執筆したエッセイ「『ふじ』南極航海記」(朝日新聞社・1966年刊)とのこと。艦長の体験がまとめられているこの本には南極での様々な局面とともにこうした和む一面も記されています。本多さんは戦争中駆逐艦の艦長を務めた経歴を持ち、「ふじ」の艦長を複数回務めた唯一の人物です。

 現在の南極観測船に比べるととても小さく見えてしまう「ふじ」。しかしながらその体にはたくさんの歴史と研究成果を積み込んで今も名古屋港で観光客や遠足に来た子供たちを出迎えてくれています。こんな漫画を見てからふじの中を見学したら、もっと楽しくなりそうです。

<記事化協力>
うみ@ふね擬さん(@umi_sousaku)

(梓川みいな)