静かな住宅街に突如として現れるピンクの館「あさくら画廊」。東武伊勢崎線の竹ノ塚駅から15分~20分ほど歩いていくと、通りの少し奥まったところにその館は現れます。

 生活感あふれる近隣住宅の様相とは違い、度肝を抜かれるほどピンクな作品が乱雑に飾られています。入り口から「ギョッ」としてしまいましたが、意を決して取材をしてきました。

 「すいません。すいませーん!」と玄関前で声をかけても反応がなく、もしかしてまだオープンしていないのか……と少し不安になりながら待っていると、家の奥のほうから何やら音が! するといきなりガチャッとドアが開き「どうもー」と画廊のオーナー辻修平さんが登場。おぉー、この人がメルヘン狂気な世界を作っている張本人か! と少し警戒しながらも、入場料の1000円を支払い部屋の中へ。

 「それにしても、ピンクだらけですね。玄関を入ってすぐ縄はしごですか!? すごいですね。天井にもお菓子の空箱を飾ってあるんですね」というと、「ピンクだらけなんですよー。ガハハハ」と豪快な笑いを浮かべる辻さん。早速、家の中を案内してもらうと、外だけでなく中も凄まじいことに!


 1階は、作品の展示スペース兼キッチン。トイレ、バスも完備しています。辻さんはこちらの館に住人として住んでおり、ぬいぐるみたちが縄跳びでグルングルンに巻かれ、いかにも用を足しづらいトイレに、頭を日本刀で貫かれた血まみれ某クマさんが鎮座するお風呂場も日ごろ使用しているとか。こちらは使用したらまたもとの状態に戻すという大変面倒な作業を毎回行っているそうです。それにしても、辻さんの脳内はどうなってんだと思うほどぶっとんだ作品が次々と目に飛び込んできます。





某クマのぬいぐるみ 色々不安なので画像は編集部で一部処理をほどこしています


 「ころす」と念仏のように装飾されたピンクの「人力コーヒーカップ」。中に人が入り、柄を誰かに押してもらって回すそう。……想像しただけでシュール過ぎる。

 そして部屋の横には、この家の元々の家主である辻さんの祖母「あさくらさん」の祭壇がありました。かわいい菩薩のような置物の上にはおばあちゃんの似顔絵が飾られています。しかし妙なのが、その祭壇の下にある骨壺チックな置物。「この地で死にゆく気分はどんなだい?」と、また意味不明なうちわがささっており、不気味さを醸し出しています。


 2階に上がるまでの階段には、ところどころに靴が置かれ、これはトラップかとツッコミたくなるほど上りにくい。しかも、上り終わる途中に突如として階段の一部が取り外され、滑り台になっているデンジャラスゾーンを発見。思わず踏み外してしまうかとヒヤヒヤものでした。なんでも、近所の小学生がこちらの画廊に遊びに来た際に、「滑り台に乗りたい!」と言ったのをきっかけに、辻さんが階段の一部を取り外して作ったとか。しかしながら、今やその小学生もこなくなったという、悲しいお知らせを聞かせていただきました。

 無事上りおわると目の前にはブランコが! 2階はアトリエになっており、こちらで絵を一日中描いているそうです。もう作品が溜まっていく一方で置き場がないと困っているとか。

 さらに、屋上にも上がれるということだったので、さっそくはしごを上ってみると、屋根がギシギシきしむ音が……今にも屋根が落ちそう……。恐る恐る屋上に立ってみると、目の前には「素数」が無数に貼られ、屋根の上には底がくり抜かれたベッドとテーブルが備え付けられていました。




 辻さんいわく「この素数でUFOを呼び寄せているんですよ、そのうち来るんじゃないですかねー」と本気なんだかジョーダンなんだかわからないテンションで話す辻さん。やっぱり変人だと確信したあと、また2階に下りて、せっかくなので雑談をしながら似顔絵を描いてもらうことに。似顔絵は1000円で承っているそうで、クレパスやクレヨンを使い、20分ほどで描き上げてしまうとか。

――辻さんは、何歳なんですか?

今年で40歳ですね。

――辻さんは、いつから「あさくら画廊」を始めたのですか?

ここで始めたのは6年前だから2012年ですね~。34歳の時。それまでは、実家が豆腐屋をやっていたんですけどそれが梅田にあって、その店をたたむ際に「ここで何かやってみたら?」といわれて暫くそこで「仙石画廊」と名付けて絵画を描いていました。今の作風とはちょっと違ったものを描いてましたね~。

――普段の来客数はどれぐらいですか?また、何才ぐらいの方が来られますか?

平日は、1人来ればいいほうですかね。この前は10代の若者2人が「殺される覚悟できました!」と言って、そんなまでしてこなくても、と思いましたけど。もの好きな人もいるんだなと思いましたよ。僕だったら、絶対こんなとこ来ないし。

――海外の方も来られたりするんですか?

この前、ロンドンに住んでるという方が来ましたね~。ぼくは、全然英語しゃべれないんですけど、その人の似顔絵描きましたよ。その人、スマホで日本語に翻訳して、似顔絵描いてほしいってわかったから、なんとか意志疎通できたかな。やっぱり、日本人の顔と違って彫りが深いんだなと思いましたね。

――本がピンクに塗られて山積みになっていますけど、どんな本を読まれるんですか?

フィクションが好きですかね~。人間の○○について、みたいな……。

――一日中ここにいるんですか? たまに発狂したくなるほど誰かとしゃべりたいとか、一人でいるとストレスがたまるといったことはないんですか?

一日中ここにいますね。誰かとしゃべりたいと思うことはあるけど、発狂したりはないですね。アルコールも飲まないし、そこまでストレスたまったことはないです。そもそも絵を描くことは孤独な作業だから、一人でいることに平気でいられる人じゃないと続けられないっすよね~。

――人生相談をされることも多いんじゃないですか?

そうですね~。この前はかなりヘビーなやばい環境で生活してる20代の女の子がきましたよ。絵を描いて帰っていったんですけど、いろんな人がきますね。

――たまに、ふらっと変な人が入って来たりはしないんですか?

ありますよ、今までに一人いました。勝手に中に入ってきてすぐに出ていきましたけど……。

――いつも何を食べているんですか? 料理とかはするんですか?

自分でカレーとか作ったりしますけど、すごいまずいんですよね、作っても。あとは、この前まではホットケーキをかなりの間食べていました。だいたい、ひよこ豆とか豆を食べてますかね。これ食べとけば、栄養とれるかな~って。

――結婚はしないんですか?

しますよ~。する予定ないんですけどね。

――アトリエでもありますが、辻さんの生活空間でもありますよね。そこに他人が入ることって嫌ではないんですか?

それはないですね。ここで生活はしていますけど「ここが、僕の作品なので」。

 と、穏やかな雰囲気で話をしているうちに似顔絵が完成。さっそく見せてもらったところ、実物よりも目が大きく、二十顎も影でぼかしてかなり忖度して描いていただきました。

 それにしても、町の雰囲気に似つかわしくないピンクの館にご近所も迷惑してるのでは? と辻さんに伺ってみたところ、「昔からの顔なじみばかりで今までに近所の方からの苦情も無い」のだそう。

 「あさくら画廊」は6000万円で売り出されているらしく「将来は可愛い宇宙人の嫁さんを見つけて、あさくら画廊ごと宇宙にもっていってくれることが夢」と、なんともトリッキーなことをまじめに言う辻さんは、最後までどんな人か掴めない人でした。

 辻さんの気まぐれにより臨時休業することもあるようですが、基本的な営業時間は、水曜日を除く7時~19時まで。デカ目のかわいい女の子の絵画や、エッジの効いた異次元の作品が所狭しと飾られた「あさくら画廊」。興味を持たれた方は、ぜひ「殺される覚悟」で訪れてみては?








<取材協力>
あさくら画廊
HP:http://asakura11garo.web.fc2.com/
Twitter:https://twitter.com/hiroto606

(取材:黒田芽以)