NORAD(北アメリカ航空宇宙防衛司令部)が創設されて60年となる2018年5月12日、これを記念する各種の式典が行われました。

 1956年後半からアメリカ、カナダ両国間で協議を重ね、1968年5月12日に合意文書に調印し、正式に発足したNORAD。現在の司令部があるコロラド州のピーターソン空軍基地で、創設60周年の記念式典が行われました。この60周年を記念するロゴは3種類作られ、アメリカは青と星、カナダは赤とメイプルリーフが象徴として使われています。



 まず5月11日に、基地の司令部庁舎前にこれまでの60年の歴史の中で殉職した人々の慰霊碑が建立され、カナダ空軍のディスプレイチーム、スノーバーズとCF-18デモチームが共同で、死者の魂を送るミッシングマン・フォーメーションを披露しました。


 そしてカナダ政府高官らが、かつて2006年までNORADの司令部が置かれていたシャイアン・マウンテン空軍基地の施設を見学。現在のピーターソン空軍基地近くにある、シャイアン山の山体をくりぬいて建設された地下壕の基地施設で、ソ連による核攻撃が行われた場合でも指揮系統が失われないように作られた施設でした。地下610mに3階建の施設が15か所、合計でおよそ2ヘクタールの空間が広がっています。これらの施設は免震構造になっており、地震や核攻撃の振動から施設の機器が守られるようになっています。入り口の扉は、重量25トン。2kmの距離で30メガトン級の核爆弾が爆発しても耐えられるような作りになっています。もちろん、各所にある換気口にはフィルターが付いており、あらゆる化学兵器、生物兵器、そして核兵器による影響を排除しています。


 この基地は、1983年の映画「ウォーゲーム」や、1996年の映画「インディペンデンス・デイ」で司令部としてロケ地にもなっています。現役の基地施設がそのまま映画のロケ地になってしまうのも、軍の広報戦略の違い(初めから見せないのではなく、公開しても機密がどれなのか、一見して判らないようにしてある)を感じますね。2006年に司令部機能がピーターソン空軍基地に移され、施設は休眠状態に入っていましたが、2015年からはいざという時のため、通信・指揮のための機器を再度移設しています。

 5月12日に行われた祝賀食事会では、退役軍人を代表して98歳になる元カナダ空軍パイロットのスウィーナー氏、NORADの司令官であるアメリカ空軍のロビンソン大将、そして下士官兵代表としてアメリカ陸軍のハウザー特技兵が、祝賀ケーキに入刀。スウィーナー氏は戦争中、乗機が撃墜されて敵方の捕虜になり、脱出した経験を持つ人物です。

 また、今回の祝賀飛行に参加するカナダ空軍のディスプレイチーム、スノーバーズとCF-18デモチームから、アメリカ側に記念パネルの贈呈も行われました。スノーバーズとCF-18デモチームは、アメリカ空軍のF-15、F-16、F-22と式典で祝賀飛行も行なっています。


 NORAD創設60周年の記念式典では、カナダ軍の制服トップであるヴァンス陸軍大将、NORAD司令官のロビンソン空軍大将(女性)アメリカ軍の統合参謀本部副議長のセルヴァ空軍大将が出席。両国の国歌が歌われた後、これまでのNORADにおける両国の友情と協力について、それぞれがスピーチを行いました。


 祝賀飛行ではカナダ空軍のCF-18デモチーム(NATO創設60周年記念のデザインに塗装された機体)、アメリカ空軍のF-15C、F-16C、F-22Aが編隊を組んでフライパス。続いてカナダ空軍のディスプレイチームのスノーバーズがディスプレイを行いました。



 NORADは北アメリカ地域における弾道ミサイル防衛など、航空宇宙に関する監視と迎撃が主任務。これと並行して、宇宙空間に散らばる廃棄された人工衛星や、宇宙空間に漂う打ち上げロケットの残骸などといった宇宙のゴミ「スペースデブリ」の監視も行なっています。そして、毎年クリスマスイブには、サンタクロースの追跡を行うことでも有名。できればスペースデブリの監視とサンタクロースの追跡が主体の活動でいられる、平和な世の中でいてほしいものです。

Image:United States Department of Defense

(咲村珠樹)