2018年3月14日(現地時間)、オーストラリア政府は陸軍の新しい偵察戦闘車(Combat Reconnaissance Vehicle=CRV)に、ドイツのラインメタル「ボクサーCRV」を採用すると発表しました。

 オーストラリア陸軍の新しい偵察戦闘車選定は、現在進められている装甲戦闘車両の更新計画「LAND 400」の第2段階(フェイズ2)。威力偵察や警戒任務に使用する装甲車で、イギリスのBAEシステムズが提案する「AMV35」(フィンランドのパトリアAMVをベースとしたもの)、ドイツのラインメタルが提案する「ボクサーCRV」(多用途装甲車ボクサーの偵察型)が最終候補となり、2017年から実車を用いた選考テストを約1年がかりで続けてきました。どちらも8輪式の装輪装甲車で、回転式砲塔に大口径の機関砲を1門備えたものです。

ボクサーCRV(左)とAMV35(右)(Image:Commonwealth of Australia 2017)

ボクサーCRV(左)とAMV35(右)(Image:Commonwealth of Australia 2017)

 ちなみに、どちらも採用された際にはオーストラリアの現地法人(BAEシステムズはヴィクトリア州、ラインメタルはクーンズランド州に所在)で製造することになっていたため、オーストラリア経済に貢献することは確定。そのため、選考テストは純粋に「偵察装甲車としての性能」が陸軍の要求にどちらがより適合するか、というガチンコ勝負となっていました。その結果、ボクサーCRVが選定されたという訳です。

選考テスト中のボクサーCRV(Image:Commonwealth of Australia 2017)

選考テスト中のボクサーCRV(Image:Commonwealth of Australia 2017)


選考テスト中のAMV35(Image:Commonwealth of Australia 2017)

選考テスト中のAMV35(Image:Commonwealth of Australia 2017)

 ボクサーCRVは、多用途装甲車のボクサーをベースとし、車体上面にラインメタル製WOTAN30mm機関砲(30mm×173)を1門装備した「LANCE」回転式砲塔システムを装備しています。この砲塔は2名、もしくは無人リモートコントロールで運用可能です。周辺を警戒するシステムとしては、地元オーストラリアのテクトニカ・オーストラリアの「ALTERA」を採用。可視光や赤外線による画像と音声を記録しながら偵察することができます。もちろん、得られたデータは火器管制装置とリンクさせて戦闘にも用いられます。

回転式砲塔LANCE(Image:Rheinmetall)

回転式砲塔LANCE(Image:Rheinmetall)

 これからの陸上戦闘には必須のC4IやC2といったデータリンクシステムにも対応。ボクサーCRVで得られたデータをそのまま他の装甲戦闘車両などで共有し、効率的な戦術運用が可能です。

 オーストラリアは総額52億オーストラリアドル(約4330億円)で、211両のボクサーCRVを調達します。ラインメタルはオーストラリアにある現地法人のほか、約40社に及ぶサプライチェーンをオーストラリア国内に持っており、トータルで1500人ほどの雇用がオーストラリアに生まれるといいます。

 また、これ以外にも政府は、ボクサーCRVが運用される予定のヴィクトリア州とクイーンズランド州、合わせて4ヶ所の施設を2億3500万オーストラリアドル(約195億8000万円)で改修する予定。こちらの工事に関しても新たな雇用が生まれることになります。ある意味オーストラリアにとって、この偵察戦闘車の選定は、大きな景気対策にもなるのです。

Image:Rheinmetall/Commonwealth of Australia 2017

(咲村珠樹)