海上自衛隊には週末の昼にカレーを食べる習慣があります。週休二日制の導入前は土曜の昼、週休二日制が導入されて以降は金曜昼に出されており、「海上自衛隊カレー(海自カレー)」のほか「金曜カレー」と呼ばれることもあります。

 その金曜カレー。単なる伝統や、よく言われる「曜日感覚を保つため」という理由ではなく、今に受け継がれるだけの理由があるのかもしれません。その可能性を示唆する調査結果を、3月6日にエスビー食品が発表しました。

■金曜カレーの理由「曜日感覚を保つため」は実は後付け?

 毎週末カレーを食べる理由として、長い航海の交代勤務の中で、失いがちな「曜日感覚を保つため」というのが広く知られています。毎週同じ曜日に同じメニューを食べることで、曜日感覚を呼び覚まそう。ということですね。

 しかし、海上自衛隊の公式サイトに「いつの頃からか規則的(週末)に食べる慣習が定着してからの説明と考えられます」と有る通り実は後付け説が濃厚。

 土曜時代に給養員(一般で言うコックさん)が半ドン(半日)で上がるため、サクっと作れて片づけの楽なメニューがカレーだったから……という説の方が、習慣化の理由としては現実的と言われています。まるで本音と建て前みたい。

 でもなぜ週末規則的に食べる習慣が未だ残っているのでしょう。ひとくくりに「伝統」と言えば簡単ですが、海上自衛隊は船上という狭い空間での活動が前提のため、無駄な動きはとことん嫌い、少ない労力で高い結果を重視する「効率主義」の傾向があります。

 このため、もし調理の効率が理由ならば、現代は昔にくらべずっと楽なはず。金曜にカレーを食べる文化なんてとっくの昔に削られていてもおかしくありません。

■家庭でもカレーを食べる機会が多い曜日は「金曜日」

 エスビー食品の発表では、冒頭海自カレーの存在に触れつつ、株式会社ライフスケープマーケティングの「食MAP(R)データ」(「家庭での夕食時 カレー食卓登場頻度<曜日別>」対象期間:2017年1月~12月 対象世帯:2人以上世帯)で、家庭でカレーを食べる機会の多い曜日は「金曜日」ということが分かったと知らせています。

 そこで、普段自宅で手作りカレーを食べている全国の20代~50代の既婚の子供がいる男女各500人・計1000人(10歳刻みで250人ずつ)を対象に「家庭での手作りカレー実態調査」を実施。その結果をうけ、脳波実験も行っています。

 調査では1000人の中から、「金曜日に家庭で手作りカレーを食べると答えた人(494人)」を抽出。その人たちを対象に「金曜に手作りカレーを食べる理由」と「金曜日に手作りカレーを食べたくなる理由」を聞いています。これらの回答は「子供(家族)が好きだから」「準備や調理が楽」「食べると元気がでる」と、ある程度想定内。

■カレーを食べた日は普段より安眠効果が高く次の日の体調もいい?

 しかし、次の質問「金曜日の手作りカレーの効果」では、「金曜にカレーを作ると土日にゆっくりできる」という理由の次に、「金曜にカレーを食べると、土日も幸せな気持ちで過ごせる」、「土日家族の仲がいい」、「一週間のストレス解消になる」、「土日の体調がいい」、「土日、寝起きがいい」、「金曜にカレーを食べながら飲むと、二日酔いになりにくい」という自身や家族のメンタル、健康に与えるプラスの影響が割りと高い数値で挙げられています。

金曜日の手作りカレーの効果

 さらに睡眠に関する質問では、ほぼ土日に休日をとっている人(851人)を抽出。一週間通して、睡眠満足度を調べると、予想どおり「土曜日」(67.2%)、「金曜日」(48.9%)、「日曜日」(47.2%)と週末に高い数値が集中しています。

 ところがこれに、カレーを食べた日を重ねると、さらに全ての曜日で平均して約4.8%高い満足度を示しています。もちろん、週末の満足度もその分上がっています。

 実はこれらの結果にはうなずくものがあります。そもそも海上自衛隊の前身となる海軍時代、カレーがメニューに採用された理由は、栄養豊富、一度に大量を作るのが容易、美味、さらにはスパイス(生薬)を贅沢につかった料理ゆえに、医学的に見ても新陳代謝の促進など健康効果が期待されるものであったから。

 実際、スパイスの効用には肝臓の働きを助けるターメリック(ウコン)、健胃作用のあるシナモン(桂皮)、クローブ(丁子)、ジンジャー(生姜)などがあります。つまりカレーは、簡単に作れる養生料理ということなんです。

■脳波を見ると…カレーを前にした子供のアゲアゲ反応がすごい

 さて、話を戻すと、この調査ではさらに深堀りすべく、脳波での実験も行われています。

 実験ではカレーを家族団らんの席で食べたいという回答が最多であった先の調査結果を参考に、家族全員で食べてもらって、脳波に与える影響(効果)を、同じように温かく香りがよく、スプーンで手軽に食べられる家庭の人気メニュー、ハンバーグとの比較の上、検証しています。

 被験者はカレーもハンバーグも双方好きな人が条件で、参加したのは父、母、小学校5年生以上高校生以下の子供計3人のユニット4家族(n=12)。実施順は、結果に偏りのないよう家族毎にカレーとハンバーグの順番を変更して行われています。

【好意度:香りをかぐ前後の安静状態(10秒間平均の差)】

 まず、目を閉じた状態(視覚情報がない状態)でカレーの香りをかいでもらったところ、香りをかぐ前と比較して、10秒間の「好意度(好ましい状態、うれしい状態の時に上昇する脳波)」の差が、親の場合はハンバーグが1の差でやや有利。

 しかし子供では逆転の上、差が顕著に表れており、カレーの方が約10も高い数値。つまり子供はカレーのにおいだけで一気にテンションが上がり喜んでいることがわかります。まさにアゲアゲ状態といったところ。

・親:カレー 1.5 ハンバーグ 2.5
・子:カレー 10.8 ハンバーグ 0.2

好意度:香りをかぐ前後の安静状態(10秒間平均の差)

【好意度:食事前後の安静状態(各2分間平均の差)】

 次に「好感度 食事前後の安静状態」(各2分平均の差)を調べると、親、子ともにハンバーグがマイナス数値を示し、対しカレーはプラスに。カレーの方が親子ともに、食後の好感度が高いことがわかります。

・親:カレー 0.3 ハンバーグ -1.1
・子:カレー 0.2 ハンバーグ -0.2

【ストレス度:食事前後の安静状態(各2分間平均の差)】

 「ストレス度 食事前後の安静状態」(各2分平均の差)についても比較すると、カレーとハンバーグの食事前後では、双方ともに「ストレス度」は減りつつも、カレーの方がより軽減させる可能性があることがわかりました。

 特に子供でその傾向は顕著。まるで先ほどのアゲアゲとは一転、スヤー(心穏やか)といった雰囲気。子供ってわかりやすいですね(笑)。

・親:カレー -1.7 ハンバーグ -1.3
・子:カレー -8.2 ハンバーグ -0.1

ストレス度:食事前後の安静状態(各2分間平均の差)

■効率的に体を休ませるのに有効?

 これらの結果を見つつ、そろそろ冒頭広げた風呂敷を閉じる体制に入らせていただきますと、脳波だけでもカレーの方がリラックスおよび幸福感を得られていることがわかります。さらに週末という環境を重ねますと、先に触れたとおり養生効果のある料理であることから、休息の効果をより高めるため取り入れる栄養として適していると言えるでしょう。

 そうなると……海自に伝統的に受け継がれる週末のカレーも、単なる伝統や曜日認識を保つためという理由だけではなく、効率的に体を休ませるため。という風にも考えられます。若い隊員が多いですしね。

 今回の結果でわかる通り、カレーは特に若い人に反応が強くでるようです。もしこの考えが分かった上、習慣化されているのなら、海自の傾向「効率主義」に一致するものがあります。ま、憶測ですが。でも本当なら策士すぎる……。

 ある意味、養生食でもあり、幸せを招くメニューとも言えるカレーライス。思った以上にその実力はあなどれないようです。休息前の金曜カレー。真意はわかりませんが、真似してみる価値はあるのかもしれません。

<出典>
エスビー食品・2018年3月6日発表「金曜日のカレーで家族の幸福度が増す可能性
海上自衛隊・「艦めし」海上自衛隊のカレーの秘密

(宮崎美和子)