夜眠れないという経験をした人、多いと思います。しかし、ちゃんと夜寝ているのに昼間突然寝てしまう、24時間のうちの睡眠リズムが健康な状態から外れてしまうという症状も実はあります。そんな人のために「突然眠りだす」事を何となくでも理解してもらえる“あるもの”が話題になりました。

 この“あるもの”とは、美大生であるキューさんが制作した美術品の展示用プレート。
「よく眠るひと(Hypersomnia) 2018年 彫刻」という題名などが書かれているこのプレートと、その隣には「写真撮影OK」のプレート。美術品の展覧会などで見られる感じのアレです。

 「私は過眠症なのですが、ひとといるときにどうしても眠くなったときはこれを出すと大抵笑いながら寝かせてくれるのでオススメです」

 とツイッターにこのプレートの写真を投稿しています。この発想、とても美術系の人っぽい……。

 このツイートが投稿されると、様々な過眠な人から反響が。「私も過眠症だけど周囲には理解してもらいにくいからこれは素敵」という声が多く寄せられています。「自分のマイナス面を笑いやユーモアに変えられる強さが素敵」とも。

■意外と知られていない「過眠症」

 このキューさんの「過眠症」、実は様々な原因で起こりうる状態。原因が不明な場合(特発性過眠症)もあります。朝なかなか起きられなかったりとか日中気が付いたら眠っているといった事が起こる為、不眠症と違いただの居眠りとか怠けている、などといった見方をされがちなのですがこの「過眠症」も「不眠症」と同じく「睡眠障害」というカテゴリに分けられます。

 睡眠障害には、大きく分けて「睡眠中の身体の症状のために深く眠ることができず、慢性の睡眠不足となってしまうもの」と「脳の中の睡眠を調節する機構がうまく働かず、日中に強い眠気が出現するもの」の2種類に分けられます。夜間眠っている時に突然呼吸がしばらく止まってしまう「睡眠時無呼吸症候群」が居眠り運転による交通事故で一時期大きく取り上げられたことがありますが、これは前者に当てはまります。
 「ナルコレプシー」は後者の一つで過眠の代表的なものとして知られています。また、うつ病の8割が不眠なのに対し、1割に過眠がみられることも研究で明らかにされています。
 前者の場合はどれだけ寝ても脳に酸素が正常に行きわたらない状態が続くため、結果として睡眠不足と同じ状態に脳が陥ってしまいます。後者の場合は充分な睡眠をとっていても日中に突然眠ってしまい、日常生活に支障をきたす事が大きな問題となります。

■「睡眠発作」と呼ばれるくらいに突然眠る

 ナルコレプシーに代表されるような脳の調節機能障害による過眠は夜間の睡眠が長さも質も問題がないのに起こります。つまり、“怠けや甘え”ではない障害のひとつです。しかし、「人前で寝る=失礼である」という考え方が一般的に定着しているためなかなか気付かれない事が多く、事故や度重なる叱責などから病的である事を指摘されやっと気が付く、といった事も多くあります。過眠症状を持つその人自身や周囲の症状への理解不足により、その人の本来の能力が発揮できないという事も多くあります。
 度重なる突然の居眠りを繰り返していた筆者の元同僚は「どれだけ寝てもすっごくぐっすり寝ても居眠りするしどれだけ怒られても改善できない」と悩んでいましたが、もしかしたらナルコレプシーがあるのでは?と筆者が助言をした事で治療につなげる事ができ現在は職場でも大事な戦力となって元気に働いています。

■過眠症かも?と思う人は

 過眠症の診断基準というものがあります。ナルコレプシーにおいては脳の神経伝達物質のひとつである「オレキシン」が何らかの理由で脳細胞内で産生されない事が原因と判明され、診断の手掛かりとなる検査や治療も特殊となりますが、それ以外にも過眠を引き起こす原因はいくつか存在しています。3か月以上の日中の強い眠気を感じる、激しくびっくりしたり楽しい気分が凄く高まったり強い怒りを感じた時など、強い感情が発生した時に体の力がガクンと抜けて気を失ったように見える「情動脱力発作」はナルコレプシーの大きな症状のひとつですが、この発作を伴わないナルコレプシーも存在しています。ナルコレプシーに限って言うと発症率自体は高くはないものの、世界中でみたら日本が最も有病率が高いという報告もあります。

ナルコレプシーの診断・治療ガイドラインより ナルコレプシーの疫学

 過眠症=ナルコレプシーとは必ずしも言えない為、睡眠の専門医に相談しきちんと検査を受ける事で治療方針も変わってきます。過眠症は学童期に発症する事が多く、授業中の居眠りや朝起きられないという状態に繋がりますが症状がある本人も親や担任といった周りの大人も気が付かない事が多いために見過ごされがちです。突然寝てしまう為てんかん発作を疑って脳波を検査しても問題が見られない場合も多くあります(うちの娘がそうでした)。睡眠の専門医はまだあまり多くはないのですが、心療内科や精神科でこうした症状を診察する事ができるので自分や周りの人が当てはまりそうであれば一度受診して相談をしてみましょう。

■症状とうまく付き合う為に

 体や心、気分を自分でうまくコントロールする事ができないのはとてもつらいものです。そしてなかなか周囲に理解が得られないものであり孤独を感じてしまう事も多いと思います。今回紹介したキューさんのように、症状とうまく付き合う為に周囲ユーモアを交えて分かってもらうものを作る・使うというのはとても良い事です。自分の症状を的確に把握して上手に伝える事、もし自分が困っている時はこれを思い出して実践していきたいと思います。

<参考>
睡眠医療 | 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部
ナルコレプシーの診断・治療ガイドライン
昼間の眠気 -睡眠時無呼吸症候群・ナルコレプシーなどの過眠症は治療が必要 | e-ヘルスネット 情報提供
Kleine-Levin Syndrome: 反復性過眠症

<記事化協力>
キューさん(@Qcue9)

(梓川みいな / 正看護師)