2018年の今年は戌年ですが、相変わらず猫ブームは健在。全国を見渡すと猫をお祀りしている神社仏閣もちらほらと。そのうちのひとつ、岩手県遠野市の遠野郷八幡宮では社務所で飼う猫があまりにも献身的に神社にお仕えした事により神格化され祀られています。

 以前より遠野郷八幡宮では社務所で飼う猫たちが代々参拝者をもてなすなどしてきていました。そのうちの5匹目の「社務猫」が「オトラ」と呼ばれた猫。オトラは幼い頃は「トラキチ」と呼ばれており、気性の荒い一匹狼ならぬ一匹ネコでした。一度は飼い猫として引き取られるも人とも他の猫たちとも仲良くする事ができず、野良生活を送っていたのです。

 そんな最中の平成13年9月13日、例祭宵宮祭で神前に供えていた吉次(魚)を食べられる事件が起き、一匹のトラ猫が本殿より逃走する姿が目撃されたのです。その後度々現れては、他の社務猫に追い払われるようになりましたが、前に神社で飼っていたトラ猫とそっくりだったことから「生まれ変わりでは」と、5匹目の社務猫「オトラ」として目出度く社務所に迎え入れられました。

 そうして迎えられたトラキチ改め「オトラ」。他の4匹の社務猫たちと仲良くするのがちょっとストレスになる性格。一時は毛が抜ける症状も見られましたが、それでも毎日朝夕神主と神社の参拝を欠かさず行っていました。社務所から神社までの150mを、参拝者を先導して案内し、守札所で参拝者を招いていた姿は雑誌やテレビにも取り上げられ、その献身的な社務猫ぶりには遠くは鹿児島からの参拝者も招いたという事です。

 平成25年9月3日夕刻、本殿参拝する姿を最後に八幡山へと消えていき、以後その姿を見た人はいません。八幡様へのお供えを食べ、生涯を神様に捧げた事から同年、和歌を添えた写真集「社務ねこオトラ(上)(下)」が作られました。また、オトラを偲び会いに来た参拝者も多い事から「オトラサマ」として祀る事となり、オトラサマのお姿を納めた猫神社を建立。かくして猫神社は遠野郷八幡宮の境内にて縁結びや愛猫の健康長寿の神様となりました。

 オトラサマは多くの参拝者に愛され、そのお姿が描かれた絵も数多く奉納されました。今年の2月11日には、奉納されたオトラサマの絵を御朱印にし、頒布開始。全国各地から愛猫家が参拝に訪れております。2月22日の猫の日にも雪深い中を参拝者が御朱印を求めに訪れていたという事です。

 現在は、社務猫として「いち」さんと「かん」さんが神社でお仕えしているそうです。神主さん宅にも、保護した「メイ」さんというメインクーンみたいな猫がいるそうです。遠野郷八幡宮の猫たちは代々参拝者をもてなしたり見守ったりと、何十年も猫の姿が途切れたことはないそうです。社務猫の皆さんは人懐こくもてなしてくれるそうですよ。

現社務猫のいちさん(左)とかんさん(右)

 猫神社がある遠野郷八幡宮は、JR釜石線「遠野」駅から約2㎞のところにあります。遠野は柳田國男の「遠野物語」の舞台であり、宮沢賢治もとても縁深い地。オトラサマのご由緒や御朱印もこうした民話的な、物語を感じるものがありますね。
遠野郷八幡宮の御朱印帳は桜に赤い鳥居の表紙がとても美しく、御朱印は「全国の美しい御朱印(マイナビ出版)」にも掲載され人気です。

 遠野郷八幡宮とオトラサマを参拝する、民話を巡る旅。みなさんも遠野の地を巡りに行ってみませんか?

<協力>
遠野郷八幡宮

(梓川みいな)