毎年欠かさす発表しているこの企画も今回で8回目になりました。これも皆様のご愛顧の賜物であり、厚く御礼申し上げます。

 今回もまた、2017年に公開されたアニメ映画のうち、私(筆者)が良かったと思う作品ベスト10を挙げたいと思います。選び方は完全に独断で、興行成績や他の映画評には左右されず、実際に観て”素”で良かったものを選んでいます。そのため他では高評価なものが下位にくることや、他ではあまり評価されていない作品が上位に来ていることもありますが、世間でいう「ステマ」的なことは一切ありません。純粋に良かったと感じた作品をあげ、順位付けしています。

 なお、できるだけ多く劇場には足を運びましたが、2017年に公開された全てのアニメを網羅できているわけではありません。その点ご了承ください。それぞれご覧になった方によって順位や価値観は異なると思います。読者の皆様が注目なさったポイントと、私が注目したポイントが異なることもあり得ることを最初にお断り申し上げておきます。「こういう見方もあるのだな」程度の気楽な気持ちで、また新たな作品との出会いのきっかけとしてご覧いただければ幸いです。

※本稿はネタバレを含んでいますのでご注意ください。

■第10位・・・『劇場版ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』

<コメント>
 テレビアニメ『ソードアート・オンライン』の劇場版。2017年という時代に相応しく、同時代の最先端の技術をストーリーに取り入れながら、一歩先の未来を行っている点に本作の優れた点があります。
 昨今、拡張現実が話題となり、例えばスマートフォン上の実際の風景の中にモンスターが出現するゲーム『ポケモンGO』(2016年配信)がブームになった他、2017年夏に幕張メッセで開催された『ギガ恐竜展2017 -地球の絶対王者のなぞ-』では拡張現実によって会場を恐竜が闊歩する映像を見られるコーナーがありました。
『劇場版ソードアート・オンライン』にも拡張現実を利用したコンピュータゲームが登場しました。それは、プレイヤーが立っている場所にモンスターが出現するので、プレイヤーがモンスターと戦う、というものですが、観客を驚かせた点は、『ポケモンGO』のように現実の風景そのものにモンスターが出現するのではなく、現実の風景の輪郭を利用した異世界にモンスターが出現する点です。本作の舞台は東京都内なので関東住民にしかピンと来ないネタではありますが、実在する東京の風景が一気にゲーム中の異世界に変貌していく描写は迫力満点で、未来のゲームの高性能ぶりが観客を楽しませました。

<製作委員会>パンフレットに明記されず
<配給>アニプレックス
<アニメーション制作>A-1 Pictures
<スタッフ>原作・川原礫、キャラクターデザイン原案・abec、脚本・川原礫/伊藤智彦、キャラクターデザイン/総作画監督・足立慎吾、音楽・梶浦由記、CG監督・雲藤隆太、監督・伊藤智彦
<出演者>キリト・松岡禎丞、アスナ・戸松遥、エイジ・井上芳雄、重村教授・鹿賀丈史、ユナ・神田沙也加、他

■第9位・・・『虐殺器官』

<コメント>
 発展途上国で起きる紛争を背景に、言語学者を追う米軍特殊部隊の謎解きと冒険を描く。ストーリーの主体はアメリカですが、現在の日本人に対して警鐘を鳴らしているように思える作品でした。
 劇中のアメリカ人は自宅のテレビでスポーツ中継を観戦してくつろいでいますが、発展途上国では紛争が発生していました。このアメリカと発展途上国の落差が本作のポイントとなっております。本作はフィクションですから現実の国際情勢とは異なる訳ですが、だからと言って劇中のアメリカを我々日本人は果たして批判できるのでありましょうか。
 現実世界では中東におけるアイシルや、ソマリア周辺における海賊が活動していますが、我々日本人は、遠い異国の出来事で日本には関係のない他人事だ、日本一国が平和ならばそれでいいと考えてはいないでしょうか?
 本作は、異国の地で起きているそのような出来事について、自分とは関係ない出来事だと他人事のように考えることを戒めているように思えます。

<製作委員会>明記されず
<配給>東宝映像事業部
<アニメーション制作>ジェノスタジオ
<スタッフ>原作・伊藤計劃、キャラクター原案・redjuice、脚本・村瀬修功、音楽・池頼広、CGディレクター・増尾隆幸、監督・村瀬修功
<出演者>
クラヴィス・シェパード・中村悠一、ウィリアムズ・三上哲、アレックス・梶裕貴、リーランド・石川界人、ロックウェル大佐・大塚明夫、ルツィア・シュクロウポヴァ・小林沙苗、ジョン・ポール・櫻井孝宏、他

■第8位・・・『劇場版響け!ユーフォニアム~届けたいメロディ~』

<コメント>
 テレビアニメ『響け!ユーフォニアム2』に新規カットを追加した総集篇。
 大会を目指す高校の吹奏楽部員の姿を描いた作品でありますが、高校生の頑張る姿を描くという単純な美談にしないところが本作の立派な点であります。
 吹奏楽コンクールが秋に開催される為、大学受験を控えた高校3年生は、部活動に時間を奪われることになります。その為、吹奏楽部副部長・田中あすか(声・寿美菜子)の母親である田中明美(声・渡辺久美子)は、大学受験に備える為に(理由はそれだけじゃないようですが)娘を退部させようとします。
大学受験と部活動のどちらを優先するかは難しい問題で、大学受験は将来の就職をも左右する人生の一大事でありますから、大学受験を優先すべきだと考えるのは一理あることですが、一方で、勉強だけでなくそれ以外の分野でも成果を挙げることが人生を豊かにするのだという考えもまたあり得る訳ですね。結局、あすかは模擬試験で上位に入ったことで母親に部活動継続を認めさせます。
 聞いた話によると、最高峰の大学に合格するような高校生は勉強だけでなくそれ以外の活動(部活動等)でも優秀な成績を収めた人達が多いそうで、本作で模擬試験の上位に入りながら部活動を行うあすかもその手の人々の中の1人という訳ですね。しかし人口比で言えばそういう人は少数派でしょう。
そこで注目すべきなのが、主人公の姉である黄前麻美子(声・沼倉愛美)です。現在大学生である麻美子は、かつて吹奏楽をやっていたものの、吹奏楽をやめて学業に専念した過去がありました。言わば、あすかと対極にある登場人物であると言えます。
模擬試験の上位に入りながら部活動を行うあすかは人口比で言うと少数派に位置する人物であるとするならば、麻美子こそ一般民衆の代表者と言うことができましょう。麻美子は、本当は吹奏楽部を続けたかったそうで、とても無念であったようです。麻美子のエピソードは本作の本筋ではなく、観客はあすかの成功譚を観て「良かった、良かった」と喜ぶことが本来の鑑賞態度でありますが、その陰に隠れた麻美子のエピソードに、美談だけではない少年少女のリアルな苦悩や葛藤が描かれていると言えましょう。
 話は変わりますが、本作の見せ場に、コンクール(関西大会)での演奏シーンと駅ビルで開催されたコンサートでの演奏シーンがあります。特に関西大会のシーンは1曲丸々演奏するもので、コンサート会場で楽団が演奏する模様を1曲丸々映す映画というのは、昭和49年の『砂の器』という前例がありますが非常に珍しいと言えます。
 本作における演奏シーンの優れた点は、大太鼓を叩く部分では大太鼓を、鉄琴を奏でる部分では鉄琴を、シンバルを鳴らす部分ではシンバルを映し、それぞれの楽器の活躍を取り上げている点にあります。楽団による演奏が、多くの役割によって成り立つチームプレイであることを実感させる描写でありました。
ところで本作が映画館で上映される際、本篇前に短篇アニメが上映され、その最後に観客がスマートフォンで画面を記念撮影できるコーナーがありました。映画館では画面の撮影が禁止されていることを逆手に取って観客を喜ばせた好企画でした。しかし、スマートフォンを用意するよう呼び掛けてから記念撮影タイムに移行するまでの時間が短かったように思います。映画の公式ホームページで、スマートフォンによる記念撮影タイムがあることが告知されていましたが、ホームページを見ないで映画館に来る客もいるでしょうし、時間配分にもうちょっと配慮があったら良かったと思います。

<製作委員会>京都アニメーション、ポニーキャニオン、ランティス、楽音舎
<配給>松竹
<アニメーション制作>京都アニメーション
<スタッフ>原作・武田綾乃、原作イラスト・アサダニッキ、脚本・花田十輝、キャラクターデザイン/総作画監督・池田晶子、音楽・松田彬人、監督・小川太一 、総監督・石原立也
<出演者>黄前久美子・黒沢ともよ、田中あすか・寿美菜子、黄前麻美子・沼倉愛美、滝昇・櫻井孝宏、中川夏紀・藤村鼓乃美、他

■第7位・・・『コードギアス 反逆のルルーシュI 興道』

<コメント>
 2006年のテレビアニメ『コードギアス 反逆のルルーシュ』に一部新作カットを加え、声を新たに収録した総集篇の三部作の1本目。
 架空の国際情勢を背景に、超大国・神聖ブリタニア帝国の植民地となった日本の運命を描きます。本作は、日本人が神聖ブリタニア帝国によって虐殺される場面があるなど、かなりショッキングな作品となっていますが、寧ろ、映像表現のタブーを恐れない姿勢が作品にリアリティーを与えています。
 本作の劇中世界は3つの巨大な国家に分かれており、現実世界とは全く異なる様相を呈していますが、或る意味では現実世界との共通性を見出すことも可能なのではないでしょうか。劇中世界では、現実世界に実在する国家がもっと大きな1つの国家になっている訳ですが、現実世界でも国境を超えた人・法人・物資・サービスの移動が行われ、アメリカ抜きの環太平洋連携協定(TPP)や東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の実現が現在進行中であります。
本作は、劇中の日本人に対して日本人としてのアイデンティティーを取り戻すのか、或いは日本人としてのアイデンティティーは捨て去ってしまうのかと問いかけていました。劇中世界の日本人の中には神聖ブリタニア帝国に対するレジスタンス活動をする者達がいますが、レジスタンスの反乱が神聖ブリタニア帝国軍による日本人虐殺を呼び、レジスタンスを支持しない日本人からは寧ろレジスタンスは迷惑であると非難されてしまいます。日本人としての誇りの為に多数の人命を犠牲にするのか、それとも神聖ブリタニア帝国の体制内での差別的な"平和"を甘受するのか、2つの選択肢が示されています。
勿論、本作は架空の国際情勢を描いたフィクションでありますから、現実世界とは何の関係もないのですが、複数の国家が1つの経済圏を形成していこうとする現実世界を生きる我々にも示唆を与えているように思います。即ち、グローバル化社会の中で、日本人としてのアイデンティティーを貫くのか、或いは日本人としてのアイデンティティーをできるだけ薄めて"国際人"として生きるのか、という問いを、2017年の我々に問いかけているように思えるのです。
 さて、話は変わりますが、本作の面白さの1つに、主人公・ルルーシュ・ランペルージ(声・福山潤)とその友人・枢木スザク(声・櫻井孝宏)の交錯があります。友人であると気付かずに戦場で相見えるという運命の皮肉。そして本作は、ルルーシュが、戦場で戦っている相手がスザクであると知り、運命の悪戯に衝撃を受けたところで第2部に続くのでありました。
 最後に音楽面に触れておきます。本作のオープニング主題歌は、テレビ版と同じく「COLORS」でした。『涼宮ハルヒの消失』のオープニング主題歌「冒険でしょでしょ?」や、『ガールズ&パンツァー劇場版』のオープニング曲「戦車道行進曲!パンツァーフォー!」もそうですが、テレビ版から何年も経ってから公開されたアニメ映画のオープニングにテレビ版の曲が起用されると嬉しいものです。
 本作のエンディングでは、テレビアニメ版における予告篇の劇伴が流れました。この曲も超カッコイイんですよね。

<製作委員会>サンライズ、バンダイビジュアル、博報堂DYミュージック&ピクチャーズ、バンダイナムコエンターテインメント、バンダイ
<配給>ショウゲート
<スタッフ>ストーリー原案・大河内一楼/谷口悟朗、キャラクターデザイン原案・CLAMP、脚本・大河内一楼/吉野弘幸/野村祐一、キャラクターデザイン・木村貴宏、音楽・中川幸太郎/黒石ひとみ、監督・谷口悟朗
<出演者>ルルーシュ・ランペルージ・福山潤、枢木スザク・櫻井孝宏、紅月カレン・小清水亜美、ジェレミア・ゴットバルト・成田剣、ヴィレッタ・ヌゥ・渡辺明乃、コーネリア・リ・ブリタニア・皆川純子、他

■第6位・・・『かみさまみならいヒミツのここたま 奇跡をおこせ♪テップルとドキドキここたま界』

<コメント>
 テレビアニメ『かみさまみならいヒミツのここたま』の劇場版。本作はファンタジー作品ではありますが、そのファンタジー描写に現実世界に対する警告が含まれているのが優れた点であります。
 劇中、人間から大切に扱われなかった品物から発生する、カナシイダケ・サミシイダケという負のエネルギーを撒き散らすキノコのようなものが登場します。カナシイダケ・サミシイダケは勿論架空の存在であり、ファンタジー世界であるがゆえの存在である訳ですが、ゴミの中からカナシイダケ・サミシイダケが出現する描写は大変ショッキングです。現実世界の人間もカナシイダケ・サミシイダケを出現させているのではないか?と映画は観客に訴えかけているようでした。同時に本作のこのような作風は、子供向け映画として優れた教育的効果を発揮しているのではないでしょうか。
 さて、話は変わりまして、私が、本作の中で最も盛り上がったと思うシーンがあります。テレビアニメ版では副主人公だった桜井のぞみ(声・石原夏織)というキャラクターがおりまして、2016年度から2017年度への年度替わりのタイミングで渡米し、テレビ版での出番を一旦終了したのですが、劇場版では主人公・四葉こころ(声・本渡楓)らがカナシイダケ・サミシイダケを浄化している最中に助けに現れるのです!テレビ版に登場しなくなったキャラクターが再登場するというシチュエーションは嬉しいもので、とても頼もしかったです。

<製作委員会>バンダイ、テレビ東京、ADK、OLM、東宝、ランティス、KADOKAWA、講談社
<配給>東宝映像事業部
<アニメーション制作>OLM TEAM YOSHIOKA
<スタッフ>原案・バンダイ、脚本・土屋理敬、キャラクターデザイン・大河しのぶ/佐藤陵、音楽・中西亮輔、監督・新田典生
<出演者>四葉こころ・本渡楓、ラキたま・潘めぐみ、テップル・伊瀬茉莉也、木ノ内まい・上田麗奈、ここせんにん・中村大樹、他

■第5位・・・『劇場版黒執事 Book of the Atlantic』

<コメント>
 テレビアニメ『黒執事』の劇場版。豪華客船を舞台に、おどろおどろしい事件が発生します。
 本作の優れた点は、2つの恐怖が乗客に襲いかかることで、恰も観客自身が窮地に置かれているかのような緊迫感、緊張感を醸し出している点です。
 本作の舞台である豪華客船では、死者を生き返らせる人体実験が行われていました。しかしその実験は、人を襲うゾンビを生み出してしまうものでした。これにより、ゾンビから逃げ回り、或いはゾンビと戦わねばならないという、死と隣り合わせの状況が発生します。現地は海の上ですので、ゾンビから逃げる為に船を脱出することもできません。まさに逃げ場のない恐怖です。
 運の悪いことに、更なる恐怖が乗客と観客に襲いかかります。何と豪華客船が氷山に衝突し、浸水してしまうのです。豪華客船に迫る沈没の危機。まさに前門の虎、後門の狼。ゾンビと浸水の2つの脅威と戦わねばならなくなります。果たして乗客は生き延びることができるのでしょうか!?観客もまた乗客と共に脱出劇を体験することになるのです。

<製作委員会>アニプレックス、スクウェア・エニックス、博報堂DYミュージック&ピクチャーズ、毎日放送、木下グループホールディングス、ムービック、ローソン、WOWOW
<配給>アニプレックス
<アニメーション制作>A-1 Pictures
<スタッフ>原作・枢やな、脚本・吉野弘幸、キャラクターデザイン/総作画監督・芝美奈子、音楽・光田康典、CG監督・茶谷崇裕、監督・阿部記之
<出演者>セバスチャン・ミカエリス・小野大輔、シエル・ファントムハイヴ・坂本真綾、葬儀屋・諏訪部順一、ロナルド・ノックス・KENN、グレル・サトクリフ・福山潤、他

■第4位・・・『劇場版はいからさんが通る前編 紅緒、花の17歳』

<コメント>
 少女漫画の名作を再アニメ化。大正時代を舞台に、学生~社会人期の女性を描きます。
 本作と同様に大正時代の女学生を描いたアニメと言えば、近年、『大正野球娘。』という作品がありました。両作品には共通点がありまして、それは「女はこうしなければならない」という世間の風潮を主人公らが打ち破っていくストーリーになっていることです。せっかくなので『大正野球娘。』の具体的描写をついでに紹介してしまいますと、第4話「あなたが必要なんです!」では主人公・鈴川小梅(声・伊藤かな恵)が男子野球チームに対して「対等として認めさせる」と発言し、第9話「誤解の多い料理店」では女子野球チームが「神聖なグランドに婦女子を入れること、これ即ちベースボールへの冒瀆である。」と通告される場面がありました。
一方、『はいからさんが通る』では主人公ら女学生が「男性が結婚相手を決め、女性の意思は軽視される」という世の中の風潮に対し、「結婚相手は自分自身の意志で決める」と主張し、この主張がストーリーの中心の1つとなっています。世の中に対する主張と恋愛ストーリーをミックスさせた手腕は巧みです。
 『はいからさんが通る』と『大正野球娘。』に共通しているのは、男女の不平等に立ち向かうという、下手すると政治的になってしまう要素をストーリーの中心に据えつつも、明るく描いている点です。男女の不平等というテーマは現在進行形の現象でありますが、大正時代という、現代からは時間的間隔が離れた昔でありながら、だからと言って現代と断絶している訳でもない時代が、物語の舞台として絶妙だと言えるでしょう。
 さて、本作の最も楽しい点は、表情豊かな早見沙織の台詞回しと、ギャグアニメに近い描写の数々です。特に早見のテンションがとても楽しそうでした。
 最後に、本作がテレビアニメ版の視聴者に対するサービスを仕込んでいるのも見逃せない点です。テレビアニメ版のオープニング主題歌のメロディが終盤に流れた他、テレビアニメ版で伊集院忍を演じた森功至がナレーターを務め、テレビアニメ版の視聴者を楽しませました。

<製作委員会>ワーナー ブラザース ジャパン、日本アニメーション、講談社、クロックワークス、朝日新聞、東京メトロポリタンテレビジョン
<配給>ワーナー・ブラザース映画
<アニメーション制作>日本アニメーション
<スタッフ>原作・大和和紀、脚本・古橋一浩、キャラクターデザイン・西位輝実、音楽・大島ミチル、監督・古橋一浩
<出演者>花村紅緒・早見沙織、伊集院忍・宮野真守、花村少佐・石塚運昇、伊集院伯爵・麦人、伊集院伯爵夫人・谷育子、他

■第3位・・・『夜は短し歩けよ乙女』

<コメント>
 一夜の出来事を1本の映画にした作品。
 本作の最も優れた点は、孤独な老人・李白(声・麦人)の悲しみと救済に表れています。自身の孤独を嘆く李白に対し、主人公に当たる黒髪の乙女(声・花澤香菜)は人と人の縁を説きます。李白は自分のことを孤独だと思っていましたが、黒髪の乙女は李白が孤独ではないという証拠を指摘するのです。
人が孤独ではないことなんてどうやって証明するのかと思ってしまいますが、そこが本作の面白いところでありまして、何とその証拠は風邪だというんですね。つまり、李白が他人に風邪を移し、更にその人が別の他人に風邪を移すと。そこで振り返ってみると、本作のストーリー全体が、主人公が人と出会い、そのことが原因で更に他の人に出会い、それらによって出来事が発生していることに気付きます。劇中で語られた、本が別の本に影響を与え、影響を与えられた本が更に別の本に影響を与えたというエピソードも、上記のような人の縁のバリエーションと言えるでしょう。
 以上を纏めると、本作は、人と人のご縁の不思議さとありがたさを表現していると言えます。誰かと出会うことによって自分では予想もしなかった変化が生まれ、出来事が起こる。自分はそのような出来事の中で、例えば風邪を移されるなどの迷惑を蒙るかもしれないが、一方で、新たな発想が思い浮かんだり、楽しい出来事に遭遇するかもしれない。そして、人は知らず知らずのうちに他人と繋がっているということなんですね。李白にとっても観客にとっても大変心温まるメッセージでありました。

<製作委員会>フジテレビジョン、東宝、サイエンスSARU、KADOKAWA、BSフジ
<配給>東宝映像事業部
<アニメーション制作>サイエンスSARU
<スタッフ>原作・森見登美彦、キャラクター原案・中村佑介、脚本・上田誠、キャラクターデザイン/総作画監督・伊東伸高、音楽・大島ミチル、監督・湯浅政明
<出演者>先輩・星野源、黒髪の乙女・花澤香菜、学園祭事務局長・神谷浩史、パンツ総番長・秋山竜次、樋口師匠・中井和哉、羽貫さん・甲斐田裕子、李白・麦人、他

■第2位・・・『機動戦士ガンダム THE ORIGIN V 激突ルウム会戦』

<コメント>
 テレビアニメ『機動戦士ガンダム』の登場人物・シャア・アズナブル(声・池田秀一)を主人公にした前日譚の5作目。前作で遂に一年戦争(テレビアニメ『機動戦士ガンダム』で描かれた戦争)が開戦し、本作では緒戦を描いています。
 テレビアニメ版『機動戦士ガンダム』冒頭のナレーション部分で描かれたジオン艦隊が、テレビ版と同じ構図で、より迫力溢れる画質で再現されたシーンもあり、テレビ版のファンには嬉しい限りです。これら宇宙空間での艦隊描写は、昭和34年の『宇宙大戦争』(特技監督・円谷英二)、昭和52年の『惑星大戦争』(特技監督・中野昭慶)、昭和53年の『宇宙からのメッセージ』(特撮監督・矢島信男)、昭和59年の『さよならジュピター』(特技監督・川北紘一)といった和製宇宙SF映画の系譜を継承しつつ、和製宇宙SF映画史上最高峰のクオリティを誇る宇宙空間でのメカ描写となっています。
 さて、本作は架空の戦争を描いた物語ではありますが、本作には、現実の戦争に対する痛烈な諷刺が随所に盛り込まれています。
 本作に登場するブリティッシュ作戦は、宇宙空間に浮かぶ人類の居住空間であるスペースコロニーを地球に落下させ、地球連邦軍に壊滅的打撃を与えようというジオン公国軍の作戦です。テレビ版『機動戦士ガンダム』冒頭のナレーションで「総人口の半分を死に至らしめた」と語られている通り、この作戦は世にも恐ろしい作戦なのですが、ジオン軍は「戦争を早く終わらせる為」と称して正当化します。
「戦争を早く終わらせる為」というフレーズは太平洋戦争でアメリカが日本に原子爆弾を投下した理由としてよく聞きますが、実は原爆投下についてのみ言われたフレーズではなく、NHKBS1で放送されたドキュメンタリー番組『なぜ日本は焼き尽くされたのか~米空軍幹部が語った“真相”』によれば、焼夷弾で日本各地を焼き尽くした戦略爆撃についてもアメリカは「戦争を早く終わらせる為」と言っていたそうです。
 更に劇中のジオン軍は「戦争に負けたら我々は戦犯だ」とも言っていますが、これは太平洋戦争で焼夷弾による無差別爆撃を指揮した司令官・カーチス・ルメイが言った発言でもあります。
 これらの台詞から読み取れることは、一旦戦争が始まってしまえば、過激な行動に歯止めが効かなくなり、何のかんのと理由をこじ付けて実行されてしまうという、戦争の狂気です。
 また、第二次世界大戦中の或る人物が「1人の死は悲劇だが百万人の死は統計である」と言ったそうですが(誰が言ったかは諸説あり)、このコロニー落とし作戦も、テレビ版『機動戦士ガンダム』冒頭のナレーションで「総人口の半分を死に至らしめた」と語られているように統計として扱われている節があります。
しかし本作は、統計の死を1人の死へ置き換えようと試みた作品であります。本作では、地球に落下させられたコロニーの住人であるユウキ(声・小野賢章)とファン・リー(声・瀬戸麻沙美)の描写に時間を割いています。人間1人の死を描くことによって、統計で済まされてしまうような戦争上の死にも、ちゃんと1人1人の無念や苦しみがあり、決して統計などではないということを忘れてはならないと訴えているのです。
 本作はフィクションの宇宙SF映画ですので。純粋に宇宙空間におけるSF描写を堪能すべきではありますが、その裏側に、現実の戦争に対する怒りや悲しみが隠されているように感じます。

<製作>サンライズ
<配給>松竹
<スタッフ>原作・矢立肇/富野由悠季、漫画原作・安彦良和、脚本・隅沢克之、アニメーションキャラクターデザイン・安彦良和/ことぶきつかさ、オリジナルメカニカルデザイン・大河原邦男、メカニカルデザイン・カトキハジメ/山根公利/明貴美加/アストレイズ、総作画監督・西村博之、メカニカル総作画監督・鈴木卓也、音楽・服部隆之、CGディレクター・井上喜一郎、総監督・安彦良和
<出演者>ドズル・ザビ(ジオン公国宇宙攻撃軍司令長官)・三宅健太、ヨハン・イブラヒム・レビル(地球連邦宇宙軍連合艦隊司令長官)・中博史、ティアンム(地球連邦宇宙軍第2艦隊司令長官)・大川透、シャア・アズナブル・池田秀一、セイラ・マス・潘めぐみ、ナレーター・大塚明夫、他

■第1位・・・『きみの声をとどけたい』

<コメント>
 湘南を舞台に、夏休み中の高校2年生の少女達がミニFMラジオ番組を作り上げる奮闘ぶりを描いた、原作なしのオリジナル作品。本作の舞台設定で最も絶妙な点は、高校2年生の夏休みという点です。なぜなら、高校2年生の夏休みという期間には2つの特徴があるが故に、本作にも2つの特徴が与えられているからです。
 1点目は、やはり時間がたっぷりあるので、普段はできないような大プロジェクトに挑戦できる点です。本作では、夏休みを利用して少女達がラジオ番組作りに熱中します。ラジオ番組作りはいわば非日常の体験であって、夏休みだからこそできた体験です。学期中であれば勉強に追われてラジオどころではないでしょう。本作におけるラジオ番組作りは時限的な営みであって、だからこそ少女達は時間を無駄にしないようにラジオ番組作りに全力投球し、生き生きと輝いています。本作の優れた点は、まさにこのような若者の躍動感、楽しさ、充実感が存分に描かれている点であります。
 2点目として、高校1年生でもなく高校3年生でもなく高校2年生という設定が効果を発揮していると言えます。もし本作の舞台が高校3年生の夏休みであった場合、受験で忙しくてラジオどころではなかったと思います。それに比べて高校2年生の夏休みは、玉虫色の微妙なポジションだと思うのですよ。即ち、受験勉強一色にはならないので、ラジオ放送にも打ち込めるけれども、かと言って能天気に遊び呆けるのもまたあまり宜しくなく、進学するのか就職するのか、進学するとしたらどういう学部に進むのか、その学部に進んだらどういう就職先が想定されるのか、少しずつ考えていかなければならない時期でもあると思います。
本作は、まさにこの点を巧みに突いていると言えます。即ち、ラジオ放送活動を通じて、主人公はどういう仕事に価値を感じるのかということを考えていき、将来の進路を決める上での貴重な思案の期間となったのです。
 以上を纏めると、本作の最も優れた点というのは、高校2年生の夏休みという期間が持つ特徴を通じて、大人になってどんな職業にも就くことができるという、若者が秘めた可能性を描いている点にあるというのが本稿の結論であります。

<製作委員会>東北新社、ランティス、KADOKAWA、GYAO
<配給>東北新社
<制作>東北新社、マッドハウス
<スタッフ>脚本・石川学、キャラクターデザイン・青木俊直、アニメーションキャラクターデザイン・高野綾、音楽・松田彬人、監督・伊藤尚往
<出演者>行合なぎさ・片平美那、龍ノ口かえで・田中有紀、矢沢紫音・三森すずこ、土橋雫・岩淵桃音、中原あやめ・神戸光歩、他

(コートク)