航空機の訓練にはシミュレータがつきもの。アメリカ空軍には、操縦シミュレータはもちろんのこと、こんなものまであるのです。なんと燃料タンクに入るシミュレータ!?

 在欧アメリカ空軍(USAFE)第100空中給油飛行隊が駐留する、イギリスのミルデンホール空軍基地。ここで用品棚のようなスペースに入り込んだ兵士がいます。用品棚で遊ぶんじゃない!と上官から怒られそうですが、実はこれ「confined space trainer(限定空間訓練設備)」という、空中給油機KC-135の一部を再現した、シミュレータの一種なのです。

 KC-135の翼内燃料タンクは、旅客機の窓ぐらいの大きさで非常に小さいメンテナンス用のハッチを開けて内部の点検・整備を行います。もちろんタンクは非常に大きいので、点検・整備の際は内部に完全に入り込まないといけないのですが、なにぶん主翼の内部ですから高さが限られており、メンテナンス用ハッチから入った後は、体を90度ひねらないと奥まで行くことができません。

ハッチは実機と同サイズ(PHOTO:USAF)

ハッチは実機と同サイズ(PHOTO:USAF)

 実機はもちろん全てが金属でできており、内部に照明はありません。いきなり入ろうとすれば、どこに何があるか見えない上、身のこなし方が身についていないため、いたる所で体をぶつけたり、タンク内に工具を落としてしまう危険があります。そのような事態に陥らないよう、まずは狭い翼内タンクでの身のこなし方を覚えてから、実機の整備を担当するという仕組みになっているのです。

明るい状態で翼内タンクの構造が判る(PHOTO:USAF)

明るい状態で翼内タンクの構造が判る(PHOTO:USAF)

 メンテナンス用ハッチやタンクの寸法は、実際のKC-135と同じ。しかし一方が窓になっているので明るく、閉所での恐怖感を軽減できる仕組みです。ここから指導役が様子を確認し、動き方のアドバイスを行います。

翼内タンクシミュレータでの整備訓練の様子(PHOTO:USAF)

翼内タンクシミュレータでの整備訓練の様子(PHOTO:USAF)

 もし実機の翼内タンクを流用して同種のシミュレータを作ろうとすると、およそ50万ドルかかるそうですが、兵士たちが手作りしたこのシミュレータは、材料費など総額2000ドルほどで済んだといいます。見てくれは手作り感満載ですが、訓練効果が同じなら安く上がる方がいいですよね。アメリカ軍も経費節減に励んでいるようです。

PHOTO:USAF

(咲村珠樹)