電子書籍がジワジワと伸びてきた昨今ですが、やはり紙の本をめくるあの感覚が好きで、今や絶版になった本やシリーズものを大事に持っているという方は少なくありません。

 かくいう筆者も転勤族ですが、引っ越しのたびに「これだけは捨てられない」とずっと持ち続けている本がありますし、大学生の息子も好きな作家の本は必ず買って何度も読むぐらいに紙の本が大好きで、一人暮らしを開始しまだ一月ちょっとにも関わらず、先日様子を見に行った時点で既に本棚に入りきらない本が、布団の横に積んでありました……。

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■漫画家・カメントツの描いた万引きの現状が1万RT

 体験ルポ漫画で知られる漫画家のカメントツ氏。現在複数のサイトで連載をもっていますが、小学館・ゲッサンにて連載中の『カメントツの漫画ならず道』(最新話は「サンデーうぇぶり」で無料配信されています)では、漫画雑誌が出来るまでを追いかけ、一本の漫画が雑誌として出来上がるまで多くの人の作業と多くの行程によって出来上がっていることをカメントツ氏自らがルポしていました。

 先月カメントツ氏の本は“無事”単行本化されていますが、そこに至るまでに編集長から出版するにあたってのボーダーラインを色々と告げられる話が5月12日公開の第10話で赤裸々に描かれました。

 近年、出版業界は出版不況と言われていますが、出版業界が本が売れないことで出る赤字よりもさらに恐ろしいことがあることを告げられたのです。それが、「書店での万引き」。

 ゲッサン編集長によると、書店の万引きによる年間被害総額は200億円にのぼるのだといいます。本が売れないから出版しないという話の前に、万引き被害が大きくて「正直なところ出版社や書店さんは、出せば出すほど大打撃」とのこと。出版する本も絞らざるをえない現状が明かされています。また2万部以下だと赤字になるといい、この件について過去マンガなどの監修を手がけていた当編集部の部員に聞いたところ、10年~13年前に大手出版社から中小に至るまで約50冊担当し、初版は4000部~1万7000部で出せたそうです。勿論印税など諸々の経費を含んだ上で、一応ギリ黒字にはなっていたそうですが、約10年後の今2万部以下だと赤字ということは、「万引き被害が本当に深刻化してるのではないか。これじゃ本を出したくても出せない人が増えて当然。」という意見でした。

■1店で年間1億円の被害も

 話を戻すと、こうしたゲッサン編集部の話をうけ、カメントツ氏は、実際に万引きGメンだった人に話を聞いています。今回たまたま話が聞けたのは大手書店に勤めていた元万引きGメンの方。万引きする側にとってはゲーム感覚のつもりでも、万引きGメンにとっては一回のミスも許されない仕事であること。さらに書店によっては1店で年間1億円分の被害が出ていることなどが語られています。

 また、万引きGメンや警備員を配置できる規模の書店はまだいいほうで、小さい書店の場合万引きGメンを配置することは難しく、監視カメラを死角なく配置する以外には方法がないのだといいます。それでも悪質な万引き犯がいるのだそうです。

 カメントツ氏はこの現状について漫画が公開されたと同時にTwitterにて紹介。すると、反響に反響を集めツイートは1万回以上もRTされました。さらに、Twitterには元万引きGメンの方や店員の方からも被害の大きさや、万引き犯の行動に関するコメントが寄せられていて、犯罪の裾野の大きさに背筋が凍る思いです。

 最近思うのですが、近所から小さい書店が消えているような気がしませんか?本屋に雑誌ひとつを買いに行こうと思っても、街の中心部にある大手書店にしか行かなくなった、もしくはネットでポチっとしている人がほとんどでしょう。

 学生の頃、近所の本屋で本の表紙を見て、表紙買いをしたなどという懐かしいことを最近した記憶がありません。いずれ電子書籍に変わるからいいじゃない、なんて思う人もいるかもしれませんが、ストーリーの続きを読むためにページをめくるワクワク感、指になじむ紙の感触、そしてお目当ての本を探し当て棚から引っ張り出すときの興奮、ついつい気になる本をみつけちゃってファンになってしまう快感。

 万引き犯のせいで書店が減り、単行本化・文庫化する本が減るなんて、やっぱり許せないと思うのです。

・画像提供:カメントツ氏(@Computerozi)

(天汐香弓)