さて、みなさん今年も早速ひめはじめしちゃいましたか? え、なんでそんな下世話なことを聞くんだって? いえいえ、お聞きしたのは“火水はじめ”、つまり今年に入って火や水を使ったかということですよ?

なんて最初から煽り上等の文言を並べて失礼いたしました。
今ではすっかり、その年に入って初めてする秘め事を指した言葉として定着している「姫はじめ」ですが、元々は「暦の正月2日のところに記された日柄 (ひがら) の名」(goo辞書より)だったそうで、その他にも様々な意味があったようです。

 

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三省堂大辞林によると「正月にやわらかくたいた飯(=姫飯(ひめいい))を食べ始める日とも、「飛馬始め」で馬の乗り初めの日とも、「姫糊始め」の意で女が洗濯や洗い張りを始める日」ともいわれるとあり、「新年にはじめて男女が交わること」ともあります。

さらに調べたところ、冒頭のような水や火を1年の最初に使うことという意味もあり、つまりは「ひめはじめ」という1年の最初に行うものを意味する言葉に様々な当て字をはめて、それぞれの意味をもたせたようです。

そして、男女の交わりについては、やはり「秘め事」がその語源となっており、そこから転じて「姫はじめ」になったのだと考えられています。

■いつから「姫はじめ」が一般的に?

しかし、現在では「ひめはじめ」と言えば即座に「姫はじめ」を連想する人がほとんど。一体いつから「姫はじめ」が一般的だったのかは、私の愛読書でありバイブルの一つ、近代の隠語を集めた『隠語大辞典』にそのヒントが隠されていました。

『姫始。年始最初の性交をいふ。(中略)「初春の姫はじめは諸説まちまちなれども皆とるに足らず、むかしより世俗の云ひ来れる男女交合の始なり」』

貞丈とは江戸時代中期の旗本であり伊勢流有職故実研究家の伊勢貞丈のこと。その著書『安斎随筆』でこう語っているそうです。

簡単に意味を説明すると「姫はめは諸説あるけれども皆なーにいっちゃってんのYo!昔から世間では男女の交わり始めを言ってたよね!」といったところ。『安斎随筆』は公家武家の故事や物事の起源、字訓の正誤を記したもの。その中で綴っているところを見ると、江戸時代には既に諸説はあったものの現代と同じように「姫はじめ」=「その年最初の交わり」だという認識が強く「諸説」については既にこのころから暦の上だけのことだったようです。

姫は女性を言い表す言葉であり、わざわざ言葉に性別を持たせることは男女の交わりを暗喩している場合があるという考え方があるそうです。
たしかに官能小説では女性器のことを「お姫」(南里征典『京都薄化粧の女』)や「姫さん」(子母澤類『古都の風は女の炎を燃やす』)と呼んでいる記述が見られ、そのように呼ぶことで性的な意味をも含ませるという機能を果たしています。

「ひめ」という音からおそらく「姫」が一番連想しやすかったのでしょう。そこから「秘め事」に関連づけたとは、いつの時代も真っ先にエロと関連づけちゃうとこは変わらないようですね。

さて、少なくとも250年以上も前から本来の意味を押しのけて「ひめはじめ」は「姫始め」だったわけですが、気になる女子に「ひめはじめ、した?」と聞いてみて、冒頭の筆者に習い「えーエロいこと考えてた? 姫飯食べたかどうか聞いただけなのに。 やーらしー!!」なんてキャッキャウフフしてみたら「ツイッターでクソリプされた気分だわ」とけんもほろろにあしらわれるので、ご注意を!

▼参考文献
『古季語と遊ぶ:古い季語・珍しい季語の実作体験記』宇多喜代子 角川学芸出版
『官能小説用語表現辞典』永田守弘 編  ちくま文庫

(貴崎ダリア)