「SFな世界を舞台に、恋する乙女のストーキングが不倫に発展していく異形サイエンス・フィクション」と聞いたら「は?」と思う人も多いと思いますが、この異色な設定の組み合わせががっちりハマってしまった『あげくの果てのカノン』が売れすぎて、一時書店から消え失せてしまったため緊急重版がかかったとのニュースが今年6月に駆け巡ったことをご存知の方も多いのではないでしょうか?

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 「不倫SFでストーカーで純愛!? って何……」と漫画好きなオタクが集う編集部でも困惑したことは言うまでもありませんが、近くの書店では10月17日に発売された2巻がやっぱり売切中。書店員に聞いてみると「ここ数日で売り切れた」とのことで、どうやら小学館の公式サイトにて公開されているコミックス公式PVのクオリティも手伝っている様子。

PVのテロップもかなり煽ってる
恋の暴発。

 『あげくの果てのカノン』は米代恭さんが小学館「月刊!スピリッツ」に連載している、ざっくり言ってしまえば恋する乙女の恋愛(不倫)ストーリーです。
謎のゼリーと呼ばれるエイリアンが襲来し、以来首都としての機能を失った東京を舞台に主人公の高月かのんは高校時代からストーカー的に想いを寄せている境先輩(既婚者)への恋心を持ち続けたままアルバイト先の喫茶店で再会します。つまり、ドロドロした昼ドラにありそうな不倫ものではなく、あくまで純粋な恋心を持ち続けた相手が結婚しちゃってて、それでも思いを断ち切ることができなく日陰から想っていたら成就しちゃった……という恋愛ものが異形の何かとドンパチしてるSFの世界で起こっちゃってるんです。

 しかも、主人公の“純愛”が間違いなくストーカーレベルだというのが、この物語のポイントでもあります。 主人公の恋心は日陰者らしくあくまで先輩に迷惑のかからない範疇で想いを寄せているものの、先輩との会話を密かに録音して家で聞き返したり、先輩の写真をスクラップするのは当たり前で、果ては先輩が鼻をかんだと思われる紙ナプキンを収集したりとガチっぷりをこれでもかと見せつけます。それでも主人公のルックスの可愛さや先輩に対する想いが強すぎて涙しちゃうところなんかを見てしまうと「恋する女子は可愛いなぁ」なんて思ったりも。しかしこれは作者の力量で極限まで微笑ましく描かれているだけで、冷静に考えたら主人公の行動や言動は「ぞっ」とするほど。

 さらに先輩が主人公を好きになった理由が「仕事であるゼリーとの戦闘で負った傷の修復をする度に細胞に変異が起こり、少しずつ別人のようになっていっており嗜好も変化したから」である可能性が高いというもの。SFとは言え緩やかにアイデンティティが崩壊していくような設定は空恐ろしさを感じさせ、恋愛エピソードに絶妙なスパイスを加えています。

 公式サイトが「ストーカー気質メンヘラ女子の痛すぎる恋に、共感の嵐です!」と言っちゃうほど主人公のストーカーぶりが常軌を逸しているのに「やだ、キュンキュンしちゃう……」と思うのは、ところどころに残酷でグロテスクなシーンが挿入されることによる吊り橋効果的なものも間違いなくあると思います。キュンキュンしてたらぞっとして、ちょっぴり命の危険を感じながらもまたキュンキュンするの繰り返しは間違いなく中毒性たっぷり。
芥川賞作家の村田沙耶香さんも「「恋」ほど無垢な異常はない」と帯にコメントを寄せているように、無垢な狂気にドキドキキュンキュンしちゃいたい人は、ぜひチェックしてみてくださいね!

(文:大路実歩子)