今、Web上で熱い視線を集める三角コーンにお地蔵様が浮かぶ「地蔵コーン」。街中に何気なく置いてあったら思わず二度見してしまいそうなコレ、一体何なのでしょうか?

というわけで、今回は地蔵コーンの作者で紳士気鋭の現代美術家である長谷川維雄(ふさお)さん(@hasegawa_fusao)に地蔵コーンについて独占インタビューしてみましたよ!

【関連:警察官も二度見確実 坊主頭型ヘルメット】

長谷川維雄(ふさお)さん(@hasegawa_fusao)より。

Q.
地蔵コーンは現在第4世代とのことですが、第1世代を制作されたのはいつごろでしょうか? また、地蔵コーンをつくろうと思われたきっかけを教えてください。

A.
試作第1号は2009年です。複数作り始めたのは2010年の第2世代からです。
作ったきっかけは、日本の地蔵信仰は神道の道祖神信仰と習合したという独特の経緯があり道路を守るものであるから、その点がカラーコーンと似ていると思ったことからです。
それと、パブリックアートを作りたいという願望がありました。しかし駅前にあるようなブロンズ彫刻は、よほどの大御所にならないと任せてもらえません。そこで思いついたのが『都市風景にジワジワと浸透することで、風景全体を作品にする』というアイデアです。
街に滑らかに浸透するためには、金属や御影石のような単体で美しい素材よりも、街と同じリズムで風化していくポリプロピレンのような素材のほうが良い。その点でもカラーコーンは最適なモチーフでした。カラーコーンは世界中にありますが、それが地蔵が結びつくのは日本独特の文化事情ですから、特に観光客が偶然見つけたらとても面白がるんじゃないかと思います。日本の日常風景に定着するまで、辛抱強く作り続けます。

Q.
1本(一尊)のお値段はおいくらでしょうか? また、何本(何尊)から発注可能でしょうか?

A.
実は写真のは簡易型による試作品で6月上旬ごろに金型の制作に入りますので、正確な値段はまだ確定しておりません。発売は夏頃です。どんなに高くても8,000~9,000円以下に抑えられるよう調整しております。
もし購入をお考えの方がいらっしゃいましたら、ご連絡頂けたら値段設定の参考に致します。
発注は一尊から可能です。大型なので単品だと送料が1500円ほどかかります。複数注文の場合は梱包の関係で多少送料が安くなります。また、東京ではいくつか販売代理をお願いしているお店があり、そこで直接購入いただく場合は送料はかかりません。

Q.
カラーは基本の赤、オプションでブルー、グリーン、イエローがあると拝見しましたが、例えばピンクなどの通常のコーンにはない色をつくってほしい! というお客さまがいらっしゃった場合、対応は可能でしょうか?

A.
ピンクは可能です。特殊カラーは、市販のカラーコーンにある範囲の色であれば制作可能ですが、同色の注文が最低10体は見込みがなければ作ることができません。
カラーコーン地蔵の製作工程は、まず通常の市販カラーコーンを切り抜き、そこに色を合わせた地蔵部分を工業用接着剤ではめ込みます。この地蔵部分の塗料の調色が、1~2尊程度の単発では赤字になってしまうのです。ピンクの他にも白や黒や茶、パステルカラーのコーンなども市販されているの制作可能です。それらはコーン自体が基本色に比べて割高なので、その材料分は料金に上乗せになります。

Q.
地蔵コーンを購入された方の感想は? また、現在までにどのくらいの本数を販売しましたか?

A.
それぞれの使い方で親しまれているようです。カフェのようなお店での使用がウケがいいようです。正確な数は数えていませんが100体くらい販売したと思います。

Q.
『街に溶け込み、風景全体を作品にする』というコンセプトについて、地蔵コーンというアート作品がある街、見た人、それに対する反応全てが作品であるというコンセプチュアルアートやインスタレーションの一貫ではないだろうかという印象を受けました。

A.
はい、アート作品です。着想の理由のところでも答えたように、街の風景にいかに自然に溶け込むかというところがポイントです。この作品に興味を持ってくださった方から「道を歩いているときに「地蔵コーンがその辺に隠れているんじゃないか」と、街中の普通のカラーコーンの表情も気になってきた」という嬉しいご意見を頂きます。そういうワクワク感が一番コンセプトに近いです。

Q.
2015年に行われた「鎌倉のお寺さんに地蔵コーンを寄進した~い」プロジェクト(http://iikuni-kamakura.jp/pj/IknT4514023) についてですが、現在も寄進された地蔵コーンはお寺さまで使われているのでしょうか?

A.
はい、使われています。
鎌倉に寄進したのは第2~3世代で、素材がポリプロピレンではなく、製法もひとつひとつ僕の手作りです。そのため一見プロダクト的なクオリティは低く見えるかもしれませんが、その素朴さが魅力と言ってくださる方もいらっしゃいます。

Q.
同じく、「鎌倉のお寺さんに地蔵コーンを寄進した~い」プロジェクトにおいてのリターンにミニ地蔵コーンホルダーがありましたが、こちらは販売されていないんですか?

A.
ミニチュア地蔵は元々は2014年の僕の個展の際、展示を企画・出資してくださったART LABさんという会社が作ってくれたイベントグッズです。ですから、まだ在庫があればそちらの会社のサイト(http://artlab.theshop.jp/items/833867 ※現在はSOLD OUT)から「カラーコーンお地蔵様消しゴム」というものが購入できます。僕自身も気が向いたらまた作るかもしれません。

Q.
『月刊住職』さまから取材を受けられたそうですが、どのような内容の記事だったのですか?

A.
鎌倉市のプロジェクトで、鎌倉のお寺さまにカラーコーン地蔵を寄進したことに関しての記事です。本職の仏教関連の方々には、快く思わない方も多いのではないかと思っていたので、好意的に取り上げて頂けたのは嬉しかったです。

Q.
地蔵コーンのお地蔵様のモデルがあれば教えていただけませんでしょうか?

A.
2歳の甥がメインのモデルです。
本当の仏像は顔の比率にきまりがあるそうなのですが、あえて現実の子供に近く作っています。それは、ちゃんとした仏像の領域を中途半端に模倣することに躊躇があったのと、公共の道路に置かれることを想定したものなので、特定の宗教色を弱めたいという意図もありました。

余談ですが、地蔵は発音が『ジーザス』に似ているということと、自身の徳は充分なのに敢えて現世で人々と一緒に苦しむことで悟りに導こうという在り方がイエス様に似ているとのことで、キリスト教圏の人にも親しみやすいという話を聞いたことがあります(うろ覚えなので、間違った知識だったらごめんなさい)。それがちょっと頭にあったので、聖母子像や天使の彫刻なども少しだけ参考にしました。

いま甥っ子が一番可愛いさかりなのですけれども、子供って眠ってるときに可愛さと尊さどっちともつかない顔をするんです。その感じを出したかった。可愛いばかりだと媚びている感じがして嫌だったので。
それから一番重視したのは『カラーコーンらしさ』を失わないことです。異物同士を無理に合体させたような雰囲気ではなく地蔵のイメージがするりと普通のカラーコーンにも浸透していくようにしたかったので、全体に強いエッジは抑えて、ペニョッとしたポリプロピレンらしいフォルムを狙っています。

Q.
地蔵コーンがもし夜道にあったら驚かれる方もいらっしゃると思いますが、そのような反応は今までにありましたか?

A.
ネットの画像だと多くの人が反応しますが、実際に置いてみると風景と同化してしまって大人はまず発見できません。
人通りの多い道で2時間くらい放置したことがありましたが、気づく人はいませんでした。すでに設置されているものについては、ときどきSNSなどで目撃情報を見かけます。みなさん楽しんでいるみたいです。

Q.
2014年に話題になった長谷川さんの作品である「エクストラバージン・ピーマンエア」(ピーマンの中の空洞にある空気を取り出してボトルに詰め込んだもの)と地蔵コーンには何か関連性がありますか?

A.
抽象的なテーマのレベルでは、全ての作品は繋がっています。
僕の作品に通底しているテーマに『あること/ないこと』『作ること/作らないこと』『現実/非現実、あるいは可能性』などがあります。
しかし、この話題をピーマンエアからスタートして地蔵にゴールさせようとすると、多分とても長くなってしまうので割愛させてください。
キーワードだけちょっと挙げると、サン=テグジュペリの『星の王子さま』にある「砂丘が美しいのは、どこかに井戸を隠しているから」という台詞は、僕にとって発想の原点になっています。砂丘を美しくするためには、なにも砂丘の全体をいじらずとも、どこかに井戸がひとつあるだけでいいし、もっと言えば、どこかに井戸がある可能性を誰かが信じているだけでもいい。ただの空ビンをいかに魅力的にできるかとか、どうやったら普通の街の風景を少ない手数で自分の作品世界に巻き込めるかとか……全部そういうような考え方です。

Q.
今後も地蔵関連で何かアートをつくられる予定はございますでしょうか?

A.
地蔵そのものを作る予定はありませんが、根底のテーマは常に繋がっています。

長谷川さん、長い時間ありがとうございました!

思わず目を引いてしまう地蔵コーンですが、今後全国的にどんどん増えていったらおもしろいですよね。
長谷川さんの根本的なところでコンセプトが繋がった今後の作品も要チェックです!

▼参考
長谷川維雄さん公式ホームページ

(取材:大路実歩子)