1850年にフランスで発明された「鶏卵紙写真」ってご存じですか?写真のプリント技法のひとつで、卵の卵白を使うことからその名が付けられています。日本でも幕末から明治にかけ撮影された写真にはこの「鶏卵紙」をもちいてプリントされたものがいくつも存在しています。

現代でも一部の写真ファンや研究家など限られた人によって再現されていますが、商用的にはほぼ廃れている技法。その鶏卵紙の技術を商用復活させようという試みが行われていると聞きつけ、撮影モデルをかねて体験撮影に行ってきました。

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湿板写真館入り口

昨年の2015年中頃、テレビで取り上げられた野良猫の聖地「夕焼けだんだん」を見にいったとき、辺りを散歩していたところ古本屋におかれたチラシで湿板写真館を知りました。その後、店主でカメラマンの和田氏にはガラス湿板の写真を撮ってもらい記事で紹介させていただいたのですが、カメラが趣味ということもあり今でもやりとりが続いています。

以下、ある日の会話。
カメラマン和田氏「鶏卵紙用の液沢山作りすぎて、どれが何やらわからなくなってきた。」
私「鶏卵紙、やってみた~い!」

そんな会話の後、和田氏より連絡!
鶏卵紙写真、見に来ないか。モデルもやってみてという事なので、サバイバルゲームの装備を手にそそくさ行ってきました。

現場の湿板写真館はJR日暮里駅から徒歩5分ほど。入り口からして昭和のレトロな雰囲気、なんとなく安らぎを感じます。中のスタジオは10メートル四方位。

撮影に使用したカメラ
カメラのネームプレート

今回、撮影に使用したカメラは日本製の案箱カメラ。
アメリカ製のものより3分の1ほどの値段で手に入り、しかも作りがカッチリ精密にできていて扱いやすいとか。最近、フランスでも湿板写真の人気がでてきて、ヤフオクでも簡単には落札できなくなってきたそうです。

古いカメラというものはフィルムが手に入らなくなると人気が落ちるものだそうですが、湿板写真の場合、撮影直前にガラスに感光材を塗り、露光後に現像、定着まで一気にやらねばならない手間はかかるものの、自分で感光板を作れることが知れ渡ってアート写真用に人気がでているそうです。

さて、撮影に取りかかります。今回はアメリカ軍海兵隊が現在使用しているMERPAT、Marine Patternの略でマーパッドと読みますが、世の中には戦国自衛隊という、現代の軍隊が戦国時代にタイムスリップする映画もあるし、アメリカ海兵隊が日本の幕末で写真に収まる雰囲気もあって良いのではないかということで、もろに現代の装備でやってみました。

カラーの僕

今回は大判のB4サイズ大に挑戦です。というのも今回試してみる鶏卵紙の印画紙、ネガとなるガラス湿板と印画紙となる鶏卵紙をピッタリ密着させ、玩具の日光写真の要領で紫外線に露光して作成するため、ネガ役のガラス湿板の大きさにしか写真をプリントできません。今回は鶏卵紙も大きな写真として制作したいため、B4版サイズでやっています。

感光板を作る和田氏

ガラス湿板自体を写真として使用するなら露光時間は6秒でしたが、今回はそのガラス湿板を長く露光、ネガとして使用するというもの。12秒露光と20秒露光、二通りやってみました。

ガラス湿板

鶏卵写真というと坂本龍馬の写真がよく知られていますね。高知県立坂本龍馬記念館のHPによると、桂浜の銅像のモデルになった立ち姿のものが2枚、イスに座ってブーツを履いている写真1枚と他にも複数あるそうです。しかも龍馬は名刺代わりに配っていたようで、まだ発見されていない鶏卵紙写真がどこかに眠っている可能性もあるそうですよ。

撮影では坂本龍馬が撮影した時代の露光時間が20秒なので、その露光時間で動かずにいられてキッチリ写るということは、僕が本当に龍馬の時代にタイムスリップしても当時のカメラで撮影できるかも、なんてしょうもないことも考えたりします。ちなみに今回は首押さえ棒という動かないための固定器具を後ろ側でガッチリ装着しました。

首押さえ板

さて、ガラス湿板のネガが出来たらいよい鶏卵紙の準備。この鶏卵紙、作成には卵40個文の卵白を一週間以上の手間暇をかけて様々な加工を施して作成したそうです。

鶏卵紙を準備する和田氏
露光風景

まずは20秒露光の濃いものと12秒露光でガラス湿板を変えて短冊状の鶏卵紙でテスト。
よし!この濃いやつで!と張り切ったもののなかなかうまく行かず、後日宅配で受け取ることに。

テスト用印画紙

受け取ったものがこれ。
今回の鶏卵紙、まだまだ改良の余地があり、今年秋から今年末の商業利用を目指すそうです。
この技術、出来上がったら一生の宝物としての重みのある写真が出来そう。楽しみです。

出来上がり写真

▼湿板写真館
・東京都荒川区西日暮里3ー2ー1
http://lightandplace.com/

(文:鉄砲蔵)