毎年1回のこの企画も今回で6回目になりました。今回もまた、2015年に公開されたアニメ映画のうち、私(筆者)が良かったと思う作品ベスト10を挙げたいと思います。

 なお、できるだけ多く劇場には足を運びましたが、2015年に公開された全てのアニメを網羅できているわけではありません。その点ご了承ください。それぞれご覧になった方によって順位や価値観は異なると思います。「こういう見方もあるのだな」程度の気楽な気持ちでご覧いただければ幸いです。

※本稿はネタバレを含んでいますのでご注意ください。

【関連:2014年アニメ旬報ベスト10】

■第10位…『劇場版進撃の巨人 後編 自由の翼』

 テレビアニメ『進撃の巨人』の再編輯版の後篇。前作と同様に戦闘シーンが見所ではありますが、前作の戦闘シーンでは町中を縦横無尽に飛び回っていたのに対し、本作は全く趣の異なる2種類の戦闘シーンが描かれています。

 まずは、大平原を調査兵団が進むシーンです。団員の陣形が画面端に表示され、どの位置の団員がどのように行動しているのかをリアルタイムで描きました。いつ敵に襲われるか分からない緊迫感が張り詰め、観客に対しても作戦に参加しているかのような緊張を強いました。このシーンの優れた点は、観客を戦闘全体を把握できる立場に置きつつ、各団員の動きを1人1人詳細に描くことによって、調査兵団の激闘にリアリティを与えている点にあります。

 この次に描かれる戦闘シーンでは、調査兵団が森林の中を一直線に突っ走ることになります。森林の中ではひたすら前へ前へと進むしか選択肢はなく、行動がかなり制限されているために、先程のシーンとはまた違った、追い詰められるような息苦しさが漂っています。逃げ場がないという恐怖と、どんどん先へ進むスピード感が同居した、独特の戦闘シーンとして仕上がりました。そしてその後、エルヴィン団長(声・小野大輔)の号令の下で壮絶な砲撃が行われる描写は、それまでの重苦しさを吹き飛ばすような迫力をもたらしました。

 『進撃の巨人』は前篇の市街戦、後篇の野戦、そして森林での戦いと、様々なシチュエーションの戦闘を描いたことで、人類と巨人の激闘が衝撃的に記録されたと言えるでしょう。

進撃の巨人ポスター

<製作委員会>ポニーキャニオン、講談社、Production I.G、電通、ポニーキャニオンエンタープライズ、MBS
<配給>ポニーキャニオン
<アニメーション制作>WIT STUDIO
<スタッフ>原作・諫山創、脚本・小林靖子/高木登/瀬古浩司、総作画監督・浅野恭司、音楽・澤野弘之、3DCGディレクター・藪田修平、監督・荒木哲郎
<出演者>エレン・イェーガー・梶裕貴、ミカサ・アッカーマン・石川由依、アルミン・アルレルト・井上麻里奈、エルヴィン・スミス・小野大輔、ハンジ・ゾエ・朴王路美、リヴァイ・神谷浩史、アニ・レオンハート・嶋村侑、他

■第9位…『機動戦士ガンダム THE ORIGIN I 青い瞳のキャスバル』

 テレビアニメ『機動戦士ガンダム』ではあまり描かれなかった、ムンゾ自治共和国(ジオン共和国)指導者の死に伴う政局を描いた中篇。

 テレビアニメ『機動戦士ガンダム』第38話「再会、シャアとセイラ」の回想シーンではジオン共和国の指導者でありキャスバルとアルテイシアの父でもあるジオン・ズム・ダイクンの死の様子がジンバ・ラルによって語られました。それによれば、ジオンは急の病に倒れ、臨終間際にデギン・ソド・ザビを後継者として指名しました。そしてジンバ・ラルによると、ジオンの気性を考えると、ジオンは自分を暗殺したのはデギンだと知らしめるためにデギンを後継指名したと考えられるそうです(但し映画『機動戦士ガンダムⅢ めぐりあい宇宙』ではジオンがデギンを後継指名したというジンバ・ラルの台詞は登場しませんでした)。

 私の正直な感想を申し上げると、私はジンバ・ラルが語る理屈があまりピンと来ませんでした。デギンが暗殺犯だと明言すると妻子や関係者に危害が加えられる虞があるから明らかにしなかったと考えることもできますが、一方でデギンに権力を与えるのは危険だと考えることもできます。或いはデギンに公的地位を与えて衆人環視の状況にし迂闊なことをさせまいという目論見だったのでしょうか。そもそも、本当にデギンがジオンを暗殺したのか、またジオンが「デギンが自分を暗殺した」と考えていたのか、その辺も結局はジンバ・ラルの想像の域を出ないと言えます(キャスバルとアルテイシアが身の危険に晒されたという状況証拠はあったようですが)。このようにガンダム38話の回想シーンは、短いシーンでありながらも想像をかき立てるシーンとなっていました。

 そして本題の『機動戦士ガンダム THE ORIGIN I 青い瞳のキャスバル』ですが、上記の経緯をより詳しく、パラレルワールド的に描いています。
 ムンゾ自治共和国の指導者・ジオン・ズム・ダイクン(声・津田英三)は地球連邦からの独立を議会で演説しようとしていましたが、何と登壇して喋り出そうとした瞬間に胸を押さえて倒れ、亡くなってしまいました。仮にジオンの死が暗殺事件だと仮定して、事件というものは、最も得をした者が真犯人の可能性が高いとよく言います。そこで、ジオンの演説が阻止されたことで最も得をしたのは誰かと言うと、それは地球連邦ではないかと推測されます。

 劇中では、民衆がジオンを暗殺したのは地球連邦だと主張してデモを起こし、地球連邦軍がこれを弾圧していました。しかし、このように世論を煽ったのはザビ家でした。地球連邦暗殺説は説得力のある説ですが、ザビ家が広めたことを考えると、胡散臭さは拭えません。ザビ家の政敵・ジンバ・ラル(声・茶風林)は、ザビ家が上記の説を流布させたことを根拠として、ザビ家がジオンを暗殺したのだと主張します。まあ一理ある気もしますが、劇中のジンバ・ラルは感情的になっており、ザビ家が憎たらしいから犯人扱いしているようにも見えます。
1つ言えることは、テレビ版にしても本作にしても、ザビ家がジオンを暗殺したというジンバ・ラルの主張の根拠は弱い印象を受けるという点です。但し、ジオンの息子であるキャスバル・レム・ダイクン(声・田中真弓)はザビ家が暗殺犯だと確信していました。思い当たる節があったのかもしれません。

 そうした中で、今度はザビ家の兄弟であるサスロ・ザビ(声・ 藤真秀)とドズル・ザビ(声・三宅健太)が乗った自動車が爆破され、サスロが死亡してしまいました。マスコミはラル家の仕業ではないかという説を流します。これに対してジンバ・ラルはザビ家の当主デギン・ソド・ザビ(声・浦山迅)が自ら息子を暗殺したのではないかと主張しますが、ジンバ・ラルの息子ランバ・ラル(声・喜山茂雄)は、サスロは有能なので殺す筈はないと指摘し、父の見方を否定します。

 さて、一通り劇中の政局を見てきましたが、本作の最も優れた点は、歴史が急激なスピードで動いていく様子を描いている点です。もっと具体的に言えば、ジオンの急死をきっかけにして、サスロ暗殺事件などが引き起こされ、政局がどんどん動いていく様子が描かれ、観客が激動の歴史を体験しているのです。但しジオンの急死についても、果たして病死なのか暗殺なのか、暗殺だとしたら誰が暗殺したのか、サスロの暗殺事件についても誰が犯人なのか、真相は不明であり、幾つもの説が劇中で提示されています。逆説的ではありますが、事件の真相が不明であるが故に、政局の1つの真実を鋭くえぐっているのが本作の特徴です。つまり、事件の真相がどうかは大した問題になっておらず、個人個人が何を真相だと思っているか、或いは世間で何が真相だと思われているかが政局を動かしているのです。

 例えばキャスバルは、ジオンを暗殺したのがザビ家であるという前提の下に、後々の歴史を動かしました(ザビ家に狙われていたという理由もありますが)。仮にザビ家はジオンを暗殺しておらず、キャスバルが誤解に基づいて行動していたとしたら、それは歴史の残酷な悪戯としか言いようがありません……。
 最後に、本作の楽しみの1つとして、『機動戦士ガンダム』の登場人物であるランバ・ラルやハモンの若かりし頃の姿が描かれている点が挙げられます。

機動戦士ガンダム 看板

<製作>サンライズ
<配給>松竹
<スタッフ>原作・矢立肇/富野由悠季、漫画原作・安彦良和、脚本・隅沢克之、キャラクターデザイン・安彦良和/ことぶきつかさ、オリジナルメカニカルデザイン・大河原邦男、メカニカルデザイン・カトキハジメ/山根公利/明貴美加/アストレイズ、総作画監督・西村博之、メカニカル総作画監督・鈴木卓也、音楽・服部隆之、監督・今西隆志、総監督・安彦良和
<出演者>キャスバル・レム・ダイクン・田中真弓、アルテイシア・ソム・ダイクン・潘めぐみ、ジンバ・ラル・茶風林、ランバ・ラル・喜山茂雄、クラウレ・ハモン・沢城みゆき、デギン・ソド・ザビ・浦山迅、ギレン・ザビ・銀河万丈、ドズル・ザビ・三宅健太、キシリア・ザビ・渡辺明乃、他

■第8位…『シンドバッド 空とぶ姫と秘密の島』 

 日本アニメーション創立40周年記念作品で、三部作の1作目。本作最大の魅力は、或る日突然、日常を叩き壊すドキドキワクワク感にあります。

 主人公・シンドバッド(声・村中知)は町中で空飛ぶ馬に乗った少女・サナ(声・田辺桃子)と、サナを追いかける空飛ぶ悪い奴らと遭遇します。明らかに両者とも只者ではないんですが、その只者ではない人々との遭遇をきっかけにして一気に冒険の物語が広がっていくという展開は、ロマンに満ち溢れています。

 そして終盤では、主人公一行が敵の襲撃を受けて手に汗握る大ピンチを迎える中、謎の怪鳥が乱入し盛り上がりは最高潮に達しました。凄くいいところで映画が終わってしまうのも、次回作を見ざるを得ないという点で巧い。

シンドバッド ポスター

<製作委員会>イオンエンターテイメント、白組、メ~テレ、MAM、朝日新聞社、日本アニメーション
<配給>イオンエンターテイメント
<アニメーション制作>日本アニメーション
<スタッフ>シリーズ構成・川崎ヒロユキ、脚本・早船歌江子、キャラクターデザイン/総作画監督・佐藤好春、音楽・大野宏明、監督・宮下新平
<出演者>シンドバッド・村中知、ラザック船長・鹿賀丈史、サナ・田辺桃子、アリ・永澤菜教、ナジブ・宮澤正、ラティーファ・薬師丸ひろ子、他

■第7位…『蟲師特別編 鈴の雫』

 テレビアニメ『蟲師』の中篇映画。
山の自然のバランスを司る山の主に選ばれた少女・カヤ(声・齋藤智美)の姿と、妹は普通の人間だと言い張る兄・葦朗(声・小川ゲン)の葛藤を描きます。
後半、山の主の代替わりが起こり、カヤは山に吸収されてしまうのですが、その後の葦朗の描写が最も印象に残りました。それは、葦朗が山にお供え物をする場面です。そこには山の自然のバランスを司る役割を全うし、人々を見守ってくれているカヤへの感謝の念が表れていますが、ひいては、人間を包み込み、人間を生かしてくれる、人間を守ってくれると同時に、人間の力ではどうにもできないほど大きな存在である自然に対する畏敬、感謝、恐怖といった念もまた含まれていると考えられます。
 現代文明に生きる我々観客は、日常生活の中で自然に対して何かを思うというのはあまりないと思いますが、本作の上記のシーンは、日本人が大昔に持っていたであろう素朴な感情を我々に思い起こさせているのではないでしょうか。

蟲師 寄せ書き

<製作委員会>講談社、アニプレックス
<配給>アニプレックス
<アニメーション制作>アニメーションスタジオ・アートランド
<スタッフ>原作・漆原友紀、キャラクターデザイン/総作画監督・馬越嘉彦、音楽・増田俊郎、監督・長濵博史
<出演者>ギンコ・中野裕斗、カヤ・齋藤智美、葦朗・小川ゲン、ナレーター・土井美加、他

■第6位…『PERSONA3 THE MOVIE #3 Falling Down』

 『ペルソナ3』シリーズの3作目 本作で最も心動かされるのがチドリ(声・沢城みゆき)のエピソードです。 チドリの存在がどれくらい重要かと言うと、パンフレットで他の主要登場人物は1人で半ページなのにチドリは1人で1ページ使っているぐらいです。

 チドリは敵側の一員なのですが、主人公側のメンバー・伊織順平(声・鳥海浩輔)と親しくなり、段々と心を開いていきます。パンフレットの3~4ページには見開きでこの様子の描き下ろしイラストが掲載されていてニクイ。この恋模様が心温まっていい感じなんですよね。修学旅行先でチドリにお土産を買っていく順平も微笑ましいです。しかしそんなムードは一変、敵方の元に戻るチドリ。やはりチドリは敵なのか……!?そして衝撃のクライマックス。悲しすぎてこれ以上は書けません……。

ペルソナ3 ポスター

<製作委員会>明記されず
<配給>アニプレックス
<アニメーション制作>A-1Pictures
<スタッフ>原作・アトラス、脚本・熊谷純、キャラクターデザイン・渡部圭祐、総作画監督・石川智美/大塚八愛/山田裕子、音楽・目黒将司/小林哲也、監督・元永慶太郎
<出演者>結城理・石田彰、桐条美鶴・田中理恵、真田明彦・緑川光、岳羽ゆかり・豊口めぐみ、伊織順平・鳥海浩輔、山岸風花・能登麻美子、アイギス・坂本真綾、イゴール・田の中勇、他

■第5位…『あなたをずっとあいしてる』

 宮西達也の絵本を映画化。自然界の掟を子供達に教える、教育的価値を持った映画でした。

 主人公・トロン(声・高梨謙吾/竹内順子)はティラノサウルスなので、肉食恐竜なのですが、たとえ子供向け・ファミリー向けアニメ映画であるとしても、本作はティラノサウルスが他の生き物(草食恐竜)の命を奪って食料としていることに目を背けず、寧ろ真正面から描いています。しかし、ティラノサウルスの群れが狩りをするシーンでは、群れの指導者でありトロンの父親でもあるゼスタ(声・三宅健太)による教えも登場しました。それによれば、食べる分しか草食恐竜を殺害してはならないとのことです。それが自然界の掟という訳です。

 それでは、その掟を破ったらどうなるのでしょうか? ゼスタの死後、群れを率いたバルド(声・山口勝平)は腹心と共に、食べる分以上の草食恐竜を殺戮します。草食恐竜達は、普段から肉食恐竜に対してそれなりに抵抗してはいましたが、遂に怒りが頂点に達します。トリケラトプスの群れとアンキロサウルスの群れが同盟を結び、ティラノサウルスに全面戦争を仕掛けるのでした。ティラノサウルスと草食恐竜同盟の全面戦争を阻止しようとするトロン。

 このストーリーは我々人間にも教訓を突き付けています。私達も普段、鳥獣の肉な魚、そして米や野菜を食べて生きていますが、それは言うまでもなく動植物の命を戴いて私達は生かされているということになります。私達は自然の恵みに感謝し、謙虚にならなければならないでしょう。そしてこの映画は、そのことを子供達に教えているのです。

あなたをずっとあいしてる ポスター

<製作>Media Castle、Speed M
<配給>東京テアトル
<スタッフ>原作・宮西達也、脚本・宮西達也/増田久雄、監督・チェ・ギョンソク、総監督・野中和実
<出演者>トロン・高梨謙吾/竹内順子、メソメソ・水瀬いのり、キラリ・かかずゆみ、ゼスタ・三宅健太、セラ・渡辺満里奈、他

■第4位…『映画ちびまる子ちゃん イタリアから来た少年』

 テレビアニメ『ちびまる子ちゃん』の23年ぶりの劇場版。流石にギャグアニメとしての魅力も健在で、観客を笑わせる小ネタを随所に仕込んできます。なんば花月で芸を鑑賞するシーンでは、中田カウス・ボタン、笑福亭仁鶴、間寛平が声の出演をするというサービスぶりを見せました。

 本筋は海外の少年少女がまる子の町にホームステイをしに来て、まる子のクラスメイト達と交流を深めるという物語ですが、私が印象深かったのは、同時並行して映画を貫いた、イタリア人少年アンドレア(声・中川大志)が祖父の知人を探すというエピソードです。

 アンドレアの祖父マルコ(声・真地勇志)はカメラマンで、戦後日本の様子を撮影していたそうです。『ちびまる子ちゃん』の舞台は1973~74年頃なので、ここで言う戦後とは戦後間もない頃という意味でしょう。マルコは日本各地を巡りつつ、大阪で居酒屋を営む夫婦と親しくなりました。居酒屋の主人はマルコに店の名前が刻まれた栓抜きをプレゼントして再会を誓い合いましたが、マルコは半年前に亡くなってしまいました。そこでアンドレアが栓抜きを持って居酒屋を探しに来たという訳です。

 それにしても、戦後間もない頃にマルコはなぜ日本の様子を撮影しに訪れたのでしょうか。恐らくマルコは1910年代前半生まれと推測され、何からの形で第二次世界大戦を経験している筈です。イタリアは第二次世界大戦の当事国の1つですから、マルコが戦時中に日本に対して何からの感情を抱いていたとしても不思議ではありません。

 劇中ではマルコがなぜ来日したのかは明らかにされていませんが、激動の時代を生きた人物の個人史がほの見える点が本作の優れた点となっています。
そして感動するのが、マルコの死後もアンドレアがその遺志を受け継ぎ、20数年前の約束を果たそうとしている点です。20数年の時と国境を超えて約束を果たすクライマックスでは、熱いものがこみ上げてきます。そこにあったのは真の国際交流であり、ひいては人間同士の固い友情でありました。

ちびまる子ちゃん 看板

<製作委員会>フジテレビジョン、日本アニメーション、東宝、博報堂DYメディアパートナーズ、読売広告社、FNS27社
<配給>東宝
<アニメーション制作>日本アニメーション
<スタッフ>原作/脚本・さくらももこ、キャラクターデザイン・船越英之、総作画監督・西山映一郎、音楽・中村暢之、監督:高木淳
<出演者>まる子・TARAKO、おじいちゃん・島田敏、アンドレア・中川大志、マルコ・真地勇志、小杉・一龍斎貞友、ネプ・パパイヤ鈴木、他

■第3位…『劇場版蒼き鋼のアルペジオ-アルス・ノヴァ-Cadenza』

 テレビアニメ『蒼き鋼のアルペジオ-アルス・ノヴァ-』の劇場版2作目。白熱したバトル、笑えるコント的要素、涙なくしては見られないラストと、観客の喜怒哀楽の感情を刺戟しまくる娯楽作品です。

 ストーリーはシリアスなのに、霧の生徒会の生徒会日誌と腕章はシリアスとはかけ離れた愉快なものでした。そして本作の見せ場は、何と言っても軍艦同士の海上戦闘です。航空機が介入せず、海上を航行する軍艦のみによる海戦シーンを描いた映画というのは珍しいのですが、本作はそのような海戦シーンが大変充実した映画となっています。中でも圧巻は、コンゴウ(声・ゆかな)VSヒエイ(声・M・A・O)の同型艦対決。恐れを知らない殴り込みっぷりは観客の度肝を抜きました。

 そしてラストは一気に泣ける展開に。主人公・千早群像(声・興津和幸)がヒロイン・イオナ(声・渕上舞)にブローチを買ってあげるという途中の何気ないシーンが、ラストに効いてくるんですね~。ラストにブローチだけ残る描写が泣けるんですよ。因みに、出演声優の山村響さんが描いた漫画がパンフレットに掲載されているんですが、これがほのぼのとしていて微笑ましいんですよね~。声優としても活躍し、漫画家の才能もあるとは天は二物を与えてしまいました。

 それにしても2015年は、映画の戦闘シーンを好む者にとっては、『スター・ウォーズ フォースの覚醒』で空中戦、『蒼き鋼のアルペジオ-アルス・ノヴァ-Cadenza』で海上戦、『ガールズ&パンツァー』で陸上戦と陸海空揃って絢爛豪華な年でありました。

蒼き鋼のアルペジオ--アルス・ノヴァ- ポスター

<製作委員会>フライングドッグ、ウルトラスーパーピクチャーズ、サミー、クロックワークス、創通、ショウゲート、少年画報社
<配給>ショウゲート
<アニメーション制作>サンジゲン
<スタッフ>原作・ArkPerformance、脚本・上江洲誠/森田繁/中村浩二郎、キャラクターデザイン・森田和明、メカデザイン・松本剛彦/足立博志/鈴木大介、音楽・甲田雅人、3DCGアニメーションディレクター・鈴木大介、監督・岸誠二
<出演者>千早群像・興津和幸、イオナ・渕上舞、ムサシ・釘宮理恵、ヤマト・中原麻衣、千早翔像・中田譲治、ナチ・佐藤聡美、アシガラ・三森すずこ、他

■第2位…『ガールズ&パンツァー 劇場版』

 世界の戦車映画の歴史に、また新たな傑作が加わりました。それがテレビアニメ『ガールズ&パンツァー』(通称・ガルパン)の劇場版であります。映画本篇開始前にはテレビシリーズの基本設定・あらすじをダイジェストで紹介するという親切設計。テレビシリーズ完結から月日が経っていることに対する、或いはテレビシリーズを観ずに映画館に足を運んだ観客に対する配慮の表れであり、作り手の優しさはありがたいことです。

 そして映画冒頭では「パンツァーフォー!」という掛け声と共にオープニング曲としてテレビシリーズの劇伴「戦車道行進曲!パンツァーフォー!」が流れます。『涼宮ハルヒの消失』もそうですが、テレビアニメの劇場版でテレビシリーズの楽曲がオープニング曲に起用されると盛り上がります。

 ガルパンの主要な舞台は茨城県大洗町なのですが、私は個人的に感慨深い点があります。というのも、私は2011年8月15日にツイッター上で

“『うる星やつら』『ファイト一発!充電ちゃん!!』の劇中にも登場した大洗海水浴場は、放射性物質が検出されていないにも拘わらず、お客さんの人数が前年の16・3%だそうです。さあアニメファンの皆さん!今年の夏は『うる星やつら』『充電ちゃん』の舞台を見に大洗海水浴場に行こう! #茨城“

などとツイートしたことがありまして、ガルパンが近頃流行りの聖地巡礼(オタクツーリズム)を盛り上げて大洗の活性化に貢献したことを大変喜んでおるのです。

 劇場版ガルパンでも前半では大洗を股に掛けたエキシビションマッチが繰り広げられ、肴屋本店や大洗ホテルが爆発するわ大洗磯前神社の石段を駆け降りるわ(よく許可が下りたものだ)アクアワールド茨城県大洗水族館の看板がデカデカと画面に映るわ、大洗町の名所が次から次へと登場するサービス満点のシークエンスとなりました。

 さて今、映画前半のエキシビションマッチについて申し上げましたが、本作は映画全体の中で(私も正確に測った訳ではありませんが)戦闘シーンが約4分の3を占める作品です。4分の3という数字は、1969年のイギリス映画『空軍大戦略』(監督・ガイ・ハミルトン)に匹敵する数字だと思います。前半のエキシビションマッチの時点で、この映画の優れた点の多くが凝縮されています。

 例えば効果音。戦車が停車する時の、いかにも重いものが止まったという音、地面をジョリジョリと進むキャタピラの音、そして大砲の轟音など、臨場感は抜群で、まるで観客自身が試合会場にいるかのような迫力でした。映像面では、画面奥から手前に向かって飛んでくる砲弾も、同様の迫力でした。また、試合の緊張感を高めるのに貢献したのが、時折挿入される、俯瞰された遠景です。

 こういう戦場(正確に言うと戦場ではありませんが)は、やはり敵味方の位置関係を把握しないと、戦いの行方が分かりません。日露戦争を描いた1969年の映画『日本海大海戦』(本篇監督・丸山誠治、特技監督・円谷英二)や1980年の映画『二百三高地』(本篇監督・舛田利雄、特技監督・中野昭慶)では戦闘中、随所に敵味方の位置を説明するための地図を表示していました。本作では、遠景のカットがこの役割を果たし、試合のシーンを巧みに盛り上げました。エキシビションマッチとクライマックスの間にはドラマが展開されるのですが、テレビシリーズで描かれた閉校問題を蒸し返して無理矢理劇場版を作ったような展開や、霞ヶ関の一役人の思いつきで国家予算が左右されるかのような脚本は釈然としませんでした。
 しかし、そのような脚本も、クライマックスに燃える展開を用意するためのものだったのです!

 クライマックスで主人公達は新たな強敵と戦うことになりますが、何とテレビシリーズの対戦相手が次々と駆けつけ、共闘することになったのです!これは燃えます! 
去年、『宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟』に対するコメントでも同じことを言ったのですが、私はこういうの展開が大好きなのです。

 クライマックスの試合は、架空の遊園地を舞台としたことから、バラエティ豊富な光景が繰り広げられました。観覧車附近では、1979年の映画『1941』(監督・スティーブン・スピルバーグ、SFX・A・D・フラワーズ)における三船敏郎の活躍を「ミフネ作戦」としてパロディ化。これには三船敏郎ファンの私も大喜びです。

 このクライマックスの試合は(正確に計測した訳ではありませんが)約1時間に及ぶ長丁場ですが、次々と新たな見せ場を登場させ観客を飽きさせません。終盤には、西住姉妹のタッグというとっておきの熱い展開を用意し、周囲のアトラクションを次々と破壊しながら繰り広げられる激しい戦いを主人公・西住みほ(声・渕上舞)の主観映像で見せるなどされました。

 音楽面では、吹奏楽が大活躍し、さながら吹奏楽映画とも言うべき作品に仕上がっています。劇中、雪のシーンではないものの軍歌「雪の進軍」のメロディが流れる箇所がありましたが、そのシーンの登場人物の意気(割と無謀な行動が多い)と「雪の進軍」の「ままよ大胆」という歌詞が絶妙にマッチしていい味を醸し出していました。ガルパン劇場版は以上のように、映画の最初から最後まで観客を楽しませる要素に溢れており、まさに娯楽巨篇であったのです。

 余談ですが、本作のパンフレットの裏表紙の絵柄は1965年の戦車映画『バルジ大作戦』(監督・ケン・アナキン)のオープニングのパロディとなっており、先輩戦車映画に対して敬意を払っていることが窺えました。

ガールズ&パンツァー 立て看板

<製作委員会>バンダイビジュアル、ランティス、博報堂DYメディアパートナーズ、博報堂DYミュージック&ピクチャーズ、ムービック、キュー・テック
<配給>ショウゲート
<アニメーション制作>アクタス
<スタッフ>脚本・吉田玲子、キャラクター原案・島田フミカネ、キャラクターデザイン/総作画監督・杉本功、音楽・浜口史郎、3DCGI監督・柳野啓一郎、監督・水島努
<出演者>西住みほ・渕上舞、西住まほ・田中理恵、島田愛里寿・竹達彩奈、アンチョビ・吉岡麻耶、ケイ・川澄綾子、カチューシャ・金元寿子、ダージリン・喜多村英梨、他

■第1位…『GAMBA ガンバと仲間たち』

 名作児童文学をCGを駆使して映像化。流れるようなキャメラワーク、そして鼠を主人公にした作品らしくローアングルで駆け抜ける描写など、CGを縦横無尽に活かした作品となりました。クライマックスでは、ツブリ(声・野沢雅子)ら鳥達が現れると劇中世界の空間表現が空中に一気に広がるのが圧巻です。

 そして作品全体を一貫して貫いているのが、自分の危険を顧みず他人(他鼠)を助けようとするキャラクター達の心意気です。ノロイ(声・野村萬斎)が鼠にかけた催眠術を解くために自らの命を投げ打った忠一(声・野島昭生)。鼠達を脱出させるために自分達はノロイ達と共に高潮に巻き込まれようとしたガンバ一行。そして終盤でガンバ(声・梶裕貴)を助けるため海中に潜った潮路(声・神田沙也加)。
 それらのキャラクター達の勇気は観客の胸を打ちました。

 ところで話は変わりますが、『GAMBA』についてのインターネット上の動きに1つ残念な点がありました。そして全く同じ動きが同年公開の実写映画『日本のいちばん長い日』でも起きていました。その動きとは、『GAMBA』は斎藤惇夫氏の児童文学『冒険者たち ガンバと15ひきの仲間』を原作とした映画であり、同年公開の『日本のいちばん長い日』は半藤一利氏のノンフィクション『聖断 昭和天皇と鈴木貫太郎』と『日本のいちばん長い日』の2冊を原作とした映画であるにも拘らず、公開前にインターネット上で「出崎統監督のテレビアニメ『ガンバの冒険』をリメイクするとはけしからん」「岡本喜八監督の映画『日本のいちばん長い日』をリメイクするとはけしからん」と主張する向きがあったことです。
 しかし事実は、『GAMBA』は出崎統監督のテレビアニメ『ガンバの冒険』のリメイクではありませんし、同年公開の『日本のいちばん長い日』は岡本喜八監督の映画『日本のいちばん長い日』のリメイクではありません。映画を批判する時は、マナーをわきまえるべきだと思います。

ガンバ ドア

<製作>白組
<配給>東映
<スタッフ>原作・斎藤惇夫/薮内正幸、脚本・古沢良太、音楽・ベンジャミン・ウォルフィッシュ、監督・小森啓裕/河村友宏、総監督・小川洋一
<出演者>ガンバ・梶裕貴、ヨイショ・大塚明夫、ガクシャ・池田秀一、イカサマ・藤原啓治、忠太・矢島晶子、マンプク・高木渉、ボーボ・高戸靖広、潮路・神田沙也加、他

▼過去の記事

【新作アニメ捜査網】第29回 2010年アニメ旬報ベスト10 映画篇
https://otakei.otakuma.net/archives/3979878.html

【新作アニメ捜査網】第43回 2011年アニメ旬報ベスト10 映画篇
https://otakei.otakuma.net/archives/2012012603.html

【新作アニメ捜査網】第45回 2012年アニメ旬報ベスト10
https://otakei.otakuma.net/archives/2013010102.html

【新作アニメ捜査網】第48回 2013年アニメ旬報ベスト10
https://otakei.otakuma.net/archives/2014011001.html

【新作アニメ捜査網】第51回 2014年アニメ旬報ベスト10
https://otakei.otakuma.net/archives/2015011603.html

(文:コートク)