先日、宮崎県まで仕事で出向くことがありました。目的の予定も無事にすみ、帰りの飛行機までの時間を利用して、かねてより訪れたかった、鹿児島県霧島市にある高千穂河原に行ってみることにしたのです。

 高千穂河原はもともと、霧島神宮(鹿児島県霧島市霧島田口)があった場所。1235年の霧島山大噴火で消失し、霧島神宮は別の場所で再建されました。ただ古宮地とはいえ神籬斎場として祭祀が継続されており、毎年11月10日には、天孫(アマテラスの孫)のニニギノミコトが高千穂峰に天降ったという天孫降臨神話にちなみ『天孫降臨御神火祭』が行われています。

高千穂河原 駐車場より

 霧島神宮にはかつて訪れたことがありましたが、高千穂河原を訪れるのはこの日はじめて。数年前ブームになった「パワースポット巡り」で「鹿児島県最強のパワースポット」として紹介され、一時は普段より多くの人を集めていたようです。

高千穂河原入り口にある看板

 訪れた日は少し雲がかかるものの時折青空がのぞく丁度良い天気。この場所は、霧島山登山の拠点にもなっているそうで、駐車場には多くの車がとめられ、これから登る何人かの登山客もみかけました。

 駐車場を出てすぐの鳥居からゆるやかな坂がつづきます。歩いて2~3分ほどでしょうか、右に折れて直ぐに斎場入り口にある鳥居が見えてきました。駐車場には多くの車がとめられていましたが、目的はやはり登山が殆どのようで、その時は土曜日にも関わらず訪れているのは筆者ともう一組の家族のみ。

高千穂河原 斎場

 参拝をすませた後はぐるりと敷地を歩いてみます。天孫降臨御神火祭の御神火がたかれる場所には簡単な囲いが設置され、中央には願掛けで投げられたと思われる無数の硬貨が散らばっていました。中央の祭壇とそれ以外にはなにもなく、すぐに入り口に戻ってふと見ると、入り口にある鳥居の柱に無数の硬貨が挟まれているのを目にしたのです。

 鳥居には風化の影響かところどころ穴があいています。そこに無理にさしこむ形で一円玉、五円玉が挟まれているという痛々しい光景。

斎場の鳥居の柱

 中には偶然なのか、それとも落下を防ぐ目的なのかわかりませんが、無理に押し込んだような変形した状態のものもありました。古いものが多めのようですが、新しいものもそれなりにあり、根元には落ちたと思われる新しい一円玉が何枚も散らばっていました。

斎場の鳥居の柱2

斎場の鳥居の柱3

 以前、広島県・厳島神社の海の中の鳥居に無数の硬貨が挟まれ老朽化に拍車をかけているという話題を紹介したことがあります。筆者は歴史的目線から神社仏閣を見て回るのを趣味にしており、以来各地を訪れた際にはなるだけ気にしてみるようにしていたのですが、話通りの光景を見たのはこの場がはじめて。

 今にかぎらず昔から行われていることなのかもしれませんが、自分の願いを込めるために歴史ある場所、そして人々が大切に信仰する場所を個人の願いのために傷つけるのはどうなのだろう。と、こうした風習には思うのです。

 また鳥居以外にも、数年前訪れた三重県の伊勢神宮・豊受大神宮(外宮)では、敷地にある大きな木に抱きつき何事か瞑想している方を何人もみかけました。伊勢神宮に限らずあちこちの神社ではこの手の方はよくみかけます。そして場所によっては、あまりに人が触れるせいか部分的に「ピカピカ」「つるつる」になっている木も。

 木に抱きついて何が得られるかはわかりませんが、少なくとも木の方は何人にも根元を踏まれ、抱きつかれたおかげで何らかのダメージはあるようです。勿論対策をとっているところも多いですが、対策できていない場所も少なくありません。

 神社やお寺に行ったらお賽銭はお賽銭箱に。建造物や木は御利益をわけてほしくても、そっと眺めるだけに。そろそろそういう意識が広く根付いてほしいなと思うのです。

(文:宮崎美和子)