いよいよ今週末、5月16日・17日に迫ったレッドブル・エアレース千葉大会。日本初開催ということで、予告編は「サムライ」をテーマにしています(でも演じているのは西洋人なんですけどね)。

会場となるのは千葉県の幕張海浜公園。千葉ロッテマリーンズの本拠地、QVCマリンフィールド(千葉マリンスタジアム)や幕張メッセの前に広がる人工海浜に沿った形で、レーストラックが設定されています。

【関連:レッドブル・エアレース千葉大会 チームブライトリングが記者会見】

千葉大会のレーストラック(画像提供:Red Bull)

千葉大会のレーストラック(画像提供:Red Bull)

このトラックの特徴は、他の大会と違ってターンが存在せず、直線的に往復するということ。参考までに、今年(2015年)の開幕戦、アブダビ大会のトラックを見てみましょう。

2015年アブダビ大会のレーストラック(画像提供:Red Bull)

2015年アブダビ大会のレーストラック(画像提供:Red Bull)

これらレーストラックは、会場の立地条件に応じて設定されるようになっています。昨年(2014年)のイギリス、アスコット大会では、会場となったイギリス王室が所有するアスコット競馬場のコースレイアウト(日本の競馬場とは違い、L字形のコース)に沿った形でトラックが設定されています。

2014年アスコット大会のレーストラック(画像提供:Red Bull)

2014年アスコット大会のレーストラック(画像提供:Red Bull)

今回の千葉大会の場合、観戦できるポイントが幕張海浜公園沿いにしかない為に、一直線のレイアウトになったと考えられます。
ターンが存在しない為、ゲートを通過するライン取りなどの攻略ポイントがほとんど存在せず、スラローム飛行を行うシケインでのリズムとスピードの維持、そして折り返し点で行うハーフキューバンエイトで膨らみ過ぎないことがポイントとなりそうです。折り返しで膨らみ過ぎないよう、タイトに飛んでしまうと制限Gである10Gを超えてしまう(超えると失格となる)ので、ギリギリを突いた僅差の争いになることが考えられます。

また、この千葉大会の会場には特徴的な気象条件があります。QVCマリンフィールドに通う千葉ロッテマリーンズのファンなら常識とも言えることですが、海から陸に向かって吹く強風、通称「マリン風」です。秒速10メートル(約2ノット)を超えることもしばしばで、今回のトラックレイアウトの真横から吹くことになります。

この真横から吹く「マリン風」、特にシケイン区間での飛行に影響しそうです。風に流されて膨らめば、それだけタイムをロスすることになります。

この条件を考慮し、千葉大会の展開を占ってみましょう。大きな部分を占めるのは、飛行機では機動を行っても速度が低下しにくい性能(特に加速性)、操縦面では大きく変化する横風に素早く対処できる技術でしょう。

スピード面での爆発力があるのは、ハンネス・アルヒ選手。これまでの大会でも、度々スーパーラップをたたき出しています。ただ、ムラッ気を見せてミスをするのが欠点。

今年(2015年)の開幕戦、アブダビ大会の覇者であるポール・ボノム選手(ブリティッシュ・エアウェイズのB747現役機長)も、無駄のないライン取りで素晴らしいタイムを出すことで知られています。ボノム選手は、かつて栃木県のツインリンクもてぎなどで行われたFAIエアロバティックス世界選手権・日本グランプリに参戦しており、2002年のフォーメーション部門では、チーム「マタドールズ」の一員として優勝しています。そのせいか、日本には好印象を持っているようです。

同大会で2位となったマット・ホール選手(元オーストラリア空軍のトップガン教官)、3位のピート・マクロード選手も進境著しく、連続表彰台も考えられます。
昨年(2014年)のシリーズチャンピオン、ナイジェル・ラム選手はコースに関わらず、安定して速いのが特徴。それだけ適応能力が高いので、千葉のトラックも攻略ポイントを見つけ出していくことでしょう。

機体の面では、やはりスピードのある機体が有利になるでしょう。今シーズンはエッジ540(V2/V3)、MXS(-R)、コーバス・レーサー540の3機種4タイプが参戦しています。

この中でスピードや加速力のポテンシャルが高いのは、ピーター・ベゼネイ選手が開発から関わっている、ハンガリー製のコーバス・レーサー540。ただ、使用しているのがベゼネイ選手ただ一人、そして開発・熟成のさなかということもあり、うまく千葉のトラックにセッティングを合わせられるか……という問題も抱えています。ベゼネイ選手は1990年代後半から2000年代にかけて、FAIエアロバティックス選手権をはじめとするイベントで何度となく来日し、日本でのファンも多い選手。今回新しいエンジンを投入することもあり、長年応援している日本のファンの前で素晴らしい飛行を見せて欲しいものです。

ピーター・ベゼネイ選手のコーバス・レーサー540(Naim Chidiac/Red Bull Content Pool)
MXS(-R)はナイジェル・ラム選手(元ローデシア空軍のパイロット)、マット・ホール選手(ラム選手はエアレースに於けるホール選手の師匠筋に当たります)が使用している機体。外見上の特徴は、主翼端に装着されたウイングレットですが、ラム選手とホール選手では形状が微妙に違います。ウイングレットは翼に発生する誘導抵抗を軽減する働きがあり、B737-800など旅客機では抵抗軽減から燃費向上を目的としていますが、MXSなどレース機では抵抗を低減し、速度性能向上の為に装着されています。誘導抵抗を低減する為には翼を細長く延ばしていってもいいのですが、翼の幅が広がるとロール(機体の前後方向を軸にした回転)性能が落ちます。ウイングレットを使用すると翼の幅が短いまま同様の効果を得られるので、それ以外の機体でも装着を試みるケースが出ています。

最も多くの選手が使用しているエッジ540ですが、V2とV3、二つのバージョンがあります。V3の方が速度性能が向上しているのですが、ボノム選手はV2を大改造し、操縦テクニックも合わせてV3と同等以上の速さを実現しています。

ホーム開催となる日本の室谷義秀選手は、今までV2を使用していましたが、この千葉大会から新たにV3を導入。しかも速度性能を向上する為に、キャノピーを大きく絞り込むなど空力的に大改造を施し、シルエットが大きく変わった「V3.5」ともいえる形態にまで進化させています。室屋選手は過去に何度かこの幕張で展示飛行を行っており、どれくらい横から吹く「マリン風」が飛行に影響するかを熟知しているので、このアドバンテージを活かして昨年(2014年)第2戦のロヴィニ(クロアチア)大会以来、2回目の表彰台を狙います。

マイク・グーリアン選手も愛機エッジ540V2に、新しく空気抵抗を低減したデザインのキャノピーを装着して千葉に臨みます。カービー・チャンブリス選手(サウスウエスト航空B737の現役機長)も、日本はFAIエアロバティックス世界選手権で慣れ親しんだ場所。意気込みが違うでしょう。

気になるのは天候です。現在のところ、トレーニングフライトが行われる金曜日(15日)の午後と、決勝の1回戦である「ラウンド・オブ14」の組み合わせを決める予選が行われる土曜日(16日)に雨の予報が出ています。特に土曜日に予想されている雨がレースにどう影響するか。ここに名を挙げなかったパイロットの躍進も考えられます。

千葉の会場に行けない皆さんは、決勝当日の17日午後8時から、NHKのBS1で録画放送があるのでお楽しみに。

▼レッドブル・エアレース公式サイト
http://www.redbullairrace.com/

(文:咲村珠樹)