毎年夏冬2回、そして5年に1回のスペシャルが開催される同人誌の祭典『コミックマーケット』。
その2013年の冬コミに彗星のごとく現れ、良いことをしたにも関わらず批判をうけた、伊藤新さんという方ご存じでしょうか?

【関連:新人声優・伊藤新さんのコミケ会場ゴミ拾いボランティア今回も!ネットで大反響】

伊藤新さん

 伊藤さんは、2013年の冬コミで、自主的にゴミ拾いボランティアを実施。その成果として、ゴミと一緒に写った写真をTwitterに投稿し報告したところ、あっという間に約2万もRTされ、まとめサイト各所で取り上げられるなど当時大きな注目を集めました。

 勿論多くの人に褒められ感謝されていましたが、一方では伊藤さんの職業が「声優・俳優」、そして無名だったということもあり、「売名行為」「良いことするなら黙ってやれ!!」などなど、何故か大バッシングも受けたのです。

 さてその伊藤さん、初回ほど騒がれはしなかったものの、実は2014年ともにその後もコミケでのゴミ拾いを続けていました。

 3月28・29日に幕張メッセで開催される、『コミケットスペシャル6~OTAKUサミット2015~』でもゴミ拾いをすると聞きつけ、折角なので同行させてもらうことに。

■プロの参加者に伊藤新完敗

 記者が同行したのは28日。伊藤さんの指定で朝6時半の集合となりました。待ち合わせ場所に行ってみると、既にゴミ袋を持った青年が。(この日記者と伊藤さんは初対面でしたが、一発でわかりました。)

ゴミがないかあちこち見て回る伊藤さん

ゴミがないかあちこち見て回る伊藤さん

 一瞬声をかけようとしたところ、駅から幕張メッセに向かう人にゴミを渡される場面が目の前でありました。清掃員の制服を着ているわけではなかったのですが、誤解されても快くゴミを受け取り「ありがとうございます!」とお礼まで。

幕張メッセの掲示板

幕張メッセの掲示板

 この日開催されたのは、夏・冬開催の通常のコミケではなく、5年に1度しか開催されない『コミケットスペシャル』(通称、スペシャル)。
スペシャルに参加した事がない方のために、軽く空気感をお伝えすると、この5年に1回のイベントには、ベテラン参加者が多く集い、わりとまったり、通常よりも小規模に行われます。
そうしたこともあり、通常よりマナー率はグッと高く、コミケスタッフともにレベルの高い参加者が集うイベントという印象。あくまで記者個人の表現ですが、「プロの参加者」と尊敬を込めて呼んでいます。伊藤さんにも、スペシャルはこの日初めてと言うことなので、同じような事を説明しました。

会場に向かう途中もゴミ拾い

会場に向かう途中もゴミ拾い

会場敷地外の方がちょこちょこ落ちてる

会場敷地外の方がちょこちょこ落ちてる

 実際この日ゴミ拾いに同行した中では、目立ったゴミは見当たりませんでした。あまりに落ちていないので、伊藤さんから「プロの参加者凄い!」という声が漏れるほど。

 スタッフからも「落ちているものがあれば拾ってスタッフに渡して下さい」と定期的にゴミ袋を持って案内されていましたし、参加者も目立つものがあれば拾って渡すと、何もかもが完璧。普段より人数が少なのも大いに影響はあると思われますが、「お客さん」気分の人は一人も見当たりませんでした。コミケは全員が「参加者」ですからね。本来。

待機列 これだけいたのに……

待機列 これだけいたのに……

徐々に入場する様子

徐々に入場する様子

たまに落ちてて紙くずぐらい

たまに落ちてて紙くずぐらい

最後尾が会場に入っていく様子

最後尾が会場に入っていく様子

 列の移動後残されるであろうゴミのため待機してみましたが、数千人去ったばかりの場所からは全員がいなくなっても、目立つゴミは殆ど見当たりませんでした。

 あったといえば、参加者が一斉に入場するとき、アスファルトの足下にも関わらず一瞬土煙があがったぐらい。
皆さん、DJコミケ(お立ち台に上り拡声器で列を誘導する係の人)の声にしたがい、前に進む・止まる・ゆっくり歩く・90度に曲がる・カタログをかざす、などそれは見事な団体行動を見せていました。

最後の列が去ったばかりでこの綺麗さ

最後の列が去ったばかりでこの綺麗さ

■2013年の冬コミ事件含め色々聞いてみた

 あまりに綺麗すぎるので、この日は半日たたずしてゴミ拾い終了。ということで、2013年の冬コミで大騒ぎされた時の話含め、ゆっくり伺うことに。

 まずは気になるあのことから。

待機列が去るまでの待ち時間を激写

▼何でコミケのゴミ拾いしようと思ったの?

 2013年の冬コミの時、朝早くに目が覚めてしまってたまたまネットを見ていたら「コミケはゴミ放置がすごいって」という話題を目にして、「じゃぁ、時間もあるし拾いに行ってみようかな?」程度の軽い気持ちで。そのまま家にあったゴミ袋と軍手もって行きました。

▼イジワルな質問かもしれませんが、事務所からの指示で始めたんじゃ?

 それは絶対にないです。むしろ、あんな騒ぎになって、迷惑をかけていないか心配になったほど。僕が勝手にやって、騒ぎになっただけです。

▼ゴミと一緒の写真をTwitterに投稿したのは何故?

 あれは、友達受けというか、内輪ネタとして「どうだーこんなに拾えたぜ」的に投稿しただけなんです。当時まだフォロワーも少なかったし、本当に友達向けの内輪ネタのつもりで。なんで写真も「ドヤッ!」ってポーズで撮影したんですけど、今ではアイコンっぽくなってます。

C85(2013年冬コミ)

C85(2013年冬コミ)

C86(2014年夏コミ)

C86(2014年夏コミ)

C87(2014年冬コミ)

C87(2014年冬コミ)

 話題になった最初の写真は、その日最後に集めたゴミを回収してくれたスタッフの方に撮影してもらいました。そしたら次の日その方から「俺がとった写真Twitterで見た!」って話しかけられました(笑)

▼ゴミ拾いの写真をTwitterに投稿したことで約2万もRTされる反面、無名だからという理由で「売名行為」とか大バッシング受けてたけど怖くなかった?

 思い出したくないぐらい来ました。直接本当に色々。匿名って怖いなぁと。自分一人ならいいけど、周りや事務所に迷惑かけてないかだけが気がかりでした。写真のポーズも、「偉そう」「調子に乗るな」とか色々言われました。
本当に売名とかそんなつもりじゃなかったから、ビックリしました。でも言われてみると「そう思われるのかなぁ」と。

▼これまで普通のコミケ3回参加してみて、ゴミの状況ってどうでした?

 本当に凄く落ちています。夏はペットボトル、濡れたTシャツ、敷物。冬ならホッカイロ。夏冬あわせて良く見かけるのが、椅子ですね。簡易的な折りたたみのやつ。あれが良く落ちてます。
他にビックリしたのが、荷物そのままというのも結構あります。本当にポツーンと置いてあるんです。触るわけにもいかないし、見付けると慌てます。

▼他にこんなことあったよ!的なエピソードありますか?

 なーんか遠くから写真とられてるなぁと思ってたら、その後ネットに「ゴミ拾ってる変な人いた」って写真付きで投稿されてました。(笑)

▼コミケのゴミ拾いは今後どうするんですか?

 できる限り続けます。僕の修業にもなるし。結構根性つくんですよ。

▼売れちゃっても続ける?

 できる限り続けます。もし仕事があっても、時間があれば少しでもやりたいです。

▼本業(声優・俳優)の方は今はどうなんですか?

 今はオーディションに落ち続ける毎日ですが、絶対いつか名前が載る役を貰えるよう頑張っています。
落ちすぎてたまに凹みますが、でもコミケのゴミ拾いで鍛えられているので!

▼ネットで話題になったとき「声優」っていう肩書きで有名になっちゃったけどプレッシャー感じてない?

 メチャクチャ感じてます。無名で新人っていう事も知られているから「早く名前が載る仕事しなきゃ!」って焦ってます。

▼生々しい話今は何で生計たててるの?

 昼はオーディションがあるので、夜働けるカラオケのバイトです。

▼仕事だったら例えば『電波少年』みたいなハードな企画でも受ける?

 事務所がOKすれば何でもやりたいです。チャンスがあるなら何でも!

▼基本的な事だけど、趣味、特技は?

 趣味は旅行です!去年は東京から大阪まで行きました!徒歩で!15日かかっちゃいましたけど、帰りは新幹線で3時間!新幹線って凄く早くてビックリしました!
特技は……なんだろう。お酒は全く飲めないんですが、昔バーテンダーのアルバイトをしていたので、カクテルが作れます!

▼非常に言いにくいんだけど「天然」とかって言われない?

 え?

▼ちなみにご両親はどんな人達?

 普通のサラリーマン家庭です。おばあちゃんが、近所で銭湯やっていたくらい。今はもう閉店しています。
僕の名前の「新」は、おばあちゃんの銭湯「新玉湯」の「新」から取ったそうです。

▼芸能界(声優・俳優)目指すって言った時、反対されなかった?

 進路を決めたのが高校3年生の1月なんです。その時既に大学も決まっていて。友達に「アミューズメントメディア総合学院」のパンフレットを見せられて、「声優タレント学科」というのがあるのを知りどうしても行きたくなりました。元々ハルヒ(注:涼宮ハルヒの憂鬱)の大ファンだったから一気に興味が沸きました。両親に相談したら、今まで自分のしたいことを言ったことが無い子だったらしく「いいよ」って。本当に感謝してます。

■「ゴミ拾い青年」じゃなく「ゴミ拾いする声優になりたい」

 ネットで色んな物議をかもした伊藤さん。未だ「売名」と言われることもあるそうですが、ゴミ拾いについては誰よりも真剣に取り組んでいました。
待機列の脇でのゴミ拾いなどは、多くの人からの視線で記者は遠くから見守る事しかできませんでした。でも彼はそんなことお構いなし。スタッフの方には自分で交渉し、熱心にゴミを探していたのが印象的です。

 最後話す中でこんな事も語ってくれました。「今は単なるゴミ拾いの青年だけど、いつかはゴミ拾いする“声優”ってちゃんと言われるようになりたいです」と。
ちなみに普段の伊藤さんの声はやや渋め。役によって演じ分けができるのでしょうが、大人の役や個性的な役が向いてそうです。

 光りがあたるのは今年か、来年か、再来年か……それとも諦めてしまうのか。今の段階では全くの未知数ですが、いつか夢が叶うといいなと、心から応援したくなる人物でした。

(取材:宮崎美和子)