宙にあこがれて・木更津航空祭

こんにちは、咲村珠樹です。さる5月12日、千葉県木更津市にある陸上自衛隊木更津駐屯地で、駐屯地創立45周年記念行事・第41回木更津航空祭が行われました。今回は見どころいっぱいのイベントの様子をご紹介しましょう。


【関連:下総基地開設記念行事レポート】

木更津駐屯地は、元木更津海軍飛行場跡に開設されたもの。戦前の1938(昭和13)年には「紅の翼」航研機の周回長距離世界記録飛行の発着点に、そして戦争末期には日本初のジェット機「橘花」の初飛行も行われた由緒ある場所です。現在は中央即応集団隷下の第1ヘリコプター団、東部方面航空隊・第4対戦車ヘリコプター隊などが駐屯する、陸上自衛隊の航空拠点となっています。

木更津駐屯地正門

今回のキャッチフレーズは「木更津から羽ばたけ未来へ」というもの。記念式典の後、観閲飛行に向けてヘリコプターらが一斉に離陸します。

観閲飛行に向け一斉に離陸するヘリコプター

隊形を整えた後、指揮官機であるOH-6Dを先頭にUH-60JA(第1ヘリコプター団第102飛行隊)、AH-1S・OH-1(第4対戦車ヘリコプター隊)、CH-47J/JA(第1ヘリコプター団第1輸送ヘリコプター群)、固定翼機のLR-1・LR-2(第1ヘリコプター団連絡偵察飛行隊)が編隊を組んで整然と飛行します。

OH-6Dを先頭にした観閲飛行

ここ、木更津駐屯地は羽田空港の離着陸ルートの真下に当たります。日本で最も過密な空域で、上空をひっきりなしに羽田空港へ向かう着陸機が通過する為、観閲飛行や以降の飛行展示に於いては、民間旅客機と十分な高度差を取り、安全に細心の注意を払っていました。……逆に、旅客機からはこれらの観閲飛行の編隊を上から眺めることができたので、気付いた乗客にとっては新鮮な眺めだったかもしれません。

混み合う空域で細心の注意を払った飛行

観閲飛行終了後は訓練展示。第1ヘリコプター団の機材と連携した部隊の運用(いわゆるヘリボーン)を紹介していきます。まずはOH-1での偵察後、ドアガン(12.7mm機関銃M2)を装備したUH-60JAが対地射撃を行い、展開の支障となる地上の脅威を取り除きます。

▼UH-60JAの地上射撃動画:http://www.nicovideo.jp/watch/1368756618

続いて、CH-47Jからロープが垂らされ、普通科隊員がラペリング降下。続く上空からの機材進出に備え、周辺を警戒します。

ロープ降下する普通科隊員

続いてCH-47Jが吊り下げた高機動車を下ろします。

高機動車を懸吊して飛行するCH-47J

さらに上空で対戦車ヘリAH-1Sが警戒する中、別のCH-47J2機が着陸。中から偵察用オートバイと1/2tトラック(パジェロ)が走り出て、周辺の偵察を実施。

CH-47Jから偵察用オートバイが走り出る CH-47Jから出る1/2tトラック

作戦終了後、普通科隊員が撤収する際は、CH-47Jから下ろされたロープに複数の隊員が吊り下がり、四方を警戒したままの状態で離陸。安全な場所まで後退します。CH-47に吊り下げられたまま空を飛ぶ普通科隊員の姿は、まるでブドウの房のようにも見えます。

離脱準備をする普通科隊員 普通科隊員を吊り下げ離脱するCH-47J

訓練展示の後は、第4対戦車へリコプター隊によるOH-1とAH-1Sの展示飛行。AH-1Sには第4対戦車ヘリコプター隊のエンブレムにある、般若をデザインしたスペシャルマーキング機(第1飛行隊・第2飛行隊で2機ずつ計4機)もありました。OH-1のペアは、向かい合ってダンスをするかのように回転する定番の飛行も披露。

AH-1Sのダイヤモンド編隊 向かい合って回転するOH-1

地上展示も盛りだくさんです。第4対戦車ヘリコプター隊は、第1飛行隊のAH-1S(OH-1と並び、昨年も話題になったスペシャルマーキング仕様)を使って、近頃はやっている「戦車道」の向こうを張った「対戦車道」を解説する装備品展示を実施。途中にダンスも挟むというエンターテインメント性の高いもので、来場者の喝采を浴びていました。

▼第4対戦車ヘリ隊「対戦車道」講座動画:http://www.nicovideo.jp/watch/1368757163

こなれたダンスは、勤務(課業)時間外に半月程の練習をこなして練り上げたもの。アピール度は非常に高いので、他の駐屯地祭でも出張して行ってほしいくらいですね。……ちなみに、第4対戦車ヘリコプター隊がこのように「これからは対戦車道!」とアピールしていながらも、会場のBGMでは『ガールズ&パンツァー』のBGMが流れていたりしましたが……。

その他で注目なのは、連絡偵察飛行隊のLR-1。三菱のビジネス機MU-2をベースにしたもので、老朽化によって退役が進んでおり、もはやここ木更津駐屯地と北海道の丘珠駐屯地(札幌の丘珠空港)くらいにしかありません。木更津の2機のうち22020号機は2013年度中に退役予定です。民間登録のMU-2は既に国内からいなくなってしまったので、非常にレアな機体となりました。

LR-1の機内公開 天翔る「證誠寺のタヌキ」マーキング

スペシャルマーキングとして、垂直尾翼に旧陸軍の偵察飛行隊だった独立飛行第18中隊のマーキングだった「天翔る虎」をモチーフに、木更津市にある有名な伝説「証城寺の狸ばやし」にアレンジした「天翔る狸」が描かれていました。ヘリコプターのスペシャルマーキングは、すぐに任務に戻れるよう、カッティングシートによる貼り付け加工となっていますが、このLR-1はちゃんとした「特別塗装」です。機内も公開され、パイロットによる解説もありました。高い機動性がウリだったMU-2(LR-1)ですが、特徴であるスポイラーによる横操縦システム(通常は補助翼を使用するが、MU-2は主翼先端までフラップがある為補助翼がない)は低速で舵の効きが悪く、着陸時は大きく操縦桿を動かす必要があるとか。

また、皇族や総理大臣など要人輸送を担当する、特別輸送ヘリコプター隊のEC225LPも展示。東日本大震災の津波で、仙台空港にある整備工場で定期検査を受けていた1機(01022号機)が被災して全損しており、現在予備機のない2機体制で運用されていますが、先日代替機の予算がついたのは喜ばしいところ。

特別輸送ヘリコプター隊のEC225LP

外部からの機体では、ご近所さんともいえる海上自衛隊館山基地から第21航空隊のSH-60K、そして東京湾の対岸である海上保安庁羽田航空基地からDHC-8-Q300(JA722A)「みずなぎ」が参加。この海上保安庁のDHC-8-Q300も仙台空港で津波の被害を受けましたが、幸い全損を免れ、修復の上任務に復帰しています。両者とも、木更津まではほんの数分だそうですよ。

第21航空隊のSH-60K 海上保安庁のDHC-8-Q315(JA722A)

逆に一番遠くからは、鳥取県の航空自衛隊美保基地(米子空港)からやってきた、第41教育飛行隊のT-400。約1時間ほどの飛行時間だそうです。

第41教育飛行隊のT-400

警視庁航空隊のS-92(警察が運用する最大のヘリコプター)や、北宇都宮駐屯地の航空学校宇都宮校からは陸上自衛隊の新型練習ヘリコプターであるTH-480Bも参加。この機体は、三重県の明野駐屯地にある航空学校本校から貸し出されているもので、6月に一旦返却した後、改めて配備されることになっています。

警視庁航空隊のS-92 航空学校のTH-480B

このTH-480B配備により、航空学校宇都宮校で練習機として使われてきたOH-6Dは引退し、数を減らしていきます。北宇都宮名物となっている、航空学校の教官が操縦するOH-6Dによるアクロバットチーム「スカイホーネット」も今年限り。5月26日に予定されている、陸上自衛隊北宇都宮駐屯地の開設40周年記念行事がスカイホーネット最後の舞台となります。お別れ記念として、今年は2回の展示飛行を予定しているので、ぜひ当日は晴れて欲しいものです。

この他の地上展示機は

陸上自衛隊
CH-47J
CH-47JA
LR-2
保存機のV-107・VIP仕様(以上第1ヘリコプター団)
AH-1S
OH-1(以上第4対戦車ヘリコプター団)
AH-64D(航空学校霞ヶ浦校)

航空自衛隊
T-7(静岡県静浜基地・第11飛行教育団)

海上自衛隊
LC-90(神奈川県厚木基地・第61航空隊)

千葉市消防局航空隊
AS365N3(JA03CF)

など。

また、第1ヘリコプター団と同じ中央即応集団に属する第1空挺団(千葉県・習志野駐屯地)や、中央特殊武器防護隊(埼玉県・大宮駐屯地)からも車両が展示されました。福島第一原発事故にも出動したNBC偵察車や除染車に注目が集まっていましたね。除染車は子供が登ってジャングルジム状態。

中央特殊武器防護隊のNBC偵察車と除染車 除染車はジャングルジム状態

この他、陸上自衛隊富士学校(静岡県)から遠隔操縦観測システムも展示。風が強くて空挺降下が実施できなかった第1空挺団は、パラシュートなど装備品の装着体験も行っていました。

低空をヘリコプターが駆け巡り、様々な工夫が凝らされた展示が魅力的な木更津駐屯地。次回のイベントも楽しみです。

(文・写真:咲村珠樹)