こんにちは、咲村珠樹です。年末年始の帰省で、飛行機を利用された方も多かったでしょうね。揺れましたか? 

「全然揺れなくて快適だったよ!」という方もいれば「揺れて酔った」とか「揺れで子供がぐずって大変だった」という方もいるかと思います。


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以前咲村も搭乗機が大きめのエアポケットにはまり、機内アナウンス中のキャビンアテンダントさんが「シートベルトサインが点灯しました。機体が多少揺れる恐れがありますが、安全には影響――きゃあぁっ!!」と悲鳴を上げたことがありました。体が一瞬ふわっとしましたね。

そこで今回は、飛行機に「揺れ」をもたらす乱気流についてのお話です。空気(気流)の力を使って空を飛ぶ飛行機。空気の流れの微妙なバランスで飛行が実現している為、ちょっとした気流の乱れが飛行を左右するのです。

乱気流は大きく分けて「発生が予測できるもの」と「発生が予測できないもの」があります。発生が予測できるものは事前に回避が可能なもの、ということができますね。

発生が予測できるもので、一番判りやすいサインは「雲」です。パイロットが一番避ける雲、それが積乱雲(入道雲)。かつて『風の国のナウシカ』で積乱雲に飛び込んだペジテの船に対し、トルメキアのクルーが「ばかめ!」と言ったように、積乱雲は中心に急激な上昇気流、そして周囲には急激な下降気流が存在しています。飛行機が翻弄されるだけでなく、大きな力が連続的にかかる為に最悪の場合、空中分解まで引き起こすほど危険な存在です。特に雲の輪郭がはっきりしているものは、現在盛大に発達中であるサインで危険度が増します。

積乱雲は発生条件が判っているので、飛行ルートを決定する際に発生しそうな場所が推定できます。ですから、操縦する機長らとディスパッチャー(運行管理者)による飛行前の打ち合わせ(ブリーフィング)で、天気図を見ながら積乱雲が発生しそうな場所を検討し、可能な限りそこを避けるようなコース設定がなされます。

入道雲というと夏のイメージがありますが、冬は日本海側で寒気の吹き出しに伴って、海面で暖められた空気が上空で急激に冷やされることで、積乱雲が大発生します。天気予報の衛星写真で見る「日本海側の筋状の雲」というのは、大抵が積乱雲だったりするので、冬の日本海側を飛行する際は、特に積乱雲を警戒する必要があります。

また、上空高くに発生する筋雲(巻雲)も、乱気流を知らせてくれます。巻雲は風の流れに応じて発達していくので、風向や風速を推測することができます。まっすぐ発達しているならばいい(といっても気流の乱れはあります)のですが、先端が羽毛のように毛羽立っていたら要注意。風の方向が一定でないことを表しているので、乱気流が発生していると考えることができます。

【帯状の巻雲】
【毛羽立つ巻雲は乱気流のサイン】

これら雲の動向を探る為、旅客機などには機首部に気象レーダーが装備されており、飛行中でも進行方向の雲を監視しています。

さて、これと反対に発生が予測できない乱気流は厄介です。こちらの代表選手は晴天乱気流(Clear-Air Turbulence=CAT)というもの。ジェット旅客機が飛ぶ、高度1万m付近でよく観測されるのですが、雲を伴わないことが多いので、遭遇するまで「乱気流がある」と気付かないのが特徴。パイロットの中には、略称の「CAT」から「猫」と表現する人もいます。どこで発生するか判らない、気まぐれなところも猫に似ているかもしれませんね。

さて、この晴天乱気流に対し、航空会社ではどのような対策をとっているかというと、基本的には「報告」です。乱気流に遭遇すると、パイロットはカンパニーラジオ(社内連絡用の通信)で、乱気流に遭遇した場所(どこの上空か)・高度・その強さ(6段階に分かれた基準を用いる)を報告します。

この報告はすぐにデータベース化され、ディスパッチャーは次に同じコースを飛行する予定の便に対し、乱気流の警告を出すようになっています。報告を受けた場合、当該便の機長は乱気流に遭遇しないよう、飛行高度変更の申請を管制官に出すなど、避ける為の措置をとります。……それでも、どうしても避けられずに遭遇してしまうこともあるのですが、影響(主に揺れ)を最小限にとどめる努力はなされているので安心してください。

現在、晴天乱気流を事前に察知することは非常に困難です。風が吹いているということは、気圧の変化……つまり大気の密度にムラがあると判っているのですが、それを検知する方法が難しいのですね。大気の密度を測るにはいくつかの方法があるのですが、どれも装置が大きく、飛行機に積載出るようなものではありません。

現在でも研究中なのですが、その中でも有望なものが「ドップラーライダー」を使ったもの。簡単にいうと、レーザーを照射し、大気中のエアロゾルの動きを計測するという方法です。

大気中には、細かな粒子がたくさん浮遊しています。この細かい粒子(浮遊粒子状物質)が浮遊している状態、または浮遊している粒子そのものを「エアロゾル」といいます。ここにレーザーを当てると、粒子に当たった分が乱反射し、光が拡散します。この拡散する光の具合を連続的に計測すると、結果として「空気の流れ」が見えてくるのです。

1990年頃から、JAXA(当時は航空宇宙技術研究所:NAL)でレーザーを使った飛翔体の速度計測(超音速機開発プログラムの一環)を行っていた際、計測用のレーザーがエアロゾルによる拡散で誤差が出る為、その誤差をいかに除去するか……という研究を行っていました。そしてその「誤差」を抜き出してみると、結果的にエアロゾルの検知、そして動きを計測することで風の動き(向きと強さ)が判ることが判明したので、これを乱気流検知に使えないか、と本格的な「乱気流検知システム」開発がスタートしたのでした。

航空宇宙研究所(NAL)が改組されてJAXAになった後の2002年には、航空機に搭載できるほどコンパクト化された装置が完成し、試作機に搭載しての気流検知試験が始まりました。性能は年々向上し、現在では地上で30km先、高高度で5~9km先の大気の動き(風)を計測できる世界最高の性能を誇ります。そして2012年2月、高度3200mで6km先の乱気流を事前に検知することに、世界で初めて成功したのでした。

6km先というと、十分とはいいませんが避ける為の進路変更ができる距離的な余裕があります。高高度で巡航している際、飛行機は自動操縦装置によって運航しているので、これからの課題は、その自動操縦装置と連動して「自動的に乱気流を検知し対処する」技術の確立ということになります。JAXAでは国内外の航空機メーカーや機器メーカーと共同研究を始めており、数年後には実用化のメドを立てる方向で進んでいます。

これらの乱気流とは別に、限られた場所で発生するものもあります。代表的なものが「山岳波」と呼ばれるもの。特に山脈などを形成しない「独立峰」と呼ばれる山に多く見られ、風下の山体に沿って発生します。日本最高峰である富士山で発生する「富士山乱気流」はよく知られ、かつてそれに遭遇した英国国際航空(BOAC)のボーイング707が空中分解して墜落した事故も発生しています。

特に風の強くなる冬は発生しやすいので、パイロットの間では「富士がよく見える時は近づくな」という格言があるそうですね。富士山と風の関係は皆目安にしているようで、船乗りの間でも「富士山がよく見える日は風が強いから気をつけろ」と言われています。この時期、富士山の近くを通る飛行機は、大きく風上方向に迂回するか、十分な高度を取るように気を使っています。地上からも、山頂付近の雪が飛ばされる様子で乱気流が発生していることが判る時があります。

自然現象だけでなく、飛行機が通った直後も翼端渦による「後方乱気流」が発生します。特に空港の地表付近は、先に離着陸した機体の後方乱気流が残っているので、管制官は乱気流の影響が無くなるであろう十分な時間間隔を取って、後続機に離着陸の許可を出しています。羽田のような超過密な空港の場合、現在の離着陸間隔がギリギリの値だと思ってください。

はなはだ簡単な説明ですが、飛行機はこれら様々な乱気流に配慮しながら、安全な飛行を維持すべく努力しています。見えない晴天乱気流も、JAXAの研究で徐々に検知ができるようになってきているので、今よりもっと快適な空の旅が楽しめるようになりそうですね。

(文・写真:咲村珠樹)