【うちの本棚】第百三十一回 キャプテン五郎/川崎のぼる「うちの本棚」、今回は川崎のぼるの海洋冒険コミック『キャプテン五郎』をご紹介いたします。巨大なアカエイ「シルバーキング」に復讐を誓った男たちの物語です。


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メルヴィルの『白鯨』を下敷きにしたと思われる表題作のほか、王貞治を主人公にしたもの、高校野球の2短編を収録したものが本書である。
『キャプテン五郎』では、父と兄を、「シルバーキング」と呼ばれる大アカエイに殺された少年・五郎が、復讐のためにアカエイに挑む姿が描かれる。父が死んだときに同じ船に乗っていて、片目を失った大和という船長の船に密航し、船乗りとして成長していく姿も描かれる。

クジラがダイオウイカと闘うことが知られているように、本作ではシルバーキングが大ダコと格闘するシーンも描かれている。

川崎のぼるというと暑苦しいまでの人物描写が得意な印象なのだが、本作でもコック長と五郎の疑似親子的な愛情や、謎の船員ジョーとの疑似兄弟的な愛情が描かれている。

タイトルに着けられた「キャプテン」は船長を意味するものだと思うが、五郎が船長あるいはそれに代わる立場になることは無く、単に語呂の良さで決定されたと考えられる。また兄とふたり兄弟の主人公の名前がなぜ「五郎」なのかもよく分からなかったりする。
『誓いの1』は東京近郊の球場でボールボーイのアルバイトをしている少年が、試合でやって来た王 貞治と出会うところからストーリーが始まる。王と同じ左で背番号1、ファーストで四番バッターというふたりは意気投合して、友情が芽生えていく。
『本塁死守』は野球部の紅白試合のとき、ホームスチールをした主人公のために腕を怪我をし、野球ができなくなった正捕手に変って、主人公が捕手として成長していく姿が描かれる。ちなみに、主人公はどう見ても『巨人の星』の飛雄馬、怪我をした正捕手は番 忠太、チームのエースは花形によく似ている。

この野球をテーマにした2作品も、それぞれの登場人物たちの関わり合いや友情といったものが描かれていて、川崎らしい作品といえるだろう。

こういった作品も現在気軽に読める状況にないのが大変残念だ。画力、ストーリーテリング共に卓抜した実力を持った作家であるだけに、著名な一部の作品だけではなく、本書のような作品も復刻のチャンスを与えてもらいたい。

書 名/キャプテン五郎
著者名/川崎のぼる
出版元/小学館
判 型/新書判
定 価/240円
シリーズ名/ゴールデンコミックス
初版発行日/昭和43年8月10日
収録作品/キャプテン五郎(その1~その5)
誓いの1
本塁死守

(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/