こんにちは、咲村珠樹です。立春を迎えつつも、厳しい寒さが続いてます。しかも数年ぶりの大雪。普段雪の少ないところも、かなり降って大変なことになってますね。雪道での交通事故も増加傾向だそうです。

雪道ドライブの鉄則といえば、急発進・急ハンドル・急ブレーキなど「急」のつく運転をしない、ということ。万事余裕を持って「ゆっくり」と運転することが大事ですね。……ところでこれ、実は宇宙空間でも同じことが言えるのです。


国際宇宙ステーションに「きぼう」など実験モジュールや、補給船「こうのとり」をロボットアームで取り付ける際、作業に数時間かけるなど、やけにゆっくり動かしているのをご存知でしょうか。

宇宙は「無重量状態」であることはご存知かと思いますが、これによって重い物体も軽い力で動かすことができます。ところがこれが落とし穴。重量がない為に摩擦もほとんどありませんし、船外活動にいたっては空気抵抗もほぼゼロです。一度動かすと、慣性の法則に従ってずっと動きっぱなしになります。

しかも、動かす為に力を加えると、加え続けた時間の分だけ、物体はどんどん加速していきます。速度は、物体に加えた力(加速度)とその持続時間で積算されていくので、軽い力でも加え続けることで、最終的にすごい速度になります。小惑星探査機「はやぶさ(MUSES-C)」のメインエンジンであるイオンロケット「μ10」は、わずか数グラムの推力しかありませんが、空気抵抗が無視できるほど小さい宇宙空間では、その数グラムの推力でも運転し続ける(力を加え続ける)ことによって、地球の引力圏を抜け出す秒速11kmを超える速度を最終的に得ることができた訳です。

ところで、無重量状態でも物体の持つ質量は変わらず存在します。重量というのは、質量と加速度を掛け合わせた値のこと。ですから、運動する物体には、無重量状態といえど(運動する進行方向に)重量が存在するんですね。……という訳で、動いている物体を進行方向とは別の方向に動かそうとする際に、無重量状態の宇宙空間でも重量が生まれ、動かそうとする側にはそれに抗する力が必要になるのです。これは、進行方向の真正面から力を加え、物体の運動を止めようとする時、最大の力が必要になります。

と、ちょっと苦手な物理学の話をしたところで、ロボットアームの話に戻ります。

実験モジュールや「こうのとり」など、大きな(質量も大きい)物体をロボットアームで動かし、国際宇宙ステーションに設置する時、質量と動かし方(加速度)によって、ロボットアームにはかなりの重量負荷がかかるのです。小さな力でも加え続けることで、速い速度で移動させることはできますが、逆に止める時も同じだけの力(加えられた力の総量)が必要になります。短い距離(時間)で止めようとすると、それだけ大きな力がロボットアームにかかり、最悪アームが破損します。

春と秋の2回行われるJAXA筑波宇宙センターの特別公開では、工学(ロボット)系の展示の中で、かつて宇宙飛行士の土井隆雄さんが行った「人工衛星を素手でキャッチ」と同じように、人工衛星の捕獲を体験できるシミュレータが展示され、この「動かすのはいいけど、止めるのが大変」という感覚を体験することができます。子供がおもしろがって思いっきり動かすんですが、いざ止める段になると、自分が動かす際に使った力の総量を「一括払い」されて、動く「人工衛星」に振り回されてしまう姿が印象的でした。実際に体験した感想ですが、一気に止めたい心を抑えて、ゆっくりゆっくり、いわば力の「分割払い」をするような感覚で操作しないと、思った場所で止めることはできませんでしたね。

なので、ロボットアームの操作に関しては「ゆっくり動かし、ゆっくり止める」という、雪道ドライブのコツと全く同じことが重要になるのでした。これによって作業は数時間にも及び、その間操作する飛行士はつきっきりですから、かなりの集中力と忍耐力が必要です。せっかちな人、おおざっぱな人には向かない作業ですね……ということは、宇宙飛行士の中でもロボットアームの操作を得意とする若田光一さんは、特に集中力が持続でき、忍耐強いということでしょうか? 操作では小さなモニターしか使えませんから、それで全体の状況を把握できる能力も必要ですし……アメリカ・ロシア以外の宇宙飛行士として初めて、国際宇宙ステーション長期滞在クルーのコマンダーに選抜されたのも、そういう部分が素養として考慮されたのかもしれませんね。

(文・写真:咲村珠樹)