自衛隊・軍隊が災害に強い理由こんにちは、咲村珠樹です。「ミリタリーへの招待」、今回は東日本大震災などの災害において、何故自衛隊や各国の軍隊が活躍できるのか、という点を装備とともにご紹介しましょう。

3月に発生した東日本大震災や、福島第一原発事故でも大活躍した自衛隊。今回は米軍も非常に大きな支援活動を展開しました。これらの組織は、何故災害に対処する能力が高いのでしょう。


報道では「自衛隊や軍隊は『自己完結型の組織』だから」災害に強い、と紹介されています。「自己完結型の組織」とは、何を指しているのでしょうか。

自衛隊や軍隊は、武力攻撃に対して武力を行使することで対抗し、戦闘を通して敵対勢力を排除する……という任務を帯びています。戦闘中は、基本的に外部組織からの支援を受けることはできません。お腹がすいたからといって、戦場まで出前してくれるお店とかはありませんからね。できる限り、自分達でなんとかしないといけません。

特に陸上自衛隊や陸軍、そして海兵隊は、飛行場という基地を基準に活動する航空自衛隊や空軍、船という「移動する基地」が基準となる海上自衛隊や海軍と違い、戦場のいたる所で拠点を作って活動する必要があります。自分達で寝泊まりする「宿営地」を作らなくてはいけませんし、それにともなって建設機械など、様々な装備を保有することになります。これがそのまま被災地における復旧作業に転用できるんですね。また、戦場で行方不明になった隊員や兵士を捜索したり、けが人や病人を治療する装備や技術も保有しているので、これも被災地での活動に役立ちます。

言い方は悪いですが、戦争も災害も「極限状況」という意味では同じです。普段から極限状況で活動することを前提として訓練している自衛隊や軍隊が、同じ極限状況である災害に対処しやすいのも理解できるかと思います。

さて、そういったところで実際の装備を見てみましょう。

恐らく各地の避難所で大活躍し、最も役に立った装備と言える陸上自衛隊の野外炊具1号改。

陸上自衛隊の野外炊具1号改

並んでいる四角い箱が炊事用の釜(鍋)で、灯油バーナーにより炊飯やカレー、豚汁などの煮込み料理を主に作ることができます。上に突き出ているのは、食材を切る為のマルチスライサー。この下には自動皮むき機もついています。

そして、給水に活躍した1t水タンクトレーラー。

文字通り、1tの水を積んで運ぶことができます。奥に見えるのは1 1/2t救急車。一度に担架で4人、または座席で8人を運ぶことができます。

航空自衛隊には、同じような装備である炊事車があります。

移動キッチンカー

こちらはトラックの荷台に装備が載っていて、さながら移動キッチンカー。シンクもついていて、ご覧のように浄水器も装備しているので上水道を必要としません。荷台の周囲(下段に見えるパネル)を展開していますが、これをテーブルにしてカウンター式の食堂のような感じで食事をすることができます。

キッチンカーのシンク部分。浄水器も装備。

このほか、自衛隊独特の装備に野外入浴セットがあります。導入のきっかけは1985年の日航機墜落事故だったそうですが、他国の軍隊が移動式シャワー程度の装備で済ませている中、ちゃんと湯につかりたい……という日本人ならではの心理を反映した装備と言えるでしょう。もちろん、今回の震災でも大活躍し、被災者の好評を博しました。

こちらは、橋のない川などに戦車等の車両を通す為に使う92式浮橋。複数の車でユニットを組んでまして、このトラックが積んでいるのは浮橋を移動・設置する為のボート。東日本大震災では、橋が落ちて孤立してしまった島を救う為に活用されたりしました。長さは最大104m。自重50tを超える90式戦車を渡すことができるように設計されているので、大抵の車や重機が渡れます。

92式浮橋

そして、福島第一原発の事故で活躍した装備。化学防護車(左)と除染車(右)です。

化学防護車 除染車

化学防護車は、核兵器や毒ガスなどの化学兵器による攻撃を想定し、被害地域における調査などを行う為の装備です。車内に空気清浄装置が装備されているので、防護服やマスクなしで乗車でき、外に出ることなく放射線量の測定やガス検知器で周囲の状況を測定することができます。また、マニピュレーターも装備されているので、汚染された物を持ち帰り、詳しく分析することもできるようになっています。

1995年の地下鉄サリン事件で初出動し、毒ガスの分析を行いましたが、まさか今回、放射性物質に汚染された場所に出動し、想定されていた「本来の用途」全てに対処することになるだろうとは、配備した時には想像もしなかったでしょうね……。

除染車は文字通り、毒ガスや放射性物質に汚染された物を除染する為の装備です。これまでは鳥インフルエンザや口蹄疫の際、消毒液を散布するという形で出動するケースばかりが目立ちましたが、こちらも今回「本来の用途」で使用されることになりました。任務に当たった隊員さんも、まさかという感じだったでしょうね。

普段の訓練で使う装備を転用したり、恐らく使う可能性は少ないと感じていた本来の用途で装備を使ったりと、どんな事態にも対応できるような装備を持ち、訓練をしている自衛隊や軍隊。災害でも非常に頼りになるのは、こうした積み重ねのお陰なのです。

【文と写真:咲村 珠樹】
某ゲーム誌の編集を振り出しに、業界の片隅で活動する落ちこぼれライター。
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