船と飛行機の深い関係こんにちは、咲村珠樹です。今回の「宙(そら)にあこがれて」は、船と飛行機の面白い関係についてお話しようと思います。

飛行機には船を語源とする言葉が非常に多く使われています。そもそも乗る場所が「空港(Airport)」と、港(Port)という文字がついてますものね。


まず操縦士をパイロットといいますが、これは本来「水先案内人」の意味。機長を指す「キャプテン」も船長と共通で、制服の肩と袖に施されている金色のライン(機長が4本、副操縦士が3本)も、船のそれを真似たもの(船長4本、一等航海士3本)です。

日本航空の機長さんの制服

これは日本航空の機長さんの制服。袖に4本の金線(金モール)が付いています。上着の下に着ているシャツの方には、同じく4本の金線が入った肩章が。

現在、客室乗務員のことをキャビンアテンダントとか、フライトアテンダントなどといいますが、かつては「スチュワーデス」や「パーサー」と呼んでいたのを覚えてらっしゃるかと思います。これも本来、客船で接客を担当する職種の名前です。……キャビンアテンダントの「キャビン」という言葉も、本来「船室」からきたものですけどね。客室乗務員が働く、機内で機内食や飲み物を収納してある場所を「ギャレー」といいますが、これも船の「厨房」を意味する言葉。

現在のように、無線航法支援施設やGPSで飛行できるようになる前は、船と同じように飛行機にも「航法士(ナビゲーター)」が操縦室に乗り込み、特に夜間は星を観測しながら自分たちの位置を割り出して地図に当てはめ、飛行していました。一部の飛行機で、操縦席の上に窓が付いている(眉毛のように見えるので「アイブロウウィンドウ」といいます)のは、そこから上空の星を観測していた名残です。

B737-400型の操縦席にあるアイブロウウィンドウ

これはB737-400型の操縦席にあるアイブロウウィンドウ。上に付いている2つの窓がそれです。

また、航空会社では飛行機のことを「シップ」と呼んでいます。「今日のシップはB777-200、JA712Aです」なんて具合に、出発前の打ち合わせなどで使われています。機材変更は「シップチェンジ」。

飛行機の機体に関する用語では、機体の左側を「ポートサイド」、反対の右側を「スターボードサイド」といいます。これは昔の船が、船体の右後方に舵(ステアボード)を設置していて、右舷を接岸させようとすると舵が操作できなくなる為、反対側の左舷のみを接岸していた時代の名残です。ステアボードが転じてスターボードになったようですね。現代の船は舵が真ん中にあるので、どちら側でも接岸することができますが、飛行機はいまだに原則左側からしか乗り降りしません。反対側のスターボードサイドは機内食など、物品を補給する為に使用しています。一部乗り降りの迅速化の為、両側から乗り降りできるような設備を備えた空港もありますが……。

飛行機のポートサイド

こちら側が飛行機のポートサイド。一般に、飛行機を紹介する写真においては、こちら側を「正面」とするようになっています。面白いことに、鉄道の車両(形式)写真においても、この向きのことを「公式側」と、正面のような言い方をするんですよね。これは設計図を書く時のルールからきているようです。

また、夜間における飛行機の進行方向を表す為、主翼(戦闘機などは垂直尾翼にも)の両端に、右は緑、左は赤の「翼端灯(航空灯、ポジションライトとも)」を装備することが義務づけられていますが、これは船の夜間航行における灯火のルールを導入したものです。

さて、我々乗客が乗り込む時に使う搭乗券。英語では「Boading Pass」といいます。飛行機への搭乗を「boading」と表現するからですが、これは「Boadに乗る」という意味。ここでいう「Boad」とは甲板のことです。船に乗り込むという「Boading」をそのまま使っているんですね。ですから、飛行機に乗り込む時に使う施設も「ボーディングブリッジ」という訳です。

B747-400D型に接続されているボーディングブリッジ

これはB747-400D型に接続されているボーディングブリッジ。大きな空港では標準的になった設備ですね。もっとも、そういう設備がない空港では、飛行機に乗り込む際、下の写真のような「タラップ」という階段(たいていは車と一体化されたタラップカー)を使います。

「タラップ」という階段

これも本来、船に乗り込む際に使われる折りたたみ式の階段を差す言葉で、船では「舷梯(げんてい)」ともいいます。民間船でなくて申し訳ないですが、これは海上自衛隊の護衛艦「はるさめ」のタラップ。

自衛隊の護衛艦「はるさめ」のタラップ

飛行機によっては、タラップが内蔵されているケースがあります。これは特に「エアステア」なんていう場合もありますね。

MD90型(JA8069)のエアステア

これはMD90型(JA8069)のエアステア。

他には、飛行機の速度や風速を表す単位も船と同じ「ノット(kt)」を使っています。パイロットの客室アナウンスで乗客に説明する際には「キロメートル(km/h)」に換算して話していますが、管制等ではノットを使って速度や風速を指示しています。共通認識なので、無線交信では単位の「ノット」を省略していますが。また、進路や風向を表す際も、船と同じく磁方位の北を0度とする360度方位を使って方向を表すことになっています。東は「090」って感じですね。

こんな風に、航空用語には船発祥の言葉が数多く残っています。なぜ船なのか、という詳しい理由はよく判らないのですが、おそらくは飛行機以前の飛行船時代、船のように多くの人を遠くまで運ぶから……というところから、船舶用語を転用したのかもしれません。飛行船や飛行機は、言ってみれば新たな乗り物でしたから、全く新しい言葉を作り出して定着させるより、既存の似たような乗り物の用語を転用した方が判りやすいですものね。

航空ファンにとっては常識のような話ですが、一般の方は気付きにくい、船と飛行機の関係についてのお話でした。

■ライター紹介
【咲村 珠樹】
某ゲーム誌の編集を振り出しに、業界の片隅で活動する落ちこぼれライター。
人生のモットーは「息抜きの合間に人生」
そんな息抜きで得た、無駄に広範な趣味と知識が人生の重荷になってるかも!?
お仕事も随時募集中です。