「うちの本棚」第四十七回は「劇画」発祥の現場にいたひとり、佐藤まさあきの作品を取り上げます。佐藤作品には珍しい主人公の登場する『凶銃に生命を賭けろ』です。

昭和36年に単行本で書き下ろされたものを作者自らの手でリメイクした作品。佐藤にしろ水木にしろ貸本作家が雑誌に進出してから貸本時代の作品をリメイクするというのはよくあったようだ。


ガンマニアでもあった佐藤らしくさまざまな銃が登場する本作は、影男で代表されるような暗黒街に生きる主人公を描いていくわけだけれど、影男と違って本作はジャズボーカリストであった主人公が殺人現場を目撃してしまい、さらにその射撃の腕を見込まれて暗黒街に入っていく過程が描かれている。佐藤自身は、自分の描く主人公たちは虚無的な性格の人物が多いが本作の場合は虚無に至る前の若々しさを持っていると述べている。

はじめは自分に群がる多くの女性ファンのひとりのような感覚でつき合っていた女性を、心底愛していたと気づいたり、行きがかり上踏み込んでしまったスナイパーの世界でもがいたりと、確かに影男とは違う「青春もの」的な要素が散りばめられている。もっとも本当の愛を探してさまよう男というのは佐藤作品には案外共通したテーマとして各作品に取り入れられていたところもある。これは作者自らが真実の愛を求めていたということなのかもしれない。

影男のプロフェッショナルな雰囲気も好きなのだが、本作のようなストーリーもなかなか面白かった。もっともライフル競技で大会に出場するような腕を持っているとはいえ、ジャズボーカリストである主人公がすぐに暗黒街の仕事をこなしていくというのはできすぎではあるけれど。
 
佐藤まさあきの作品も一部を除いては復刊の機会に恵まれない。これは作者自身が単行本を中心に出版を手がけていたことから他社からの刊行が少なかったということもあるだろう。佐藤自身、なんどか自作の選集、全集も試みたが結局『影男』『堕靡泥の星』といった人気のある作品の刊行に終わってしまった(それも完結をみたものは少ない)。

日本の漫画史、とくに貸本漫画(作品ばかりではなく出版としても)を語る上で欠かせないひとりでもある佐藤の作品が再び世に出ることを願ってやまない。

書 名/凶銃に生命を賭けろ
著者名/佐藤まさあき
収録作品/凶銃に生命を賭けろ
発行所/芸文社
初版発行日/昭和49年6月1日
シリーズ名/芸文コミックス

■ライター紹介
【猫目ユウ】

フリーライター。ライターズ集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。