「特撮映像館」、第43回は1969年「緯度0大作戦」を取り上げます。

本作品は、東宝とアメリカの制作会社による合作としてスタートしたが、制作途中でアメリカの会社が倒産。以後東宝がすべての権利を有する形で制作進行され、公開に至った。


特撮や怪獣ファンからは、グリフォンやコウモリ獣人が登場する作品として知られていると思うが(いや、アルファ号などの潜水艦もなかなかいいのですが)、なかなか本編をみる機会の少ない作品という印象も強い。

公開当初は外国人俳優のセリフなども声優が吹き替えたものが使われ、70年代には「東宝チャンピオンまつり」で短縮版も上映されている。

ストーリーは、ジェット機が上空のジェット気流を利用しているように、潜水艦も海流を利用できないかという調査のため、深海調査船で日本人、フランス人ふたりの科学者とアメリカ人の記者が太平洋の海底で調査を始めたとき、海底火山の爆発により潜水球は調査船からのワイヤーも切断され遭難。怪我をした3人を救出したのはたまたま海底火山の観測にきていた潜水艦アルファ号であり、そのアルファ号は緯度0地点にある海底都市からやって来たというのであった。しかもアルファ号の進水は1800年代。艦長は200歳を超えているというのである。フランス人科学者の治療のため海底都市に向かうアルファ号を、黒鮫号という潜水艦が攻撃を仕掛けてくる。この黒鮫号はマリクという私利私欲のために科学を悪用する、アルファ号の艦長とは敵対する人物によって行動しているのだった。そう、地上の人間たちの知らないところで、緯度0の海底都市とマリクの島との間で長年にわたる攻防が繰り広げられてきていたのだ。

海底都市は理想郷ともいえる場所で、都市を統べるリーダーや政治は存在しない。また地上の著名な科学者などをスカウトし、海底都市で平和な生活と自由な研究環境を提供していた。そしてその海底都市に、日本のノーベル賞科学者がまたひとり案内されてくるはずだったのだが、黒鮫号により拉致されマリクの手に落ちてしまう。アルファ号の艦長、そして潜水球の3人はその救出に向かうのだった

製作・公開されたのは月面着陸などで宇宙に関心が集まっていたころ。本編のなかでも宇宙ばかりに気を取られていないで地球の神秘に目を向けろというセリフが出てくるが、人類にとって海底は宇宙と同じくらい未知の世界ということから発想されているのだろう。

海底に素晴らしい科学と平和の都市があるという設定はいいとして、どのような状況からその都市が建設され、艦長のような長寿が維持されているかというのは明確な説明はない。地上に比べてはるかに海底都市の科学力が進んでいるという程度である。これは敵対しているマリク一派も同じで、マリク自身が脳移植手術などを執刀し、グリフォンを誕生させるシーンもある。

ところでこのグリフォンをはじめとして、本作でしかお目にかかれない怪獣が登場するという意味でも注目の作品だと思うのだが、造形自体はお世辞にもいいとはいえない。ことに本作を代表するグリフォンはアトラクションのぬいぐるみといってしまっていいような仕上がりで、潜水艦の造形のレベルに比べて差がありすぎる。同時期の東宝特撮作品に比べても、なぜこの作品でこのような造形になってしまったのか不思議な気がする。

ところで、本作のDVDは日本公開版と海外公開版、チャンピオンまつり版の3作をBOXにして発売された。今回見比べてみたのだが、海外版で鑑賞するのがもっともいいと感じた。撮影時に宝田を始め日本のキャストも英語でセリフを言っているため、日本版では日本人キャストも改めてアフレコしているのだが、へんに説明的なセリフが多くなっているような気がする。その点海外版の方が字幕もスマートでいい感じだった。また海外版の方が15分ほど尺が長い。

これから鑑賞するという方は、ぜひ海外版をご覧いただければと思う。

監督/本田猪四郎、特技監督/円谷英二
キャスト/宝田 明、岡田真澄、ジョセフ・コットン、リチャード・ジェッケル、リンダ・ヘインズ、大前 均、シーザー・ロメロ、ほか。
1969年/89分/日本

(文:猫目ユウ)