「うちの本棚」、今回はさいとう・たかをの異色ヒーローコミック『ザ・シャドウマン』をご紹介いたします。

 ナチスドイツに協力した日本人医学者・滝沢博士が、世界征服を企む犯罪組織レリッシュの超人計画のために人体改造の研究を進めた結果、ついに超人を誕生させるに至った。

 実験に選ばれた構成員のひとり片桐は、実験中に暴れ出しアジトを飛び出し、強盗の乗った車に出くわし、その驚異の力で車を持ち上げるなど暴れ回り、駆けつけた警官の射撃により絶命してしまう。

 そして、路上に倒れた片桐の体は警官たちの目の前で見る見る黒人のように肌が黒く変色していくのだった。スポーツ選手に代表されるような、黒人の驚異的な肉体のイメージをもとに「シャドウマン」というヒーローを創出したと、秋田書店版単行本のカバー袖の作者のコメントに、さいとう・たかをは記している。もっとも超人的な力を発揮するときに肌の色が黒くなるというのは、滝沢博士も予想していなかったことで、失敗作として組織に追われることにもなる。もっとも片桐自身、もともとは新聞記者で、レリッシュのことを調べるために身元を隠して潜入していたのだが……。

 レリッシュは、いや滝沢博士はその後完全な超人を次々に成功させ、片桐はその超人たちと対決していくことになるのだが、レリッシュに対抗する世界の平和を守るエンゼルという組織に加わり、活動していくことにもなる。 作品中で詳しいことには触れていないが、細胞に何らかの手を加えることで超人を生み出すというのは、サイボークなどの機械的なものとは違っていて、さいとう・たかをの作品でいえば『デビルキング』に通じるものかもしれない。

 また、太陽光線を浴びると普通の肌の色に戻り超人的な力もなくなってしまうという設定が用意されているが、これはあまり活かされなかったようだ。個人的なことを言うと、本作品を読んだのは連載終了後、秋田サンデーコミックスでも昭和51年の第11版を、さらに数年後に入手して読んでいる。つまり連載からかなりの年月が経ってから読んだわけだが、その面白さはまったく色あせておらず、さらに今回読み返してみても楽しめるものだった。

 片桐がエンゼルに加入するまでは、太陽の光を浴びると普通の人間になってしまうことや、正体を隠していなければならないことなど、ヒーローの暗い部分を描く傾向もあり、その後のヒーロー作品で取り上げられるような部分を扱っていた感もあるのだが、結果としてスーパーヒーローの登場するスパイもの的な作品になってしまった点は少し残念ではある。早すぎた作品、といえるのかもしれない。

初出/少年(1967年)書誌/秋田サンデーコミックス(全3巻)、旧・秋田漫画文庫(全3巻)、リイド社・劇画招待席(全2巻)

■ライター紹介【猫目ユウ】ミニコミ誌「TOWER」に関わりながらライターデビュー。主にアダルト系雑誌を中心にコラムやレビューを執筆。「GON!」「シーメール白書」「レディースコミック 微熱」では連載コーナーも担当。著書に『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』など。