Gecko is fast~ヤモリは速い~毎度生活には役に立たないお話をおとどけしています不定期連載の「エドガーの無所可用、安所困苦哉」。
第15回目は「ヤモリ」についてのおはなし

ヤモリってなんでしょう?
日本では、夏の夜にカベにひっついてちょろちょろしているトカゲのような生き物、という認識が一般的かと。


普通の生活ではそれだけで十分です。時々聞かれるのが「ヤモリ」と「イモリ」の類縁関係。両者はまったく異なる生物です。ヤモリは大きなくくりでトカゲの仲間に入る爬虫類、イモリは両生類であり、サンショウウオなどともに「有尾目」に分類されます。

ちなみに両生類のもう一つの大勢力であるカエルは「無尾類」です。ヤモリとイモリ、名前が似通っているのは、漢字で書くとヤモリは「守宮」、イモリは「井守」となり、家を守る、井戸を守る、というような意味合いが込められているようです。
ヤモリについてもうちょっと深堀すると、多くのヤモリには瞼がありません。「トカゲ」には瞼があります。ここがトカゲとヤモリの違いのひとつ。ただしヤモリにも瞼を持つものがいて、これらは「トカゲモドキ」と呼ばれます。あと足の指。小さいところなので写真が撮れませんが、指の形が違います。見慣れてないと、並べて見比べないとわかりにくいですが……。また、ニホンヤモリは壁やガラス面にくっついている姿をよく見ますね。あれもヤモリならではです。ヤモリには、一方向だけに粘着性を発揮する、方向性接着と呼ばれる現象です。ただ、沙漠や荒地に住むヤモリの仲間では、壁や木に登る必要のない環境への適応か、壁登りができない仲間も存在します。

とまぁ文字だけで述べてまいりましたが、写真もごらん頂きましょう。

ツノミカドヤモリ
(写真:ツノミカドヤモリ)

まずは壁登り系ヤモリの我が家代表、ツノミカドヤモリ。英名のガーゴイルゲッコウとも呼ばれます。かなり色変化のあるヤモリで、写真では白っぽいですが、茶色っぽくなったりもします。写真では下向きにアクリルの壁にくっついています。

次はボウユビヤモリ、ハリユビヤモリと呼ばれる小型の沙漠のヤモリから、ペトリボウユビヤモリとボウユビヤモリspです。この仲間は壁登りできません。「ボウユビヤモリsp」は、同定不能ということで入荷したヤモリ。この仲間はまだ分類が定かでなく、よくわからない種が入荷してくるようです。ワタシはこの仲間が大好きで、ペトリボウユビヤモリは何度か子も生まれています。

ペトリボウユビヤモリ ボウユビヤモリsp
(写真:ペトリボウユビヤモリ) (写真:ボウユビヤモリsp)

さてヤモリ界で最も多く飼われていると思われる仲間、ヒョウモントカゲモドキ。

ヒョウモントカゲモドキ・ブリザード
(写真:ヒョウモントカゲモドキ・ブリザード)

ちなみにうちにいるのは真っ白な「ブリザード」という品種です。この仲間は多くの品種が作出されていて、名前通りの「豹紋」の個体はほとんど見かけません。

写真の個体はブリザードの中でも「ブレイジングブリザード」と呼ばれる、アルビノも入った目が赤い個体で、そのせいで視力はよくありません。

ねむたげな目がかわいいヒガシアフリカトカゲモドキ。

ヒガシアフリカトカゲモドキ
(写真:ヒガシアフリカトカゲモドキ)

とてもおとなしい種で、手に乗せてものんびりしています。こんなんで自然で大丈夫なんだろうかと心配になるくらいです。

トカゲモドキでもう一種、ボウシトカゲモドキ。

ボウシトカゲモドキ
(写真:ボウシトカゲモドキ)

他のトカゲモドキと異なりアメリカ大陸に住んでいます。チョロチョロよく動く種ですが、すぐに隠れてしまいます。

ヤモリの中でも飼育しやすいソメワケササクレヤモリ。

ソメワケササクレヤモリ
(写真:ソメワケササクレヤモリ)

ヤモリというのは地味なのだなぁというイメージになりそうなものばかり紹介しましたが、鮮やかな色調のものもいます。一例ということでヨツメヒルヤモリをご紹介。うちにはいないので爬虫類のお店を経営している方に写真をお借りしました。

ヨツメヒルヤモリ
(写真:ヨツメヒルヤモリ)
写真提供:Pumilio

このほか、アオマルメヤモリともターコイズブルーゲッコーとも呼ばれる、鮮烈なブルーのヤモリなどもいます。

さて、ヤモリは飼育しやすい爬虫類です。というのも、あまり広いスペースが要らず、紫外を当てる必要もない場合が多いからです(最後に紹介したヒルヤモリの仲間は、紫外線が必要です)。
また、見てわかるとおり、ワタシの飼育しているヤモリのほとんどが壁登りのできない地上性のヤモリです。これだと高さもいらず、ヤモリのケースは積み上げたプラスチックケースで飼育しています。

で、ここへ来てようやくタイトルの「ヤモリは速い」についてです。壁登りするタイプのヤモリの多くは、動作が非常に素早いです。
実はワタシもヒルヤモリや壁登りする種を飼育していたのですが、とにかく速い。そして壁も天井も気にせず、どこでも歩ける。彼らはそう簡単には捕まりません。
また、体が平べったいものが多く、数ミリの隙間でも通ってしまいます。結果、脱走の危険も高まります。
そんなリスクがあるので、自然と「壁登らない」「動作がゆっくり」「紫外線なくていい」という条件を満たすヤモリがほとんどになりました。
そして現在、ワタシの部屋には、1~2匹のヤモリが脱走状態で生活しています。夜に部屋に入ったときなど、ばったり出くわすこともあるのですが、こちらが手を動かす前にヤモリは走って逃げてしまいます。それはそれは見事な速さです。また、姿が見えなくても、鳴き声が聞こえますので、「ああ、いるな」ということがわかります。

実はこの「部屋に住んでいるヤモリ」は、脱走者ではないかもしれないのです。たまに姿を見かけると、普通のニホンヤモリのようにも見えます。いずれ書くつもりですが諸事情によりワタシの部屋はヤモリのエサになる虫がうろうろしています。どこかの隙間から入り込んだ子ヤモリ(ヤモリの子はとても小さいです)が、環境の良さにいついてしまった……という可能性が高いのです。
壁に糞をするのが困りものですが、守宮という名にあやかって、やや寛大なココロで元気にしているところが感じられれば由としています。あ、嫁さんはそうではありませんよ。
ヤモリの飼育にはエサになる昆虫が必要ですが、トカゲのような設備を必要としないので、これから何か爬虫類を飼ってみたいという方には、大変におすすめです、ヤモリ。

■ライター紹介
【エドガー】

鉄道、萩尾望都作品、ポール・スミス、爬虫類から長門有希と興味あるものはどこまでも探求し、脳みその無駄遣いを楽しむ一市民。そのやたら数だけは豊富な脳みその無駄遣いの成果をご披露させていただきます。