薄暗くなってくるとその辺を飛び回りだすコウモリたち。都心部でも緑が多いところだと、意外と飛び回っているものです。もし、そんなコウモリが自分にくっ付いてしまったら……そんな珍事が話題になりました。

 珍事が起こったのは多摩川の河川敷。この季節、たくさんの草花たちが勢いよく伸びていく時期です。野草観察をするにはうってつけの時期に、多摩川の河川敷でフィールドワークをしているのは、多摩川野草会を主催しているのんさん。ツイッターでは「365日野草生活」と名前に入れているくらい、野草を観察し、様々な活用方法を紹介し、食にも取り入れている、自然をこよなく愛する人です。

 のんさんは都心でOLとして働きつつ、暇さえあれば多摩川などの緑豊かな場所で野草を観察しては楽しんでいます。そんな明るい昼日中のある日、びっくりするような珍事が。草むらに紛れていたコウモリがのんさんの服にくっ付いてきたのです。さすがののんさんもこれにはびっくり。

「多摩川で何かひっついてきた。
どうしたらいいんだ」

 と、戸惑いを隠せない様子で写真とともにツイッターに投稿。

 普段からフィールドワークには欠かせない軍手をはめていたのんさん、軍手を付けたまま、服からそっと引きはがし、しばらく手のひらに乗せて観察していましたが、あまり触り回すのも野生種にとっては良くないもの。

 コウモリの扱いにどうしたものかと、動物愛護センターに連絡して対処法を確認してみたところ、コウモリはその場に置いて離れ、動物愛護センターの指示通りに対応をして事なきを得ました。

 この一連の様子は1万以上リツイートされ、多くの関心を呼びました。リプライには、「よく見たら可愛い」という声とともに、「多摩川で…コウモリいるんですねぇ」「隅田川、皇居付近でも見ることができるので対応方法は知っておいた方がいいですね」と、都心部でも緑の多い場所には結構な数が生息している事を知っている人も。

 リプライには、子どものころに捕まえたり飼おうとしたりした、と無邪気だった頃を振り返る人もいますが、「感染症にも気を付けて!」という声も結構出ています。コウモリに限らず、野生で生きる生き物には様々な病原体の宿主となるものも多いのです。

 日本の都市部などでよく見かけるコウモリは、ほとんどがアブラコウモリと言われています。東京都内で確認されている6種類のコウモリの中でも、家屋をねぐらとしているアブラコウモリは多摩川の河川敷にも多く生息している様子。のんさんにしがみついてきたコウモリも、恐らくアブラコウモリではないかと思われます。

 コウモリにはネズミと同じくらい、人獣共通感染症も含め様々な感染症の原因となる病原体を持っています。同時に、蚊やユスリカ、ゴキブリなどの飛ぶ昆虫類を大量に捕食する動物ですが、人家に潜んで糞尿による汚染もある事から、鳥獣保護法で定められている「有害鳥獣」として、捕獲や駆除を行うには保健所の許可が必要です。カラスなどと同じ扱いになります。

 もしコウモリがどこかから落ちてきても、絶対に素手では触らないようにしましょう。部屋の中に入り込んだり、のんさんの例の様に服などにくっ付いてきた場合の対処法は以下の通り。

・素手で直接触れないように、タオルやハンカチなどでそっと包んで引き離す
・屋外の場合はその場にそっと離して立ち去る。屋内の場合は軒下やベランダの手すり部分などに放す。コウモリは足が弱いのでぶら下がれるところに掴まらせるようにしてあげるとベスト
・コウモリが張り付いた部分はアルコール消毒を。衣類などは熱湯消毒かアルコール消毒を。熱湯の場合は沸騰したお湯を汚染部分に30秒以上かけてください。熱にもアルコールにも弱い素材の場合は、諦めてビニール袋に入れて密封して廃棄を
・素手で触ってしまった場合は、他のものを触らないように気を付けてしっかり手洗いを行い、アルコール消毒をすればまず問題ありません

 幸いな事に、日本ではコウモリを介した感染症は報告されていませんが、これは日ごろから狂犬病の予防接種や、日本人の清潔に対する意識の高さのたまもの。とはいえ、完全にコウモリ由来の病原菌をなくす事は非常に困難です。もし、家屋内でコウモリを見つけた場合は、コウモリを追い出してから外に繋がる隙間を完全にふさぎ、糞の除去と消毒が必要となってきます。

 もし、コウモリを観察したい場合は、動物園に行って観察するのが一番手っ取り早いですが、現在のコロナ禍の中、動物園も閉鎖中。夕暮れ時にパタパタと飛んでいるコウモリを、離れたところから観察するのが一番良さそうですね。

<記事化協力>
365日野草生活・のんさん(@365nitiyasou)

<参考文献>
東京都のコウモリ – 地域環境計画(PDF)ほか

(梓川みいな/正看護師)