2019年2月22日20時45分(アメリカ東部時間)、アメリカのフロリダ州ケープカナベラル空軍基地40番発射施設から、スペースXのファルコン9ロケットが打ち上げられました。主なペイロードはインドネシアの人工衛星「ヌサントラ・サトゥ」だったのですが、同時にイスラエルのNGO「スペースIL(SpaceIL)」による月探査機「ベレシート」も搭載されていました。政府機関によらない、民間による月探査機の打ち上げは世界初のことです。

 スペースILは、月にイスラエル初の探査機を送り込むため、2011年に設立されたNGO(非営利団体)。民間初の月探査レース「Google Lunar XPRIZE」に参加し、日本の「HAKUTO」とともにファイナリストに残りました。「Google Lunar XPRIZE」は、期限となっていた2018年3月31日までに月に到達したチームがいなかったため、勝者なしで終了しましたが、スペースILは独自に月への挑戦を続けていたのです。

 イスラエルの航空機メーカーIAIの協力を受けて作り上げた、総重量約600kgの月探査機は「ベレシート(Beresheet)」と名付けられました。ヘブライ語で「創世記」を意味するこの探査機には、月の様子を撮影するカメラと通信システム、磁力計のほか、このプロジェクトに携わった人々の名前、イスラエルの独立宣言、聖書、イスラエルの国歌に、27言語の辞典と百科事典などをデジタルデータ化した3枚のディスクで構成された「タイムカプセル」が搭載されています。また、地球から着陸地点を正確に把握できるよう、レーザー光を反射するリフレクタも取り付けられました。



 初期軌道に投入されたべレシートは、少しずつ加速しながら軌道高度を上げ、2019年3月20日に遠地点高度400kmの楕円を描く宇宙待機軌道に入る予定。その後も地球を周回しながら少しずつ加速して、月へと向かいます。月の引力圏に到達するのは2019年4月4日を予定しており、4月11日に月の表側、北半球にある「晴れの海」に着陸する予定。ここはかつてアメリカのアポロ15号と17号、そしてソ連のルナ21号が着陸した地域。ルナ21号には無人月面車「ルノホート」2号が搭載されており、およそ4か月に渡って約42kmの距離を走り回って8万枚を超える画像を送信しています。これは今でも月面車の最長走行記録。

 スペースILは2018年10月、NASAと協力協定を結んでおり、磁力計で測定した月の磁力データを提供する代わりに、ミッションで最も重要な部分である月着陸に際して、通信の支援を受けることとしています。4月に無事月着陸が実現し、その名の通り民間による月探査の「創世記」を記すことになるのか、注目です。

Image:SpaceXSpaceIL

(咲村珠樹)