人間の脳って、自動的に自分が必要としている音声を取捨選択して認識する機能が備わっています。しかし、中にはその機能が上手く作動しない人もいます。例えば、エアコンの音やトイレの水を流す音など、日常生活にあふれている音が耐えられなかったり、人の多いところでの会話では相手の声と混じってその他の人の声が耳に入ってきてしまうのです。自分に不必要な音をミュートする機能がない状態、といえるこの状態は、感覚過敏のひとつでもある「聴覚過敏」と言われています。

 しかし、「聴覚過敏」に対する世間の認知度はまだまだ低く、以前には発達障害で感覚過敏のある子供に、「聴覚過敏」対策として騒音減少を目的としたヘッドホン型の「イヤーマフ」をつけさせていたところ、知らない人から「小さな子供にヘッドホンで音楽を聴かせている」と言われてしまった……という、聴覚過敏の子をもつ親の悩みがネットで話題になったこともあります。後に、その話題をきっかけにイヤーマフに付ける「聴覚保護マーク」が作り出され、今では口コミとネット上での拡散によりそのマークを使う人もだんだん増え始めている最中です。

 こうした中、「イヤーマフでは耳周りが蒸れる」「イヤーマフだと周りに分かりやすい反面、目立ちすぎる」という経験者の声も徐々に出てきています。特に、小さな子どもにはヘッドホン型のイヤーマフは分かりやすいシンボルとなりますが、思春期以降、人前でイヤーマフを装着する事に抵抗があるという人も。特に成人して仕事をしている人だと、職場ではイヤーマフを使い辛いという声も聞かれています。そこで、ノイズキャンセリングイヤフォンを付けている人もいるようですが、キングジムから発売されている「デジタル耳栓」が近頃では注目を集めています。

 ネットでは度々「デジタル耳栓」に関する口コミが投稿されていますが、つい先日にはTwitterユーザーの吉川飛空さん(@YoshikawaHitaka)が写真とともに「デジタル耳栓を買ったんだけど新宿の耳障りな喧騒が嘘みたいに消え去って健全な歩行ができている これもっとADHDフレンズで流行らせたいな」と紹介したところ、3千超えてRTを集める出来事がありました。そんなにも多くの人が注目する「デジタル耳栓」とは?発売元のキングジムの広報の方に聞いてみました。

■ この商品が発売されたのはいつからでしたでしょうか?

――2014年3月7日発売です。
昨年11月に後継機種も発売しました。

■ 話題になっている「デジタル耳せん MM1000」(4980円税別)が初代で、後継機が「デジタル耳せん MM2000」(8500円税別)なんですね。ちなみに、こちらの商品の元々の開発コンセプトはどのようなものだったでしょう

――仕事や勉強、読書などで集中したい時、周囲の騒音をさえぎるために耳せんを使用することがあります。しかし、従来の耳せんでは呼びかけ声やアナウンス、着信音など、周囲の必要な音まで遮音され、無音で不安になるという声がありました。「デジタル耳せんは」このような背景に注目し“新しいタイプの耳せん”として開発しました。

■ 本来は事務用品としての位置づけでの開発・販売だったのでしょうか?

――これまでも「テプラ」や「ポメラ」など世の中にない様々なデジタル製品を開発してきましたが、「デジタル耳せん」も新たなジャンルへのチャレンジとして開発したデジタルガジェットです。

■ 現在、聴覚過敏の人に広く補助具として口コミ経由で広がっている感じですが、今後はそういった方面へのアプローチもお考えでしょうか?

――現在予定はございませんが、幅広い場面でご活用いただけるよう商品認知拡大に努めてまいります。

 という事で、本来は仕事や勉強を効率化するためのガジェットという位置付けで開発されているこのデジタル耳栓、今は本来の仕事効率化の他にも、聴覚過敏の救世主の様な位置づけにもなっています。今まで音楽をイヤフォンで流して周りの雑音に耐えていた人も、デジタル耳栓を使う事で、周りの雑音(特に高周波と低周波のノイズ)から耳を守る事ができ、かつ人の声の周波数は通るようになっている事で、音楽でごまかさなくても雑音から身を守る事ができるようです。

 目の病気や強い日差しで周りが眩しく感じる人がサングラスをかけるのと同様、聴覚過敏の人がこういった保護具を使って自分の身を守る事は今後さらに周知されて欲しい事であり、もっと当事者のあいだにも広がって欲しいと思います。

<取材協力>
株式会社キングジム

<記事化協力>
吉川飛空さん(@YoshikawaHitaka)

(梓川みいな/正看護師)