2019年1月2日(現地時間)イギリスのロールスロイスが「世界最速の電動飛行機」を作ると発表しました。その名は「ACCEL(アクセル)」。イギリス政府の後援も受け、2020年に時速300マイル(480km)以上の速度記録を作ることを目標に掲げています。

 このACCEL計画は、ロールスロイスが進める「飛行の電動化推進(Accelerating the Electrification of Flight)」計画の一環として立案されたもの。電動飛行機の性能向上のため、速度面での技術立証を目指します。

 現在の電動飛行機による速度記録(離陸重量1000kg以上、3km以上の直線コース)は、2017年3月23日にドイツのシーメンス製電動モジュールを組み込んだエクストラ330LE(ウォルター・カンプスマン氏操縦)が記録した時速342.86km。同じく離陸重量1000kg未満も同日、同じ機体でベース機エクストラ300の設計者、ウォルター・エクストラ氏が操縦してマークした時速337.5kmとなっています(離陸重量の違いは操縦者の体重による)。ACCELはこの記録を破るため、目標を時速300マイル(480km)に設定しました。

 速度記録機ACCELは、全長23フィート(6.9m)、全幅24フィート(7.2m)の1人乗りプロペラ機。見かけはレッドブル・エアレースで使われているレース機に似ています。機体デザインと製作にはイギリスの航空ベンチャー企業、エレクトロフライトが協力しています。

 電源となるバッテリーは6000ものセルで構成された750Vのもので、1回の充電でロンドンからパリまでの距離と同等の200マイル(320km)の航続距離を実現します。バッテリーは放電時に熱を発し、効率が落ちてしまいますが、効率の良い温度帯をキープする冷却システムも搭載。バッテリー自体も発熱量が少なくなるよう設計されるとのこと。

 この電源で、同軸に配置された軽量なモーター3台(合計出力750kW/1000HP)を駆動。モーターとその制御システムは、イギリスの電動モーター大手YASAが開発し、3枚ブレードのプロペラを最も効率の良い毎分2400回転で回し続けます。制御システムはフォーミュラEで使用されているものと同じような、インバータを使ったシステムだそうです。また、動力関係の装置には2万か所以上のセンサーが取り付けられており、バッテリーの電圧など飛行中の状態を逐一確認できるようになっています。

 現在、イングランド南西部のグロスターシャー空港にあるハンガーで開発作業が進められており、記録飛行は2020年、場所はウェールズ地方の海岸線を予定しています。速度記録挑戦の過程で得たノウハウは、将来の電動飛行機に反映されるとのこと。

 ロールスロイスは、最後のシュナイダー・トロフィー・レースとなった1931年の優勝機、スーパーマリンS.6Bのエンジン(ロールスロイス・R)を供給したことで知られます。そのエンジン開発で得られたノウハウは、後年のマーリン(ホーカー・ハリケーン、スーパーマリン・スピットファイア、ノースアメリカンP-51ムスタングなどに使用)やグリフォン(スピットファイア後期型に使用)といった傑作エンジンに反映され、現在に至るロールスロイス航空エンジンの基礎を築きました。現在の速度記録保持者が電機メーカー(シーメンス)ということもあり、ロールスロイスは「ヒコーキ屋」としての誇りを胸に、2020年の飛行に挑むことになります。

Image:Rolls-Royce

※初出時、マイルとキロの説明で300マイルを380kmと記載しているか所がありました。ただしくは、480kmです。訂正しておわびおたします。

(咲村珠樹)