海上自衛隊のミサイル護衛艦あたご(DDG-177)が2018年9月11日22時37分(アメリカ・ハワイ標準時間)、ハワイ沖の太平洋上で弾道ミサイル迎撃試験を実施し、SM-3ブロックIB TU(Threat Upgrade)ミサイルを使用して、ミサイル標的の破壊に成功しました。

 この迎撃試験は、あたごが搭載するイージスシステムにBMD(弾道ミサイル防衛)機能を付加して「イージスBMD」へと能力向上する改修を実施後、その機能が問題なく動作するか検証するためのもの。すでにイージスシステムをイージスBMDにアップグレードしている、こんごう型ミサイル護衛艦の4隻に続くもので、アメリカミサイル防衛局(MDA)の協力のもと「JFTM-05(Japan Flight Test Mission-05)」という名目で実施されました。

 9月11日22時37分(ハワイ標準時)、ハワイのカウアイ島バーキングサンズにあるミサイル試験場から、弾道ミサイルを模した標的が発射されました。ミサイル標的は夜の闇を切り裂き、空高く舞い上がります。

 時を同じくして、護衛艦あたごの艦橋構造物に装備されたAN/SPY-1(V)レーダーは、発射されたミサイル標的を感知。CIC(戦闘指揮所)でレーダー員がその進路を追跡します。並行して火器管制員がミサイル員へ情報を伝達。ミサイル員は目標の情報を確認して、艦長の命令のもと、前部甲板にあるMk.41 mod20 VLS(垂直発射システム)から、中距離弾道ミサイル迎撃用のRIM-161スタンダードミサイル3「SM-3ブロックIB TU(Threat Upgrade)」を発射しました。

護衛艦あたごの前部VLSから発射されるSM-3ブロックIB(Image:DoD-MDA)

護衛艦あたごの前部VLSから発射されるSM-3ブロックIB(Image:DoD-MDA)

 あたごから発射されたSM-3は上昇し、あたごとデータリンクを確立して目標に関する情報をリアルタイムに受け取りつつ飛行します。そして、一番速度が低下する軌道の頂点付近(ミッドコース)にあるミサイル標的に弾頭(LEAP)が命中。その撃破に成功しました。

あたごのVLSから発射されるSM-3ブロックIB(Image:DoD-MDA)

あたごのVLSから発射されるSM-3ブロックIB(Image:DoD-MDA)

 弾道ミサイル防衛(BMD)能力を付加されたイージスシステムを搭載している海上自衛隊の護衛艦には、その能力を確認するミサイル迎撃試験時に、搭載するSM-3ミサイルが宇宙空間まで飛翔するため、艦名のほかにSTELLAR(星)で始まる鳥の名前が愛称として名付けられます(STELLARはアメリカのBMD能力艦も共通で、イーグルやニンジャなどがある)。これまでに名付けられた鳥は、キジ(こんごう)、ハヤブサ(ちょうかい)、ライチョウ(みょうこう)、タカ(きりしま)というラインナップ。今回新しくBMD能力を獲得したあたごは、試験が夜間に行われたこともあってか、夜に活動する猛禽類であるフクロウが選ばれ「STELLAR FUKUROU」と名付けられました。夜空をバックに翼を広げ、ミサイルを食い止めるフクロウのエンブレムも作られていますので、もし艦艇見学であたごの艦内を見る機会があったら、そのエンブレムを探してみるといいですよ。

 あたごがミサイル迎撃試験を終えたことで、弾道ミサイルに対処できるイージスBMDを実装した海上自衛隊の護衛艦は、こんごう型の4隻を合わせて5隻となりました。あたごの姉妹艦であるあしがら(DDG-178)のイージスシステム改修工事も進行中で、2018年末に終了する予定です。

 また、2018年7月30日に進水・命名されたミサイル護衛艦まや(DDG-179)とその姉妹艦(28DDG)は、新造時からイージスBMDを実装することになっており、このまや型護衛艦2隻が竣工する2021年には、弾道ミサイル対処能力を持つ護衛艦は8隻に増える予定です。

 弾道ミサイル防衛において要となる護衛艦がこんごう型4隻のみだったため、こんごう型護衛艦とその乗組員は計画的な休息や補修が難しい状況にあります。8隻に増える2021年以降はローテーション配置が可能になり、より無理のない弾道ミサイル対処任務が実現できることでしょう。

Image:U.S. Department of Defense – Missile Defense Agency

(咲村珠樹)