名古屋で開催された「世界コスプレサミット」、東京での「コミックマーケット」も終わり、8月の大きなコスプレ関連のイベントはひと息といったところ。ネット上ではコミケに登場した様々なコスプレイヤーがあちこちで話題になっていますが、先に行われた名古屋のコスプレサミットでは取材中、車いすでのコスプレ参加者をみかけました。筆者は普段福祉系記事を多く書いています。そうしたこともありどうしても気になってしまい、車いすでのコスプレについて、コスプレイヤーさん本人に話を聞いてみました。

■ 敢えて車いすで参加したわけ 

 今回大須の灼熱地獄な気温の中を車いすで参加されたのは、コスプレイヤーの幻魔さん。今回は「機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY」のシーマ・ガラハウの姿で参戦されていた幻魔さんは、普段は特に体に不自由はないのですが、敢えての車いすでの参加。その意図について聞いてみたところ……まず一つ目の理由として「前回のパレード参加の前に急なケガをしてしまい、急遽車いすでの参加をしてみたところ周りからもとてもウケが良く、ネタ写真としても取り上げてもらったという経緯があって、今回も車いすで参加してみました」と教えてくれました。

シーマコスの幻魔さん(幻魔さん@gennma_tsffgck提供)

 車いすでの参加について葛藤などなかったかどうかについては「車いすでの参加では大須観音の砂利道の移動や大須観音を出る際に段差やポールにハードルを感じ、仲間に助けて頂きました。心理的には、歩けるのに1人ネタ写真の為に車いすを押してもらう、仲間に助けてもらう事に心苦しさがありました」と答えてくれました。一般参加の待機列は、大須観音の境内に敷き詰められている砂利を通っていかないと行けず、車輪での通行はかなり大変。乗るほうもガタガタとした振動が心地悪く、車いすを押す側も体力を使います。それでもキャラのイメージを大切に、キャラになり切るのがコスプレの醍醐味。仲間に申し訳なさを感じつつも、大胆不敵なシーマ女史のイメージを損なわない様に敢えて物理的にとてもバリアフリーとは言いにくい場所でも車いすに乗り続けていました。

■ 車いすでもコスプレ参加はできるという事を伝えたかった

 車いすを使って椅子にどっかりと座るシーマ女史に扮した姿は、ネタ的にも分かる人には大ウケするほどのハマり具合だったのですが、車いすで参加する本当の意図を幻魔さんは持っていました。それは「車いすでもコスプレ参加はできる」という事、「体に不自由があってもこうした娯楽に自ら楽しみ行く事ができる」という事を伝えたかったという意図があったのです。福祉関係の職歴がある幻魔さんにとっても、バリアフリーという事柄は関心の高いもので、今回の取材にも快く応じてくださいました。

■ 海外では車いすをド派手に装飾してのコスプレイベントがある

 ハロウィンやSFコンベンション、コミックコンベンションなどの場でコスプレが盛んなアメリカでは、車椅子でもコスプレをしてみたいといった子供向けに、車いすを「コスプレの小道具」となるように改造してくれる慈善団体があります。当「おたくま経済新聞」でも以前取り上げたのですが、できないと思っていたことができる喜びというのは格別で、みんな素敵な笑顔。会場もそういうコスプレを前提とした配慮を行なっているところもあります。

 体のどこかに障害があると、どうしても娯楽は制限されがちになってしまいます。何かを見に行く、聴きに行くなどの受け身側になる娯楽は比較的バリアフリー化が進みつつありますが、自分から参加しに行く形の娯楽への参加というものに対しては、参加する側の心理的なハードルもまだまだ高いのが現状。「こんな体で参加したら迷惑じゃないだろうか」「周りから変な目で見られやしないだろうか」そういった恐怖心が依然として障害を抱えている人の中には少なからずあります。

 どこかに障害を抱えていると、それだけで萎縮しがちな傾向になる一方、障害を逆手にわがままに振る舞ってしまう人がいる事も事実。萎縮もせず、障害を水戸黄門の印籠の様に振りかざす事もしないで、ただ、そういう「個性」がある、人から見たら大変そうに見えるけど、手助けがあれば上手く何とかできるから手を借りる。そんな考え方が広がっていくと、もっと心の中もバリアフリーに近づくのではないでしょうか。自分の抱えているものをあるがままに受け入れるって、結構しんどいものがあります。でも、そこを「個性」として自分で認めて周りに対する思いやりを持てば、その思いやりに反応してくれる人は必ず現れ助けてくれて、助ける側も助けられる側も気分のいい思いをする事ができるのではないかと、今回の幻魔さんを見て思ったのでした。

<記事化協力>
幻魔さん(@gennma_tsffgck)

(梓川みいな)