2018年8月3日(アメリカ東部時間)、NASAは初めて「民間の宇宙船」を使用して宇宙へ向かう宇宙飛行士9人を発表しました。この9人はスペースXの有人型ドラゴン、ボーイングのCST-100スターライナーという2種類の宇宙船に搭乗し、それぞれ国際宇宙ステーション(ISS)に向かうことになります。

 民間宇宙船に乗って国際宇宙ステーションに向かう宇宙飛行士たちは「コマーシャル・クルー」と呼ばれています。そのコマーシャルクルーとして発表されたのは、スペースXの有人型ドラゴン「クルー・ドラゴン」に登場する要員が4名、そしてボーイングのCST-100スターライナーに搭乗する要員が5名となっています。性別比は、男性7名に女性2名。

 ドラゴンのクルーは全員男性で、全員NASA宇宙飛行士。ロバート(ボブ)・L・ベンケンさんとダグラス(ダグ)・G・ハーレイさんは、スペースXで有人型ドラゴンの開発に従事してきました。2018年11月を予定している「クルー・ドラゴン」の初飛行は、ベンケンさんとハーレイさんが搭乗して行われる予定です。


有人型ドラゴン初飛行に搭乗するベンケンさん(左)とハーレイさん(右)

有人型ドラゴン初飛行に搭乗するベンケンさん(左)とハーレイさん(右)

 ベンケンさんは空軍大佐で、F-22のテストパイロットを務めたのち、2000年にNASAの宇宙飛行士候補として選抜されました。2008年のSTS-23、そして2010年のSTS-130と、2回スペースシャトル・エンデバーに搭乗して国際宇宙ステーション建設ミッションにで宇宙飛行を経験しています。ロボットアーム操作の達人でもあり、合計6回の船外活動も経験しています。

 ハーレイさんは元海兵隊大佐で元F/A-18のパイロット。VMFA(AW)-225時代には、3回の日本勤務経験があります。飛行教官やテストパイロットなどを務めたのち、ベンケンさんと同じく2000年にNASA宇宙飛行士候補生として選抜されています。宇宙への初飛行は2009年のSTS-127(エンデバー)。この時は日本の実験モジュール「きぼう」の曝露パレットの取り付けを行いました。そしてスペースシャトル最後のミッションとなった2011年のSTS-135(アトランティス)にもパイロットとして搭乗しています。

 クルー・ドラゴンの初飛行で問題ないことが判ったのち、初の国際宇宙ステーションに向かうフライト「Crew-1」の要員は、マイケル(マイク)・S・ホプキンスさんとビクター・J・グローバーJr.さんです。

有人型ドラゴンで初めてISSに向かうグローバーさん(左)とホプキンスさん(右)

有人型ドラゴンで初めてISSに向かうグローバーさん(左)とホプキンスさん(右)

 ホプキンスさんは空軍大佐でC-17やC-130のテストパイロットを務めたのち、2009年にNASA宇宙飛行士候補生(20期生)に選抜されました。2013年に第37/38次長期滞在(Expedition37/38)のクルーとして国際宇宙ステーションに滞在し、第39次長期滞在のコマンダーを務めたJAXAの若田光一さんとも一緒に宇宙で任務に当たっています。

 グローバーさんは海軍中佐で、空軍との人員交流プログラムで空軍のテストパイロットを勤めた経験もあります。2009年から2012年まではVFA-195に所属し、日本(厚木)勤務も経験。2013年にNASA宇宙飛行士候補生(21期生)となり、2015年に宇宙飛行士資格を取得しています。この有人型ドラゴン「クルー・ドラゴン」が初めて乗る宇宙船です。

 ボーイングCST-100スターライナーの要員は男性3名に女性2名。最初の打ち上げとなるテスト飛行には、エリック・A・ボウさんと元NASA宇宙飛行士のクリストファー・ファーガソンさん、そしてこれが初飛行となるニコール・A・マンさんの3名が搭乗します。


CST-100初飛行のクルー3名

CST-100初飛行のクルー3名

 ボウさんは元空軍大佐。F-15パイロットからテストパイロットに転じ、2000年に宇宙飛行士候補に選抜されたのち、有人宇宙計画の中枢部で責任者を歴任して2008年のSTS-126(エンデバー)のパイロットで初飛行。ディスカバリー最後の飛行となった2011年のSTS-133にも、パイロットとして搭乗しています。

 クリストファー(クリス)・ファーガソンさんは元海軍大佐。F-14のトップガンパイロットを経てテストパイロットとなり、1998年にNASA宇宙飛行士候補生に選抜されました。2006年のSTS-115(アトランティス)でパイロットとして初飛行し、2011年のSTS-126(エンデバー)でコマンダー、スペースシャトル最後のミッションとなったSTS-135(アトランティス)でもコマンダーを務めました。この飛行を終えてNASAを退職し、ボーイングでCST-100の開発プログラムに参加しています。

 マンさんは海兵隊中佐。VFA-106、VMFA-251でF/A-18のパイロットを務めたのちにテストパイロットとなり、2013年にNASA宇宙飛行士候補生(21期)として選抜されました。

 CST-100最初の国際宇宙ステーションへのフライトに搭乗するのは、ジョシュ・キャサダさんとスニータ・ウィリアムズさん。キャサダさんはこれが初の宇宙への飛行となります。

CST-100で初めてISSに向かうキャサダさん(左)とウィリアムズさん(右)

CST-100で初めてISSに向かうキャサダさん(左)とウィリアムズさん(右)

 キャサダさんは海軍中佐で物理学博士。P-3Cのパイロットを経てテストパイロットになり、P-8Aの開発をはじめとして、無人機を含む数々の計画に携わりました。2013年にNASAの第21期宇宙飛行士候補生に選抜され、スペースシャトルなどの有人宇宙計画をサポートしたり、火星へ向かうオリオンや、この民間宇宙船の開発に携わってきています。

 ウィリアムズさんは元海軍大佐。1998年のNASA宇宙飛行士候補生に選抜され、2006年のSTS-116(ディスカバリー)のミッションスペシャリストとして初飛行。第14/15次長期滞在クルーとして、当時の女性宇宙飛行士の船外活動通算最長記録を樹立しています。また、宇宙から初めてボストンマラソンに参加したランナー(レースと同時に宇宙ステーション内のランニングマシンで走りはじめ、距離計が42.195kmを通過するまで走り続けた)であり、2008年には実際にボストンマラソンに参加して完走し、宇宙と地上でマラソンを走った唯一の人物でもあります。また、2012年にはJAXAの星出彰彦宇宙飛行士とともにソユーズTMA-05Mに搭乗して、第32/33次長期滞在クルーとして国際宇宙ステーションに滞在。第33次長期滞在では女性として2番目のコマンダーを務めています。

 CST-100スターライナーの初飛行についてはまだ予定が発表されていませんが、現在試験機が建造中で、完成後に実機を用いたテストが始まることになっています。

Image:NASA

(咲村珠樹)