大規模な水害時における感染症の予防は非常に重要です。乳幼児、病気などによる療養者、高齢者は特に感染症のハイリスク群ですが、避難所生活や被害箇所の片付けでも感染症のリスクは高まります。本稿では水害時に発生しやすい感染症と、どうすれば防げるのかなどをご紹介します。

1.水害箇所で起こりやすい感染症と予防方法

 (1) 汚染した水や乾燥した汚泥に含まれる細菌感染による下痢や嘔吐

 被災箇所の水道が完全に復旧するまでは真水を沸騰させた湯冷ましやペットボトルや缶、パウチパックされた水・お茶などを常飲とし、井戸水は絶対に触らない。また、汚水を触った場合は速やかに洗い流すか可能であればアルコール消毒液で拭う。口に入った場合は速やかにペットボトルの水や緑茶などで口中をすすぐ。嘔吐物や下痢を処理する場合はマスクと使い捨て手袋を必ず着用し、汚染したものはビニール袋に密封して速やかに廃棄する。

 (2) 避難所での生活による風邪や肺炎などウイルス性の感染症による呼吸器疾患

 避難所では多くの人が密集して生活する事を余儀なくされる場合が多いため、発熱、のどの痛みや咳・痰・黄色や緑の鼻水などが出る、など風邪症状のある人は使い捨てマスクを必ず着用し、他に広げないようにする。また、空気がよどむ事で空気中のウイルスや汚泥などの粉じんが停滞しやすくなる為、避難所を利用している人で自主的な換気と清掃を行う。

 (3) 破傷風ワクチン未接種の人が汚泥を含む突起物などと接触する事によるケガで発生する破傷風、および外傷性の細菌感染

 被災地で破傷風の予防接種を受けていない人は速やかに接種を受ける。ただし、混乱した状況の中ではワクチンの在庫がないなど速やかにうけられない場合があります。被災地に設けられる医療施設や窓口などで、どこでうけられるか確認の上、冷静に行動してください。

 また、ボランティア活動で被災地へ入る人も事前に破傷風の予防接種を受けておく。破傷風は命に関わる危険な感染症です。少しの傷からも汚泥中の破傷風菌が入りますがワクチンの接種で感染を防ぐ事ができます。また、がれきなどの片付けをする人は厚手の軍手の下にゴム長手袋を着用し、皮膚の露出を極力減らす事でケガとケガによる感染症を防げます。

2.大規模災害が発生した時に何が起こりやすく、何が危険であるか

 前項(1)の嘔吐や下痢で一番危険なのは、体液の消失による体力の消耗と低栄養。嘔吐が続くと食事も水も摂れなくなり衰弱してしまいます。また、下痢により消化管液の排出は体液を消耗し、適切な電解質を含んだ水分を補給しないと衰弱に繋がります。体力のない乳幼児やお年寄りなどがこうした状態に陥ると命に関わります。また、感染力のあるウイルスなどが原因の場合、大規模感染に陥る可能性も。避難所の救護所にストックされている医薬品の備蓄が足りなくなるという事も考えられる為、常に衛生状態を良くしておく事は重要です。また、食中毒も発生やすくなる為、食事前の衛生状態には常に気を配り、清潔な手で食事を摂る事を徹底しましょう。

 幼児の被災者は泥の溜まった場所で遊びたがるかもしれませんが、冠水した部分は非常に汚染された泥が溜まっているので泥遊びは衛生状態が回復するまで辛抱です。

 前項(2)の感染性呼吸器疾患も被災直後から発生しやすくなるリスクが高まります。先述同様、体力のない人が感染する事で肺炎など重篤な状態を引き起こし、命に関わる危険性も高まります。溶連菌や百日咳、マイコプラズマ感染症、アデノウイルスなど感染力の強いウイルスにかかった場合は隔離の必要も出るので感染症のハイリスク群はできるだけ風通しの良い新鮮な空気のある場所で過ごす事が望ましいとされています。このような飛沫感染対策には市販されている使い捨てマスクで十分に効果があります。

 この1と2は、災害発生直後から避難所生活に入ってしばらく混乱した状態の時期に一番起こりやすい可能性があるので特に注意してください。

 前項(3)は1や2に比べると感染症の発症ピークは遅れてきますが、被災箇所の片付け時に起こるケガによる感染症は先の災害でも複数確認されています。これは自衛を徹底すれば予防できる事なので、片付けに入る人は必ず自衛を徹底してください。ボランティアで行ったはずが被災地でケガや病気などとなった場合、被災者に割くべき医療資源を圧迫しかねないという事を念頭に置いて作業に入ってください。

3.まとめ

 水害発生地域で起きやすいのは嘔吐下痢症、感染性呼吸器疾患。予防にはとにかく清潔と衛生状態の悪化予防。これを徹底して感染症を広げない、増やさないを心掛けてください。

<参考>
一般社団法人 日本環境感染学会 大規模 自然災害の被災地における 感染制御マネージメントの 手引き(PDF)
職業感染制御研究会ホームページ 個人防護具の手引きとカタログ集(2011年)(PDF)

(梓川みいな/正看護師)