先日、Twitter上の歴史クラスタ、特に戦国クラスタの間で「本陣セット」なるものが話題を呼びました。陣幕や床几(しょうぎ。折りたたみ式の椅子)など、戦での本陣に備えられている様々な品物が一揃いになっていて、展開すれば屋内や屋外問わず、どこでも陣が張れ、戦国時代の戦場(いくさば)がそこに現れるという魔法のアイテム。

 流石に配下の武将など軍勢までは召喚できませんが、コスプレ撮影や時代物の映画撮影などにも使えそうな便利なセットになっています。しかもこれ、売っている訳ではなく、アイデア勝負で様々なものを加工したり代用したりして「それっぽく」見えるように揃えたんだそう。自作できるのであれば、ぜひそのノウハウを教えて欲しい!……という訳で、これをTwitterで公開した左近大夫☆浜次郎さんに、これを作った経緯や作り方についてお聞きしてみました。

–本陣セットを「つくろうと思ったきっかけ」を教えて下さい。

 これに関しては様々な要因がありますが、それらの根幹には「一人でも手軽に甲冑姿の撮影ができるロケーションが欲しい。」という思いがありました。本当はどこかのお城、森や高原で撮影をすればいいのでしょうが、これだと甲冑武者一人じゃサマになりませんし……そんな中、レンタルで借りた色んな大河ドラマを鑑賞しながら考えて居ますと、大将や武将が一人陣中で思案に耽っているシーンを何度か目にしました。そこで「本陣なら一人でもどうにかなるんじゃないか」と思い至って、お手軽に用意できる本陣セットを作る決心をしました。一度身内のイベントで実際に陣を張ってみましたが、これが思ってた以上に大好評だったので、もっとこれから活用して行こうと考えるようになったんです。

–本陣セットの材料、予算などだいたいで構いません。教えて下さい。

 陣幕は旗や幕を専門に販売している業者さんに出来合の物をお願いしました。材質は天竺木綿で値段は五間(9メートル)で1万3000円ほど。晒し布を5幅並べて縫い合わせ、自分好みの家紋で染める方法であれば手間暇がかかりますが半額程でできると思います。幕串(幕を掛けるポール)はホームセンターで買ってきた長いパイプに自分で鈎(かぎ)をつけました。スタンド部分ですが、屋内やコンクリートの上では基礎となる四隅には旗やビーチパラソルを立てる為の注水式ポールスタンドを使用します。これらの幕串、スタンドが全部あわせて7000円くらいだったと思います。一般の和室で使用する場合は、長押に和風の薄い金属でできたS字フックを掛けて使用すると、釘も使わずお手頃に部屋に陣を張れます。こちらもホームセンターで購入可能です。

–床几(しょうぎ・折りたたみ式の椅子)などの調度品はどうですか?

 床几(椅子)は甲冑を着て座れる、つまり耐久性と安全性を重視しましたので、現在も伝統的な床几を作っているお店に直接注文しました。小売店を挟むとすごく高くなるんですが、工房から直接送って貰うと4000円程で購入できるんです。陣卓子(机)は完全に私の手作りです。材料は持ち運びの利便性とコストの面から、よくDIYにも使われるSPF材を選びました。この板を二つ並べ、後ろから桟木を四本打ち付けて固定しています。引き両(黒い線)はカシュー塗料で塗っています。陣卓子の足はやはり収納と運搬の面から折りたたみの出来る足を作りました。陣卓子一式で4000円くらいですかね

–こだわりのポイントは?

 一番のこだわりは、やはりお手軽に陣を敷ける「簡単御本陣セット」ということで、その運搬性と設営のしやすさにあります。これらの陣具一式、甲冑まで入れても全てワンボックス型の軽自動車に乗せることが出来ますし、材料を選んでますので本物より全然軽く、一人で運搬と設営も出来ます。更に陣卓子は足を外して地面に敷けば敷板にもなりますし、オプションの棒を取り付ければ楯にもなるように作っていますので、様々なシチュエーションでの活用も可能です。また家紋が付いていないので、どんな武将の陣としても、更には自分だけのオリジナルの本陣として活用できます。

–今後どう活用していきますか?

 個人的な撮影や甲冑仲間との撮影会は勿論。声が掛かれば他所でのイベントや撮影会でも活用しようと思っています。あくまで「簡単御本陣セット」ですのであんまり本格的な活用は不可能ですが、手軽に陣中の雰囲気を感じて貰い、また中世や戦国時代に興味を持って貰えるような活用をしたいとも思っています。実はもっと大人数での運用も考えてもうワンセット用意していまして、武者が十人くらい詰めても平気な位大きな陣も張れます。ですので、これを機にもっと大々的に何か面白い事が出来ないかも考えています!

 家に先祖代々伝わっていた刀剣から武具などに興味を持ち、装束や武具のコレクターとしても活動している左近大夫☆浜次郎さん。刀剣9振りや鎧、弓など武具のほか、様々な装束(明治時代~から戦前まで使われていた検事用の法服や十二単まで!)をコレクションされています。特にお気に入りなのは、職人さんに注文をして拵(こしらえ)の金具廻りから鞘塗り、全体の姿までオーダーした特注の群鳥文兵庫鎖太刀と、襲(かさね)の色目が気に入っている十二単だとか。単にコレクションしたりコスプレするだけでなく、お祭りなどの武者行列に参加したりとアクティブに活動されています。

 今回制作の裏側などもお伺いできましたが、意外とお手頃な予算と工夫でできるものなんだと驚きました。しかも思った以上にコンパクト。多少の工作は必要になりますが、もし「自分も陣を張りたい!」とお考えの歴史クラスタの方は、ぜひこれを参考にしてチャレンジしてみるといいかもしれませんね。

<記事化協力>
左近大夫☆浜次郎さん(@sakone_shogen)

(咲村珠樹)