2017年も多くの優れた時代劇映画が公開されました。本稿では、その中から特に話題を呼んだ映画を3本取り上げ、ご紹介したいと思います。尚、本稿はベスト3を選出する企画ではなく、あくまでも2017年の話題作を順不同で取り上げるものです。

■『花戦さ』(6月3日公開)

<コメント>
 華道家元池坊の先祖である僧侶・初代池坊専好(演・野村萬斎)を主人公にした作品。因みに次期家本は四代目池坊専好です。なぜ僧侶がいけばなを生けるのか、仏教といけばなの関係がよく分かる作品となっています。また、いけばなのシーンだけでなく、専好の友人である千利休(演・佐藤浩市)の出番が多いことも特徴です。
 さて、近年の時代劇では豊臣秀吉が残虐な処刑を行うシーンが目立っています。2016年の大河ドラマ『真田丸』では壁の落書きに激怒した秀吉が無関係な住民まで処刑し、2017年の映画『関ヶ原』の序盤では最上義光の娘・駒姫が秀吉によって処刑されるシーンが登場しています。『花戦さ』でも秀吉(演・市川猿之助)が自分の悪口を言う者を処刑しており、秀吉の暴君ぶりが描かれています。
 本作の痛快な点は、秀吉が専好によって諫められるシーンです。他のドラマではやりたい放題だった秀吉が、本作では懲らしめられるのです。ではどうやって専好は秀吉を諫めたのでしょうか。そこは専好、華道家らしくいけばなで諫めます。専好は前田利家(演・佐々木蔵之介)の屋敷で巨大な松のいけばなを生けると共に背景に猿の掛け軸を掲示します。
 私は2012年に東京・日本橋高島屋で開催された、いけばな池坊550年祭記念特別展「いけばなの根源池坊展 いけばなの夜明け」を鑑賞しに行ったことがありまして、その展覧会で、専好が前田邸で秀吉に披露した松のいけばな「前田邸大砂物」が再現されていました。会場内は写真撮影自由でしたので、写真を撮影してまいりました。↓こちらがその写真です。

 この展覧会における解説文では「前田邸大砂物」は秀吉を諫めるものとは書かれていませんが、これを秀吉を諫めるものと解釈して映画のクライマックスに持ってきたことで大変盛り上がりました。
 最後に、本作の中で最も印象深い描写を記しておきます。本作には花を擬人的に表現する台詞が登場していますが、本当に花が生きているかのように撮影されているのが素晴らしいです。劇中、秀吉が屋外で茶会を開催するシーンがあり、専好も屋外で花を披露します。このシーンは屋外である為、花が風でそよぐんですが、その様子がまるで花が笑っているかのように見えるんですね。台詞だけでなく映像でも花を擬人的に表現したのが見事でした。

<製作委員会>東映、木下グループ、東映ビデオ、竹田本社、エネット、たねやグループ、エスカワゴエ、全日本空輸、朝日新聞、日本出版販売、デスティニー
<配給>東映
<制作プロダクション>デスティニー
<スタッフ>原作・鬼塚忠、脚本・森下佳子、音楽・久石譲、VFXスーパーバイザー・浅野秀二、監督・篠原哲雄、監修・華道家元池坊、協力・表千家不審菴/裏千家今日庵/武者小路千家官休庵
<出演者>池坊専好・野村萬斎、千利休・佐藤浩市、豊臣秀吉・市川猿之助、前田利家・佐々木蔵之介、織田信長・中井貴一、石田三成・吉田栄作、ナレーター・篠田三郎、他

■『忍びの国』(7月1日公開)

<コメント>
 第一次天正伊賀の乱を描いた、忍者映画の系譜に連なる1本。時代劇で有名な伊賀忍者と言えば百地三太夫がいます。昭和37年の映画『忍びの者』では伊藤雄之助が百地三太夫を演じましたが、本作では立川談春が百地三太夫を演じました。
 忍者映画の醍醐味とも言うべき忍者の驚異的な能力は本作でも存分に描かれております。忍者が驚異的なジャンプ力を披露するシーンが多く、また、地面に隠れる等の神出鬼没っぷりで敵を翻弄する様子も描かれていました。忍者の人並外れたアクションシーンを堪能できる作品となっています。ただ、戦いの描写のノリが軽いように感じられ、人の生死を描くのに相応しい雰囲気なのか違和感を覚える箇所もありました。
 ポスターではヒーロー側の伊賀忍者が悪役の織田軍を打ち破る痛快な物語であるかのように見えますが、実際に鑑賞すると意外にそうではありませんでした。本作で描かれた第一次天正伊賀の乱では確かに伊賀忍者が勝利しますが、伊賀忍者はヒーローとして描かれている訳ではなく、金にがめつい者達という否定的に描かれています。本作は第一次天正伊賀の乱を描いた映画ですので、第二次天正伊賀の乱はラストに少し出てきた程度なのですが、映画全体の文脈から言えば、第二次天正伊賀の乱で伊賀忍者が敗れたのは因果応報であると描かれているようでした。

(C)2017 映画『忍びの国』製作委員会

<製作委員会>TBSテレビ、東宝、CBCテレビ、WOWOW、MBS、TBSラジオ、HBC、日本出版販売、SBS、RCC、コーエーテクモゲームス、ジェイ・ストーム、ツインズジャパン、TCエンタテインメント、ジェイアール東日本企画、KDDI、RKB、GYAO、読売新聞、TBC東北放送、中日新聞社
<配給>東宝
<制作プロダクション>ツインズジャパン
<スタッフ>原作/脚本・和田竜、音楽・高見優、VFXスーパーバイザー・村上優悦、監督・中村義洋、公認・日本忍者協議会
<出演者>無門・大野智、日置大膳・伊勢谷友介、百地三太夫・立川談春、下山甲斐・でんでん、音羽の半六・きたろう、下山平兵衛・鈴木亮平、織田信雄・知念侑李、ナレーター・山崎努、他
(C)2017 映画『忍びの国』製作委員会

■『関ヶ原』(8月26日公開)

<コメント>
 司馬遼太郎の小説『関ヶ原』を2度目の映像化。
 『関ヶ原』は長い物語ですので、上映時間2時間半の映画版『関ヶ原』でその全体像を描くことは難しい為、映画版『関ヶ原』は何を描くかの取捨選択をすることになります。映画版『関ヶ原』は有名大名の多くをその他大勢の登場人物扱いにし、ストーリーの中心を石田三成、島左近、徳川家康ら少数の武将に絞り込みました。合わせて、これら大名の動きと同時並行して忍びの動きを描き、ストーリーの2本柱としています。
 忍びのエピソードで印象深いのは、徳川家康(演・役所広司)が敵の忍びを殺害する為、家康に味方する忍びもろとも刺し殺したシーンです。敵を倒す為の道具として使い捨てられる忍びの運命がとても悲しかったです。
さて、本作の見せ場はやはり合戦シーンでありまして、大変な迫力なんですが、本作における合戦シーンの特徴として挙げられるのは、どの武将がどの地点に布陣していたのかという布陣図が画面に登場しなかった点です。この点に、過去の映像作品とは異なる2017年の作品らしさが表れていると言えるのではないでしょうか。と言うのも、関ヶ原の戦いにおける布陣については近年、従来言われていた説とは異なるという説があるとのことです。過去の映像作品と違ってどの武将がどの地点に布陣していたのかという布陣図を画面に表示させないことは、現在の関ヶ原作品として1つの選択肢だったのでしょう。

(C)2017「関ヶ原」製作委員会

<製作委員会>東宝、アスミック・エース、住友商事、電通、ジェイアール東日本企画、木下グループ、ジェイ・ストーム、朝日新聞社、毎日新聞社、時事通信社、WOWOW、阪急交通社、東急エージェンシー、時代劇専門チャンネル、GYAO、日本出版販売、中日新聞社、コーエーテクモゲームス
<配給>東宝/アスミック・エース
<制作プロダクション>東宝映画/ジャンゴフィルム
<スタッフ>原作・司馬遼太郎、脚本・原田眞人、音楽・富貴晴美、VFXスーパーバイザー・オダイッセイ、監督・原田眞人
<出演者>石田三成・岡田准一、島左近・平岳大、徳川家康・役所広司、前田利家・西岡徳馬、初芽・有村架純、小早川秀秋・東出昌大、豊臣秀吉・滝藤賢一、ナレーター・木場勝己、他
(C)2017「関ヶ原」製作委員会

 <参考資料>
テレビ番組『高島礼子・日本の古都~その絶景に歴史あり』「池坊・華道家元の謎!華麗なる555年の物語」(2017年、BS-TBS)

(コートク)