レッドブル・エアレースの2017年チャンピオン、室屋義秀選手の2018シーズンキックオフ会見が1月18日に都内で行われ、アブダビでの開幕戦を二週間後に控えた2018シーズンの抱負を語りました。(取材・咲村珠樹)

 会見は恒例のトークショー形式。まずは年間チャンピオンに輝いた2017年シーズンを振り返り「終わってみれば年間4勝と最多勝だったけれども、浮き沈みの激しいシーズンだった」と語りました。2018年シーズンの目標は、もちろん総合2連覇。過去には2009年・2010年にイギリスのポール・ボノム氏(現在は国際中継の解説者)しかなし得ていない偉業を目指します。

 オフシーズンについては、最終戦のインディアナポリス大会の翌日に、機体をアメリカの拠点であるカリフォルニアに移動。シーズン中にはできなかった、機体を完全に分解してのオーバーホールを行いました。ポルト大会の前後に損傷したエアフレームについては、改めて調べたところ、完全にやり直さないといけないほど負担がかかっていることが判明。この対処を最優先にしたため、オフシーズン中に行う予定だった機体の改修までは完全に手が回らず、アブダビでの開幕戦には、基本的に昨年のままの状態で臨むことになったといいます。

 昨年、筆者とのインタビューで触れていた新しいエンジンカウリングについては、ほぼ形は固まったそうで、大まかな様子も紹介してくれました。まだ開幕前のため、ボカシの入った画像でしたが、よりプロペラスピナー周りのシェイプがシャープに削られた印象。シリンダー冷却用の空気取り入れ口は、他の選手のような横長の細いものではなく、今まで通りの丸いフォルムのようです。これはアブダビには間に合わないものの、第2戦のカンヌ(フランス)大会まで2か月近く時間があるので、その間にテストを重ね、カンヌ大会に投入したいと語っていました。

 また、他の選手が着けているウイングレットについては、2016年シーズン開幕前に、一旦許可された大型ウイングレットが直前で認可取り消しになった経験を踏まえ、研究を続けているそうで、テストの結果が順調であれば、シーズンの途中に投入する可能性があるとのこと。

 「我々の機体は、一番速い状態で昨シーズン終わっていますんで、テストしてからじゃないとペースを落とす可能性も高いので、慎重に進めています。大まかに1年で1秒近く(平均)タイムが良くなっていっているので、2018年の前半戦はまだイケるかもしれませんけど、後半戦は全く勝てなくなってきますから。レースはずっと開発競争なので、立ち止まるとあっという間に置いていかれるので……。去年のことは忘れて、取り組んでいった方がいいのかな、と思っています」

 チーム体制では、テクニシャンが新しく、カリフォルニア州のソノマ・スカイパークに拠点を置くプレーンビルダー(複葉エアロバティック機、ピッツのレプリカ機製作などで知られる)、ピーター・ゴーティエ氏に変わりました。これはオフシーズン中の機体整備を手伝ってくれた際、非常に腕のいい人物だと判ったため、テクニシャンになってもらったとのこと。レースの経験も豊富な人なので、色々と力になってくれそうだと期待を寄せていました。

 2018年シーズンはオーバーGのルールに若干変更があります。これまで10G以上を0.6秒以上記録すると即座にDNF(ゴールせず)となり、その時点でレースが終わっていましたが、今シーズンからは10G以上12G未満であれば、インコレクトレベル同様、2秒のペナルティとなりました。12G以上を記録した場合は、これまで通りDNFとなります。12GでDNFというのは、2010年までのオーバーGルールと同じ数値なので、以前のようなものに近くなったともいえます。

 このルール変更について室屋選手は「しょっちゅう(オーバーGに)引っかかっていたので、2年前だったら良かったんですけどね(笑)。今は引っかからないテクニックを編み出したから、なくてもいいのにな、と思いましたけど」としつつ、「2秒ペナルティがつけば、実際勝負は決まったに等しいんですが、お客さんにとっては最後まで飛ぶのが見られるのでいいんじゃないかな、と思います」と語っていました。

昨年、室屋選手が次世代の航空人を誕生させる道しるべとして構想を発表した「ビジョン2050」については、今春にもふくしまスカイパークに新たな飛行機展示場の建設が始まるとのこと。また、小型機を開発するメーカーがいよいよ事業を始める予定だとのことで、それらを見て子供たちが、パイロットだけでなく、航空機の整備や開発など、空に関わる仕事を目指してくれれば……と希望を語っていました。

 室屋選手がディフェンディングチャンピオンとして臨む、レッドブル・エアレース2018年開幕戦、アブダビ大会は、2月2日・3日、UAEのアブダビで開催予定です。