バリアフリーという言葉も随分世の中に浸透してきていますが、なにかしらの障害って当事者にならないとなかなか気が付かない事も多くてまだまだ障害のある人が過ごしやすい世の中であるとは言いがたいのが実情。

筆者の友人にも視覚障害者や発達障害、肢体不自由者などがいてそれぞれに困難を抱えながらも障害と上手く付き合いつつ生活している人ばかりなのですが、やはり世間には世知辛さと優しさの両側面を感じずにはいられないようです。

そんな筆者、正看護師の資格をもちライターとして活動していることもあって、自然とバリアフリーや福祉についても考える事が多くなるわけですが先日気になるものを見つけたので皆さんにも知ってもらいたいと思い、紹介してみます。

その名も、触感時計「タック・タッチ」。触感で時間が分かる?どゆこと??この腕時計、見た目は盤面に全く何もない、LEDなどの表示も浮き出てこない、側面にボタンが付いているだけの腕時計。この見た目だけではどうやって時間を確認するのか全くピンときませんでした。

実はこの腕時計、側面についている3つのボタンで時間合わせから現在時刻の確認、タイマーやアラームまでできてしまうというのです。盤面に何もないのにどうやって???と不思議に思ってたのですが、実はこの3つのボタンにそれぞれ「時」「10分」「分」が割り当てられていて、それぞれのボタンを押すと振動の回数と長さで「時」「10分」「分」が分かるという仕組み。
触感って、振動を感じるって事なのね。なるほど。

デザインはホントにシンプル。四角い盤面にマグネット式のベルトが付いており、目が見えにくくても、あるいは全然見えなくても簡単に装着できてしまいます。
盤面とベルト部分は一体型となっていて、シリコンゴムの優しいさわり心地は装着してもあまり違和感を感じなさそう。
さらにイイね!と思ったのが、市販のコイン型リチウム電池で動くという仕様。普通の腕時計って電池が特殊だから交換するのに時計屋さんに持ち込まなければいけなかったり交換に技術を要したりしますが、このタック・タッチは自分で電池交換できてしまうのが地味に嬉しい。

色は、カラフルな7色展開。色の名前もそれぞれステキで、筆者が特にいいなと思ったのが「ハテルマ・マリンブルー」。波照間島で見られる海の色を再現したというキレイな水色。これはファッション感覚でも身につけてみたいかも。

タック・タッチを開発販売している有限会社アイスマップに、時計ができるまでの経緯を聞いてみました。
作ろうと思ったきっかけは、一人の視覚障害者の方との出会いだったそうです。従来の視覚障害者用の携帯時計は、音で時刻を知らせる”音声式”と時計の短針、長針を直接指で触って時刻を知る”触読式しかありませんでした。”音声式”は会議中や授業中、バスや電車の中では使用に気兼ねしてしまい、”触読式”は熟練が必要、というそれぞれの方式での問題点を抱えています。
そこで、触読式よりも簡単に触覚で分かる時計を開発しよう、という流れになり2年間の試行錯誤を経て2015年6月に誕生したそうです。こういった流れの中で生まれた腕時計だったので、主な利用層を視覚障害者、盲ろう者として視覚障害者団体のイベントなどを中心に体験デモを中心に行ってきたそうです。しかし、全国31.5万人と言われる視覚障害者に情報が浸透していくのはなかなか大変だったとの話も。

テレビや雑誌などのメディアに紹介され、徐々にタック・タッチの認知度もあがっていきました。「an・an」に掲載された事で若い女性にもファン層が拡大し、ファッション感覚で身につけている健常者も増えてきたとか。
これを受けてネットショッピングでも気軽に購入できるようにし、今は視覚障害の有無を問わず幅広い層の人たちが手軽に手にいれる事ができるようになりました。

タック・タッチは振動の回数と長さで時間を教えてくれるので言葉の壁もなく、見えなくても聞こえなくても使う事ができる腕時計なので今やアメリカへも出荷されているそう。全世界の人が使える日本発のニュータイプの腕時計、って何だかすごいですよね。

アイスマップ代表の伊藤さんは、「近い将来は視覚障害者だけでなく、聴覚障害者、その他の身体障害者の日常生活のクオリティが向上する製品を開発していきたいと思っています。」と抱負を語っており、今後も注目していきたいと思います。

<記事化協力/画像提供>
有限会社アイスマップ
ツイッター フェイスブック YouTube

※訂正:初出時「3つのボタンにそれぞれ「時」「分」「秒」が割り当てられていて」と紹介しておりましたが、正しくは「「時」「10分」「分」」で秒はありませんでした。訂正しお詫びいたします。

(看護師ライター・梓川みいな)