2017年2月3日、小林立原作の漫画を実写化した映画『咲-Saki-』が公開されました。本作は、麻雀の競技人口が爆発的に増えた世の中を背景に、長野県にある高校の麻雀部で活動する女子高生を描いたものです。

【関連:声優・大亀あすか、『咲-Saki-』きっかけでプロ雀士に】

 映画公開前の2016年12月には地上波テレビでドラマが放送されました。映画はテレビドラマの続篇となります。女優陣の努力や衣装、髪型の再現度の高さにより、2次元のキャラクターを実写で表現した作品としては極めて高いクオリティーを誇る作品となりました。テレビドラマ版では主人公・宮永咲(演・浜辺美波)が在籍する清澄高校麻雀部の様子が描かれ、映画では長野県大会での清澄高校とライバル校・龍門渕高校、風越女子高校、鶴賀学園の激闘を描きます。

 テレビドラマ版の時点で、番組内で放送された映画の予告篇はライバル校3校を大々的に画面に写しており、県大会を盛り上げていました。この他、映画の前売り券(ムビチケカード)は何と4校それぞれを図柄にしたバージョンが個別に発売されたり、映画館のグッズ売り場では4校それぞれのタペストリーが発売されるなど、主人公が在籍する清澄高校とライバル校を平等に扱って対決を盛り上げる手法が見られました。私はこのような実写版『咲-Saki-』の手法を、「クイーンズブレイド方式」と名付けました。「クイーンズブレイド方式」の名前の由来は、実写版『咲-Saki-』と同様の構成で制作されたテレビアニメ『クイーンズブレイド』です。これは筆者が本稿の中だけで勝手に命名したものですので、ご了承ください。

前売券

 「クイーンズブレイド方式」の特徴は以下の通りです。
・物語の中で最大の盛り上がりポイントは大会における勝ち負けです。
・作品は前半と後半に2分割して公開されます。この方式の名前の由来となったテレビアニメ『クイーンズブレイド』の場合、前半は『クイーンズブレイド 流浪の戦士』、後半は『クイーンズブレイド 玉座を継ぐ者』というタイトルで放送されました。『咲-Saki-』の場合、前半はテレビドラマ、後半は映画です。
・前半に於いて大会の模様は殆ど描かれません。一方、後半に於いては前置きはほどほどにしてさっさと大会の描写に突入します。
・前半はキャラクター紹介の意味合いがあります。実写版『咲-Saki-』の場合、テレビドラマの第1話(第1局と表記)から第4話(第4局と表記。最終回扱い)はほぼ清澄高校の描写のみでしたが、その後、特別編と銘打った回が放送されました。この特別編はライバル校3校の麻雀部員の姿を描き、ライバル校の麻雀部員を視聴者に紹介する役割を担いました。
・後半に於ける大会の試合中では、主人公だけでなく他の出場者にも見せ場が与えられ、目立っています。主人公は大勢の登場人物の1人に過ぎません。

 では、この「クイーンズブレイド方式」はどのような効果を発揮するのでしょうか?それは、視聴者・観客の楽しみ方の幅が広がるという効果です。
 主人公以外のキャラクターにも見せ場が与えられるということは、数多いキャラクターの中から、各観客がそれぞれ応援したくなるキャラクターを発見する可能性を高めています。但し、もし作品内でいきなり大会が始まってしまうと、観客にとっては対戦相手が知らない人ばかりになってしまい、誰かを応援しようという気も起きないでしょう。しかし前半で対戦相手の人物像を一通り紹介することで、視聴者は応援したいキャラクター・高校を見つけられるのです。
『咲-Saki-』の場合、4校の順位が目まぐるしく入れ替わるほどの激戦が繰り広げられており、各生徒も一生懸命頑張っているので、観客も自分の好きなキャラクターや高校に対する応援に熱がこもるのが人情でありましょう。劇場版『咲-Saki-』は出場校4校を平等に前面に押し出したことで、まるで実際のスポーツの試合のように観客が応援したくなる作品に仕上がった、というのが本稿の結論です。

(コートク)