本連載では、数多くある漫画から選りすぐりの1冊をピックアップ。その「第01巻だけ」レビューをお届けします。

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 漫画家が自分自身を題材、あるいは主人公として描くジャンルの作品があります。仮に「漫画家マンガ」と呼びましょう。たとえば代表作は――

[A]
『バクマン。』(原作・大場つぐみ、作画・小畑健)
『アオイホノオ』(島本和彦)
『マンガ家さんとアシスタントさんと』(ヒロユキ)

[B]
『毎日かあさん』(西原理恵子)
『失踪日記』(吾妻ひでお)
『防衛漫玉日記』(桜玉吉)

 ――といったところでしょうか。[A]は漫画家が自分の業界体験を基に、別の主人公を立てて描いている作品。[B]は漫画家自身が主要キャラクターとして作中に登場している作品。[A]の方がフィクション要素が強く荒唐無稽な展開が盛りだくさんなのに対し、[B]は時に切ないほどリアルに描かれている点が特徴です。
 筆者が小学生だった’90年代初頭。当時『ファミコン通信』で連載されていた桜玉吉『しあわせのかたち』に「こんな漫画があるのか」と衝撃を受けて以来、「漫画家マンガ」という世間的には(たぶん)マイナーな同ジャンルのファンであり、通ぶっていた向きもありました。しかし、この『東京都北区赤羽』は恥ずかしながら未読であり、まだまだ勉強不足と認めざるを得ません!

東京都北区赤羽

 さて、この『東京都北区赤羽』(以下、『赤羽』)。本作は、上記の分類でいえば[B]にあたります。某青年誌での連載が打ち切られ、スランプとなった主人公の漫画家・清野とおる氏が板橋にある実家を脱出(この間4ページ)、子どもの頃から縁のあった「赤羽」で新生活をスタートする、そんな日々をユル~くつづった物語です。

 みなさん、赤羽といえばどんなイメージをお持ちなのだろう。荒川を挟んでほとんど埼玉、酒場と演歌の街、昭和のおもかげを今も残している……。そんなところでしょうか? 筆者はほぼ赤羽シロートですが、多摩川を挟んでほとんど神奈川、酒場と労働者の街、昭和の残り香ただよう「蒲田」に住んでいたこともあり、何となく赤羽には親近感を感じます。どちらも、JR京浜東北線の停車駅という共通点もありますし。

 そんなわけだから本作『東京都北区赤羽』では、演歌と昭和歌謡を背景に、清野氏と愛すべき酔いどれ達の義理人情を描く物語――。と思いきや、ページを手繰って出てくるのは、ナゾの人々と珍スポットばかり。何というか、もうちょっとイイ感じに「お化粧」してもよくないか? ありのまますぎないか、これ! 巻末コメントで「基本的にすべて実話」って、フォローになってないです。清野氏。
 赤羽の珍名所を紹介する旅行漫画。という本作の触れ込みは、まぁ間違っていませんが、正確を期するのであれば「異界・赤羽に迷い込んだ漫画家の(非)日常」としておいた方が、個人的には良いと思います。

 たりない電車賃20円のお礼に自作デモテープをくれる女「ペイティ」、老人たちの憩いの場・喫茶店内でお赤飯ソサエティを展開する「お婆ちゃん」、漫画家・水島新司が飲み仲間とうそぶき暴れる「師匠」は末期ガンだった? ……みんなナゾすぎる。あと、仕事なにしてるの……?
 暖簾をくぐったらマスターが爆睡&メニューも意味不明な居酒屋「ちから」、客がカラオケする映像を放送してくれるMっ気がないと耐えられないスナック「ナイトレストラン」、ビルの屋上で金網に囲われて参拝が絶望的に難しい「お稲荷様」。……珍名所と一口に言うけど、珍しいにも程があるでしょう……?

 このとおり、ナゾの人々&珍スポットを観察しながら日々を送る主人公・清野氏ですが、わざわざこの異界・赤羽に住み着いて――

 とっくに平成ですよ――!!!(→駄菓子屋のお婆)
 最後の手段!!! 忍法“道尋ね”(散歩してて迷った)
 背中の模様が 人の笑い顔に見える(ナゾの虫を発見)

 ――などと「独りごと」を言う清野氏自身が最もナゾの人だと、筆者は確信する次第です。

 冒頭、桜玉吉『しあわせのかたち』の思い出を語らせていただきましたが、玉吉氏の漫画は時に「日記漫画」と呼ばれます。『赤羽』もまさしくその系譜にあり、大カテゴリ「漫画家マンガ[B]」小カテゴリ「日記漫画」が本作でございます。他人の書いた日記は、自分で読んでみなければ面白さは理解できませんから、ぜひご一読を。……ぶっちゃけ! もうこれ以上説明する術がないのだった。

■テレ東にて、ドラマ版『山田孝之の東京都北区赤羽』が放送開始!

 今回『東京都北区赤羽』をご紹介したのは、この1月より主演に山田孝之さんを迎えたテレビドラマ版が放送開始されるタイミングもあってのこと。

 『孤独のグルメ』シリーズで漫画原作のドラマ化に確かな実力を示したテレビ東京と、同局『勇者ヨシヒコ』シリーズで新境地を拓いた山田さんとのタッグですから、これは期待せざるを得ない。しかも、原作そのままの映像化ではなく、演技のスランプに陥った山田さんが『赤羽』を読んで一念発起、実際の赤羽を訪れる、ドキュメンタリーとドラマの境界線上の物語と、切り口もユニーク。原作者・清野氏も自身の役どころで登場するらしく、その点も要チェックです。

 テレビドラマ版『山田孝之の東京都北区赤羽』は、2015年1月9日から毎週金曜深夜 0時52分~1時23分 放送開始されます。漫画とあわせてこちらもご覧ください。

画像協力:
『東京都北区赤羽』http://renta.papy.co.jp/renta/sc/frm/item/14458/
『山田孝之の東京都北区赤羽』http://www.tv-tokyo.co.jp/akabane/