第4回の続きです。

 【第10章・・・終末論とパニック映画ブーム】

 1970年代、斜陽となった邦画界において、東宝の田中友幸プロデューサーはベストセラーを大作映画に仕立てて観客動員を図ろうとしていました。その第1弾が、創価学会員の集客を見込んで1973年に公開された池田大作原作の映画『人間革命』(本篇監督・舛田利雄、特技監督・中野昭慶、音楽・伊福部昭)です。かくして1970年代は、昭和30年代に続いて大作特撮映画が量産される時代となりました。

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 『人間革命』は主演の丹波哲郎による説法が見所になっているのですが、この時代の丹波哲郎は長々と喋る見せ場が用意されていることが多く、
1973年公開の特撮映画『日本沈没』(後述)
1974年公開の映画『砂の器』(監督・野村芳太郎、音楽・菅野光亮)
同、特撮映画『樺太1945年夏 氷雪の門』(本篇監督・村山三男、特撮監督・成田亨、音楽・横山菁児)
同、特撮映画『ノストラダムスの大予言』(後述)
でも丹波哲郎の独演会が繰り広げられています。

 『人間革命』の優れた部分としては、丹波哲郎の独演会の他に伊福部昭の音楽がありました。本作のテーマ曲は、1960年の『親鸞』、1961年の『釈迦』と並ぶ伊福部昭の宗教映画音楽の名曲です。
『人間革命』に続くベストセラー原作の東宝特撮大作第2弾は小松左京原作、1973年12月29日公開の『日本沈没』(本篇監督・森谷司郎、特技監督・中野昭慶、音楽・佐藤勝)です。
 
 大阪万国博覧会は「科学の力で何でも解決する」というビジョンを見せましたが、現実には高度経済成長の負の遺産である公害が深刻化していました。
そんな中、1973年3月19日に出版された小松左京の小説『日本沈没』と1973年11月25日に出版された五島勉のノンフィクション(?)『ノストラダムスの大予言』がベストセラーとなります。「1999年7の月 空から恐怖の大王が降ってくる」という詩文は人々の話題となりました。
また、この年の10月に勃発した第一次オイルショックによって高度経済成長が終焉を迎えて人々は不安を抱き、終末論がブームとなったのです。1974年に超能力者ユリ・ゲラーが日本のテレビ番組に出演してオカルトブームが起こったことも、終末論ブームと無縁ではないでしょう。小説『日本沈没』の映画化は時代の流れにマッチしたものだと言えます。

 さて、このような時代背景の中で製作された『日本沈没』は、『太平洋の嵐』『日本海大海戦』と並ぶ日本映画史上最大規模の特撮超大作となりました。中野昭慶は本作で正式に特技監督に就任。但し1970年代の東宝特撮映画を見ると、映画の中のタイトルクレジットでは「特技監督」と表記されていても、ポスターや予告篇では「特撮監督」と表記されています。
因みに東宝における「特撮監督」の表記と時を同じくして、円谷プロ作品でも『ウルトラマンタロウ』の途中からタイトルクレジットで「特撮監督」という肩書を使うようになりました。

 主人公は、原作では潜水艇の操縦士・小野寺俊夫(映画で演じているのは藤岡弘、)、映画のタイトルクレジットで最初に表記されるのは田所博士役の小林桂樹ですが、映画で一番目立っているのが山本総理役の丹波哲郎です。
原作では総理大臣はチョイ役なのですが、映画では序盤の百科事典を見る場面から終盤のヘリコプターで脱出する場面までずっと出ずっぱりでした。これは、本作が現場の人間の視点の他に日本政府の視点からも描いていたことの表れです。かくして本作は『人間革命』に続く丹波哲郎の独演会映画第2弾となったのであります。

 特撮面は富士山の噴火やフォッサマグナの亀裂など見せ場が多いのですが、やはり何と言っても圧巻は東京大地震のシーンです。倒壊する民家と逃げ惑う民衆の合成は大変リアル。地震で石油コンビナートが爆発炎上するシーンは今となっては背筋が凍りつきそうです。都心のビル街で発生した火災に対して自衛隊のヘリコプターが散布する消火剤が全然足りないという、政府の無策っぷりを表した描写もありました。
尚、翌1974年に『日本沈没』は東宝によってテレビドラマ化もされました。

 1974年の東宝チャンピオンまつりでは『ゴジラ対メカゴジラ』(本篇監督・福田純、特技監督・中野昭慶、音楽・佐藤勝)が公開されました。本作の舞台は1972年に返還された沖縄で、沖縄の観光案内風の映画にもなっています。劇中では1975年に開催される沖縄海洋博覧会にも言及されています。
登場怪獣はゴジラ、メカゴジラ、偽ゴジラ(正体はメカゴジラ)、アンギラス、そして沖縄の守護神キングシーサー。アンギラスは偽ゴジラによって顎から出血させられ、姿を消してしまいます。

 本作は『ゴジラ対ガイガン』『ゴジラ対メガロ』と違ってライブフィルム全開の映画ではなく、出演者も平田昭彦、小泉博、睦五郎、岸田森、今福正雄、佐原健二と久々に重厚な布陣となっています。

 特撮面では、爆発描写で有名な中野昭慶監督だけあって、メカゴジラがゴジラとキングシーサーを攻撃するシーンの火薬の量が凄い。次から次へとビームとミサイルを発射するメカゴジラの描写は圧倒的で、まさに全身が武器となっています。画面の中央にメカゴジラ、画面の左右にキングシーサーとゴジラが立つカットはシネマスコープを活かした構図ですね。
メカゴジラとの戦いを終えたキングシーサーが再び岩山に埋もれて眠りにつくラストは、伝説の守護神に相応しい終わり方でした。

 音楽面では佐藤勝が沖縄のムード溢れるテーマ曲を披露しました。1971年の『激動の昭和史 沖縄決戦』と『ゴジラ対メカゴジラ』のテーマ曲を聴き比べるのも一興です。佐藤勝によるゴジラのテーマ曲の出だしは伊福部昭による「ゴジラの恐怖」の出だしとよく似ているのでびっくりしました。本作の劇伴における最大の聴き所「メカゴジラのテーマ」は、ジャズ風のリズミカル且つダイナミックな曲です。火力でキングシーサーとゴジラを圧倒するメカゴジラの強さを音楽面からも表現しているようです。

 更に1974年に東宝はベストセラー原作の特撮大作第3弾『ノストラダムスの大予言』(本篇監督・舛田利雄、海外ロケ監督・坂野義光、特技監督・中野昭慶、音楽・冨田勲)を公開。しかも文部省推薦。しかも同時上映は実写映画『ルパン三世 念力珍作戦』(監督・坪島孝、音楽・佐藤勝)。坂野は2014年公開のアメリカ版『ゴジラ』の製作総指揮を務めた人物です。
主演は毎度お馴染みの丹波哲郎。丹波は、幕末、太平洋戦争中、そして現代と代々に渡ってノストラダムスの予言書を研究する一族を1人3役で演じています。本作は、東宝によるベストセラー原作の特撮大作第3弾であると同時に丹波哲郎の独演会映画第3弾でもありました。

 前作『日本沈没』の原作がストーリーのある小説だったのに対し、『ノストラダムスの大予言』の原作はノストラダムスの予言を紹介する評論なので、映画化するのは大変だったんじゃないでしょうか。
結局、丹波哲郎演じる環境学者が異常現象の調査に出掛けるエピソードと、丹波演じる学者の妻子及び娘の婚約者のエピソードをストーリーの中心としつつ、学者のストーリーとは無関係に天変地異やら若者による絶望的行動やらを挿入する構成となっています。世紀末的で絶望的な光景を見せることに主眼が置かれていると言えましょう。

 一見、学者のストーリーと関係なさそうな世紀末的場面でも、学者の娘の婚約者であるキャメラマン(演・黒沢年男)が取材する姿を挟むことで、学者のストーリーとの関連性を持たせようとした作り手の苦労が偲ばれます。
クライマックスでは丹波演じる学者が国会で破滅のビジョンを語り、映画には学者が語る光景が映し出されるのですが、その中に何と原子力発電所が地震に襲われて爆発し、放射性物質を撒き散らす場面があります。当時、頭文字にTが付く電力会社からこの場面にクレームが来たそうです。今となってはなかなか興味深いエピソードではあります。

 続いて学者は核戦争による人類滅亡を警告。「1999年7の月 空から恐怖の大王が降ってくる」というノストラダムスの予言は、この映画では、空から核ミサイルが降ってくるという解釈になっています。原作で環境問題が一番強調され、映画でも環境学者が主人公なのですから、クライマックスも核戦争ではなく環境問題で締めるべきだったと私は思いました。
映画は散々絶望感を煽りまくったものの、未来への希望を感じさせるラストで幕を閉じます。

 音楽面では、主に2種類の劇伴が映画を彩りました。「破滅のテーマ」と「愛のテーマ」です。主に天変地異の場面に流れた「破滅のテーマ」は、観客を絶望のどん底に突き落とす、世紀末感溢れる楽曲です。前作『日本沈没』では、ヘリコプターから散布する消火剤が尽きた場面ぐらいしか絶望的な劇伴は流れなかったのですが、本作は対象的に全篇に亘って「破滅のテーマ」が流れまくり、パニック映画としての盛り上がりに貢献しました。そして「破滅のテーマ」を背景にして響き渡ったのが、岸田今日子によるノストラダムスの予言の朗読でありました。
もう一方の「愛のテーマ」は丹波一家の描写で流れた曲で、レコード盤には映画で流れていないバージョンも収録されています。劇中における最も感動的な劇伴が、「愛のテーマ」のバリエーションの1つである「永遠の生命」です。環境学者の娘(演・由美かおる)が出産を決意して砂丘で踊る場面の劇伴で、終わることのない生命の営みを表しています。
余談ですが、平成ガメラ三部作の樋口真嗣特技監督は『日本沈没』『ノストラダムスの大予言』を「魂の故郷」と呼んでおり、『ガメラ2 レギオン襲来』やテレビアニメ『ふしぎの海のナディア』で『ノストラダムスの大予言』のパロディをやることになります。

 1975年の東宝チャンピオンまつりでは『ゴジラ対メカゴジラ』の続篇である『メカゴジラの逆襲』(本篇監督・本多猪四郎、特技監督・中野昭慶、音楽・伊福部昭)が公開。本多が怪獣映画を監督するのは『南海の大怪獣』以来5年ぶりで、伊福部昭が怪獣映画音楽の新曲を作曲するのも同じく『南海の大怪獣』以来5年ぶりです。
登場怪獣はゴジラ、メカゴジラⅡ、チタノザウルス。『ゴジラの逆襲』以来20年間に亘って活躍した2代目ゴジラが登場した最後の作品となりました。
福田純が本篇監督を務めた『ゴジラ対ガイガン』『ゴジラ対メガロ』『ゴジラ対メカゴジラ』が明るい活劇映画であるのに対して本多猪四郎が本篇監督を務めた『メカゴジラの逆襲』は重い悲劇となっており、比較的子供向けではないのですが、一方で、子供がゴジラに助けを求めた瞬間にゴジラが出現するというガメラみたいなシーンもありました。
中野昭慶による特撮は相変わらず派手な爆発が見せ場となっており、メカゴジラⅡがビル街を爆破するシーンは迫力満点です。
音楽は『ゴジラ対メカゴジラ』の佐藤勝から伊福部昭に交代。明るく軽快な佐藤音楽に対して伊福部音楽は重々しさと多少の暗さが漂っています。

 『メカゴジラの逆襲』では1954年の『ゴジラ』以来21年ぶりに「ゴジラのテーマ」が流れました。しかも1954年の『ゴジラ』では「ゴジラのテーマ」は人類の兵器や消防車のテーマ曲だったのに対して『メカゴジラの逆襲』では初めてゴジラのテーマ曲として使用されました。逆に、『ゴジラ』『キングコング対ゴジラ』『モスラ対ゴジラ』『地球最大の決戦』『怪獣大戦争』『怪獣総進撃』でゴジラのテーマ曲として使用された「ゴジラの猛威」(「ゴジラの恐怖」)は『メカゴジラの逆襲』では使用されませんでした。
そして『メカゴジラの逆襲』以降、東宝は暫く新作怪獣映画を製作しなくなるのでした。

 東宝は1975年にベストセラー原作の特撮大作第4弾『東京湾炎上』(本篇監督・石田勝心、特技監督・中野昭慶、音楽・鏑木創)を公開。原作は田中光二の『爆発の臨界』で、主演は相変わらず丹波哲郎。舛田利雄は脚本に回っています。本作は『日本沈没』『ノストラダムスの大予言』と違って大災害が実際に起きる訳ではなく、災害シーンはシミュレーション映像でした。

 さてこの頃、東宝は『日本沈没』『ノストラダムスの大予言』『東京湾炎上』というパニック映画を放ち、アメリカでも1970年に『大空港』、1972年に『ポセイドン・アドベンチャー』、1974年に『サブウェイ・パニック』『エアポート‘75』『大地震』『タワーリング・インフェルノ』というパニック映画が製作・公開されていました。
東映もこうした時代の流れに乗り、1975年に特撮パニック大作を放ちました。『新幹線大爆破』(本篇監督・佐藤純弥、特撮スタッフ・小西昌三、成田亨、音楽・青山八郎)です。特別出演には丹波哲郎。
自動列車制御装置(ATC)が人間の首を絞める場面は、「科学の力で何でも解決する」という考えが崩れ去った大阪万博後の時代を象徴しています。特撮面では、新幹線が浜松駅を通過するシーンが特撮映画史上に残る名場面となりました。

 1976年には東宝はベストセラー原作の特撮大作第5弾『続・人間革命』(本篇監督・舛田利雄、特技監督・中野昭慶、音楽・伊部晴美)を公開しました。主演は前作に引き続き丹波哲郎。
また同年の東宝映画『大空のサムライ』(本篇監督・丸山誠治、特技監督・川北紘一、音楽・津島利章)は、川北紘一が初めて特技監督を務めた映画となりました(タイトルクレジット上の肩書は「特殊技術」)。
尚、創価学会の関連企業であるシナノ企画と正続『人間革命』を合作した東宝は、1977年にもシナノ企画と大作映画『八甲田山』(監督・森谷司郎、音楽・芥川也寸志)を合作しています。

 
【第11章・・・SF映画ブームと東宝特撮映画VS東映特撮映画】

 1977年、SF映画ブームが勃発しました。この年、テレビアニメを再編輯した映画『宇宙戦艦ヤマト』(監督・舛田利雄、音楽・宮川泰)が公開。アメリカでも1977年に映画『スター・ウォーズ』(監督・ジョージ・ルーカス、音楽・ジョン・ウィリアムズ)と『未知との遭遇』(監督・スティーブン・スピルバーグ、音楽・ジョン・ウィリアムズ)が公開されていたからです(2本とも日本公開は1978年)。この時代の流れに乗って、東宝と東映はスペースオペラ映画を製作・公開します。

 東宝は突貫工事で1977年に『惑星大戦争』(本篇監督・福田純、特技監督・中野昭慶、音楽・津島利章)を公開。1963年の『海底軍艦』に登場した轟天号を宇宙防衛艦轟天としてリメイクし、金星で轟天が敵と戦うというストーリーです。金星での空中戦は、人類、敵共に奥の手をギリギリまで温存することで大変手に汗握るものになりました。津島利章による音楽も名曲です。

 東映は1978年に東映京都撮影所制作の大作『宇宙からのメッセージ』(本篇監督・深作欣二、特撮監督・矢島信男、音楽・森岡賢一郎)を公開。ストーリーは『南総里見八犬伝』を下敷きにしたものです。配役を見ると、顔面にメイクを施した敵キャラクターの成田三樹夫や、成田と戦う千葉真一など、東映が久々に製作した同年公開の大作時代劇映画『柳生一族の陰謀』(監督・深作欣二、音楽・津島利章)と共通点が見られます。

 東映は続いて1978年に大作時代劇映画『赤穂城断絶』(監督・深作欣二、音楽・津島利章)、1979年に大作時代劇特撮映画『真田幸村の謀略』(本篇監督・中島貞夫、特撮監督・矢島信男、佐川和夫、音楽・佐藤勝)も公開しています。
話は『宇宙からのメッセージ』に戻りまして、本作では地球連邦評議会議長という役で丹波哲郎が出演していました。地球上で一番偉い役ですよ。凄いですね。日本の宇宙SF映画における地球上で一番偉い役としては、他に1984年の映画『さよならジュピター』(総監督・小松左京、本篇監督・橋本幸治、特技監督・川北紘一、音楽・羽田健太郎)で森繁久弥が演じた地球連邦大統領もいますね。

 ところで『宇宙からのメッセージ』の幾つかある予告篇の1つにおいて、横書き2枚タイトルで
  監督 深作欣二
特撮監督 矢島信男
と表記されるのが個人的な感動ポイントです。東映作品で矢島監督があれほど大々的な扱いを受けたのは初めてでしょう。

 音楽面では、オープニングとエンディングに流れる「エメラリーダのテーマ」は、映画音楽の最高傑作だと個人的に思っている次第でございます。念のために言っておくと、私が褒めた「エメラリーダのテーマ」は、ショスタコービッチの交響曲第5番第4楽章と似ている曲「リアベの勇士」とは別の曲ですよ。

 さて東宝は1978年の東宝チャンピオンまつりで1957年の『地球防衛軍』の再編輯版を上映しています。因みに1978年には円谷プロの宇宙SFテレビ番組『スターウルフ』もありました。
第10章では1970年代に大作特撮映画が量産されたと指摘し、これまで大作特撮映画『人間革命』『日本沈没』『ノストラダムスの大予言』『東京湾炎上』『新幹線大爆破』『続・人間革命』『宇宙からのメッセージ』『真田幸村の謀略』そして特撮映画ではない大作映画『砂の器』『八甲田山』『柳生一族の陰謀』『赤穂城断絶』に言及してきました。これら12本全てに出演したのが丹波哲郎です。まさに大作俳優と呼ぶに相応しい。

 1980年になりますと、2014年公開のアメリカ映画『ゴジラ』の製作総指揮を務めた坂野義光がプロデューサーを務めた単発の特撮テレビドラマ『東京大地震マグニチュード8.1』(本篇監督・西村潔、特撮監督・川北紘一、音楽・笹路正徳、ホット・テイスト・ジャム)が放送されました。
東日本大震災を経験した上でこの作品を見ると、色々と考えさせられることがあります。特に、柴俊夫演じる自衛隊ヘリコプターのパイロット。彼は新婚3箇月で、妻も地震の被害に遭っていましたが、妻のことなど一切考えず自衛隊の任務に従事するのです。東日本大震災の時に活躍した自衛隊員も、罹災者または罹災者家族だったと聞きます。自衛隊員には頭が下がる思いです。
また、自衛隊が避難民に物資を配給する場面では避難民が我先に物資を貰おうと押しかけ、機動隊員が空砲を放って威嚇したところ、柴演じる自衛隊員が「撃つな!」と叫んだが、避難民が激昂して柴演じる自衛隊員に寄ってたかって殴る蹴るの暴行を加え、何と殺害してしまいます。本稿では割愛しますが、柴演じる自衛隊員は他にも立派なエピソードがありました。それなのになぜ殺されなければならなかったのか。災害時の人間の理性について考えさせられる場面でした。

 さて、1975年にパニック映画、77~8年にスペースオペラ映画と、同じテーマの特撮映画で激突した東宝と東映ですが、1980年代前半にみたび同じテーマの特撮映画で激突します。それは戦争映画です。
1980年に東映映画『二百三高地』(本篇監督・舛田利雄、特技監督・中野昭慶、音楽・山本直純、たかしまあきひこ)
1981年に東宝映画『連合艦隊』(本篇監督・松林宗恵、特技監督・中野昭慶、音楽・服部克久、谷村新司)
1982年に東映映画『大日本帝国』(本篇監督・舛田利雄、特技監督・中野昭慶、音楽・山本直純)
1983年に東映映画『海ゆかば 日本海大海戦』(本篇監督・舛田利雄、特技監督・中野昭慶、音楽・伊部晴美)
1984年に東宝映画『零戦燃ゆ』(本篇監督・舛田利雄、特技監督・川北紘一、音楽・伊部晴美)
が公開されました。5本全てに丹波哲郎が出演しています。
因みに『連合艦隊』の特撮に使われた全長13メートルの戦艦大和のミニチュアはお台場の船の科学館で屋外展示されていましたが、台風で破損したため撤去されてしまいました。私がお台場に行った時には既にこの大和はありませんでしたが、案内板だけはなぜか敷地の隅にありました。デジタルカメラで案内板の写真を撮っておけばよかったと後悔している次第です。

 
【第12章・・・ゴジラ復活】

 一説によれば、1970年代末頃に第三次怪獣ブームなる現象が発生したそうです。ただ、第一次怪獣ブームと第二次怪獣ブームは色んな書物に登場するのですが、第三次怪獣ブームはあまり見かけないのでブームがあったというのは定説にはなっていない模様です。

 第三次怪獣ブームの特徴は、小学館のコロタン文庫、ケイブンシャの大百科、秋田書店の大全科等の児童向け書籍によって過去の怪獣がリバイバル的に人気になった、ということのようです。実は第三次怪獣ブームと同時期に第一次アニメブームが起きているのですが、怪獣ものにしてもアニメにしても、過去の作品を再編輯した映画が公開され、やはりリバイバルされています。

 1978年にはテレビアニメを再編輯した映画『科学忍者隊ガッチャマン』(総指揮・岡本喜八、監督・鳥海永行、音楽・すぎやまこういち)、1979年にはテレビアニメを再編輯した映画『海のトリトン』(監修・舛田利雄、監督・富野由悠季、音楽・鈴木宏昌)が公開。
更に同年、特撮テレビ番組を再編輯した映画『実相寺昭雄監督作品 ウルトラマン』(本篇監督・実相寺昭雄、特技監督・高野宏一、音楽・宮内国郎)と、特撮テレビ番組を再編輯しつつ新撮シーンを加えた映画『ウルトラマン 怪獣大決戦』(監督・宍倉徳子、音楽・宮内国郎、冬木透)、1980年には徳間書店傘下の大映が過去の映画のライブフィルムをフル活用して製作した新作映画『宇宙怪獣ガメラ』(監督・湯浅憲明、音楽・菊池俊輔)が公開されました。

 ゴジラについてもこの時期、過去の作品を振り返る催しが次々と開催されました。
1979年には映画館で『ゴジラ誕生25周年 ゴジラ映画大全集』というリバイバルプログラムが上映され、1980年には『モスラ対ゴジラ』が『ドラえもん のび太の恐竜』(監督・福冨博、音楽・菊池俊輔)と2本立てで上映されました。この時点で東宝チャンピオンまつりは既に終了していましたが、この2本立てはまるで東宝チャンピオンまつりのようですね。
1982年には東宝創立50周年を記念して『東宝半世紀傑作フェア』と銘打ったリバイバルプログラムが上映されました。これは東宝映画の名作を上映するもので、プログラムの中に『ゴジラ』『ラドン』『モスラ』が含まれました。
1983年には『ゴジラ1983復活フェスティバル』というリバイバルプログラムが上映され、日比谷公会堂では『伊福部昭SF特撮映画音楽の夕べ』と題して汐澤安彦指揮、東京交響楽団演奏によって伊福部昭作曲、編曲の音楽作品『SF交響ファンタジー』が初演されました。これは伊福部昭が手掛けた東宝特撮映画の音楽を組み合わせたもので、今ではお馴染みとなった、「ゴジラの恐怖」のイントロ→『怪獣総進撃』の大気圏突入の音楽→「ゴジラのテーマ」が一体化した「ゴジラのテーマ」は『SF交響ファンタジー』で初登場します。

 このようにゴジラ関連のリバイバル上映やコンサートといったイベントによってゴジラ復活の気運が高まり、遂に1984年、新作映画『ゴジラ』(本篇監督・橋本幸治、特技監督・中野昭慶、音楽・小六禮次郎)が公開されるに至ります。
本作は1954年以来30年ぶりにゴジラが出現したというストーリーになっており、1955年の『ゴジラの逆襲』から1975年の『メカゴジラの逆襲』はなかったことになっています。
物語は政府の視点で描かれ、怪獣が出現したら政治はどう対処するのかというシミュレーション映画となっています。主人公は内閣総理大臣(演・小林桂樹)。ベテラン大物俳優が大挙して閣僚役で出演し、怪獣映画史上最も閣議や対策本部のシーンが充実した作品となっています。
本作に登場したゴジラは、それまでより身長が高く80メートルになった3代目ゴジラです。また、本作は1954年の『ゴジラ』と同様に現実世界に対する警告が多分に含まれています。

 1979年、ソ連がアフガニスタンに侵攻したことをきっかけに、それまで一時的に平穏を取り戻していた国際情勢は悪化し、「新冷戦」と呼ばれる米蘇対立の時代に突入しました。東西両陣営による欧州でのミサイル軍拡競争は激しさを増し、レーガン米大統領が演説でソ連を「悪の帝国」と呼んだり、オリンピックでボイコットが行われたり、更には米国がスター・ウォーズ計画と通称される軍拡計画を発表して軍拡競争は宇宙にまで広がりました。

 新冷戦の時代に製作された映像作品を見ると、軍拡競争への諷刺が見て取れます。テレビ人形劇『プリンプリン物語』(1979年~1982年放送)にはミサイルを売る死の商人がレギュラー登場人物となっており、テレビアニメ『魔法のプリンセス ミンキーモモ』(1982年~1983年放送)の第42話「間違いだらけの大作戦」では、対立し合う国家が手違いによって開戦しそうになるエピソードが描かれています。
『ゴジラ』でも、ソ連の人工衛星が誤作動で核ミサイルを発射し、アメリカが撃墜する場面が登場しました。

 さて、『ゴジラ』の特撮面で注目すべきは自衛隊の新兵器・スーパーXでしょう。なかなか強力なこの兵器は、シリーズ化されこの後の作品にも登場します。
 音楽面では、小六禮次郎が壮大な劇伴を披露しています。スーパーXのテーマ曲や自衛隊のテーマ曲はすごくかっこいい。予告篇では伊福部昭作曲による「ゴジラのテーマ」、「ゴジラの恐怖」のイントロ、『怪獣総進撃』の大気圏突入の音楽が流れましたが、映画の劇中では流れていません。
 映画のラスト、三原山に誘導されたゴジラは、人工的に噴火させられた火口に落下し、数年間の眠りに就くのでありました。

※映画『新幹線大爆破』に主演された俳優・高倉健さんが11月10日にお亡くなりになりました。慎んで哀悼の意を表します。

 第6回に続きます。
参考文献は最終回に記載します。

(文:コートク)

※初出時、映画『ウルトラマン 怪獣大決戦』の宍倉徳子監督のお名前を誤って記載しておりました。訂正しお詫びいたします。