「うちの本棚」、今回ご紹介するのは樹村みのりの『悪い子』です。

 子育て世代のお母さんにはぜひ読んでいただきたい一冊かもしれません。

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悪い子

 本書が刊行されたとき「実に樹村みのりらしいタイトルだ」と思った。とはいえ、刊行当時すぐに新刊で購入しなかったことで長く手に入れることができなかった。というのは、初版にこだわってしまう嗜好とともに、当時の「希望コミックス」のカバーがコーティング等されていない痛みやすいものであったことから、たとえ新刊であっても綺麗な本を探すのが困難だったこともある。また本書は予想以上に売れた印象があり、すぐに初版本をみかけることがなくなったとも記憶している(結局、入手したのは何年か後に古書店の均一棚の一冊で、このまま初版が見つけられないよりは、と多少の痛みは我慢したものだった)。

 表題作の『悪い子』は、これもやはり樹村みのりらしい作品といえるだろう。
主人公は娘を持つ母親で、引っ越した先の土地で娘の友人となった少女について語るといった内容だ。娘と親しくしている少女を好意的に見ていた目も、あることをキッカケに疑い目の目に変わり、さらに少女の家庭環境を知るとまた見方が変わっていくという、読者にも思い当たることがありそうな日常的なエピソードではある。作品が発表された80年ごろでは馴染のなかった「心の闇」という言葉がこの作品からは読み取れる。いや、この作品が発表されたあと、「心の闇」という言葉が一般的になってしまったということを悲しむべきだろうか。
『Kの世界』も同様に主人公の内面を掘り下げた作品。ラストページが印象的だ。
『晴れの日~』は同様のテーマながら少し明るさが感じられる。これは主人公を少女にしたためでもあるだろう。胸の痛むような内容やシーンを描いていてもラストには希望を含んでいるのが樹村みのり作品の特徴でもあって、本作でも読後の後味はすがすがしいものになっている。
『犬~』は78年の作品で犬の登場するホームドラマといった印象。近年では猫漫画の多い樹村の描く犬漫画といったところか。本作の掲載が「プリンセス」78年5、6、9月号であり、抜けている8月には「別冊少女コミック」で『晴れの日~』を掲載しているというのも興味深いところだ。

初出:悪い子/小学館「プチコミック」1980年8月号、Kの世界/潮出版社「コミックトム」1980年11月号、晴れの日雨の日曇りの日/小学館「別冊少女コミック」1978年8月号、犬・けん・ケン物語/秋田書店「プリンセス」1978年5、6、9月号

書 名/悪い子
著者名/樹村みのり
出版元/潮出版社
判 型/B6判
定 価/520円
シリーズ名/希望コミックス(79)
初版発行日/昭和56年8月20日
収録作品/悪い子、Kの世界、晴れの日雨の日曇りの日、犬・けん・ケン物語第一話~第三話、解説(斎藤次郎)

(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/