中卒労働者(ワーカー)から始める高校生活本連載では、数多くある漫画から選りすぐりの1冊をピックアップ。その「第01巻だけ」レビューをお届けします。

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中卒労働者(ワーカー)から始める高校生活

『中卒労働者(ワーカー)から始める高校生活』。一見ハウツー本 or 実用書のようにも見える強烈かつ皮肉なタイトルにも関わらず、表紙では萌え系「青髪のお嬢様」が微笑んでいる、そんなアンバランスさが店頭でも気になっていました。この女子力ならぬ表紙力、できる……。

早くに両親が他界してしまい、高校進学も危うい妹を養いながら工場勤務に勤しむ中卒労働者・真実(まこと)。新入社員の大卒男(社長が知り合い)に出世の先を越されてしまい、まわりの大人たちはクズにしか見えず、もう周りみんな全部、死ね、死ね、死ね……!と、さわりだけ聞けば西村賢太『苦役列車』のような、屈折した苦々しい労働系青春物語を想像してしまいますが、案外と読み口はさわやか。

鬱々し過ぎない世界観は、作者・佐々木ミノルの細く、淡い少女マンガ風タッチのおかげでしょうか。登場人物たちにすっぱい体臭が臭う『苦役列車』に対して、『中卒労働者~』の若者たちにはフローラルな香りが漂います。

妹と一緒に通信制高校で学ぶことになった真実は、ひょんな事から「青髪のお嬢様」ことヒロイン・莉央(りお)の見開きパ●チラと遭遇してしまい、好感度サイテーから学園生活がスタート。はじめは通信制高校で学ぶ真実と、全寮制お嬢様学校にでもいそうな莉央との身分違いラブコメと思いきや、ふたりは同級生という予想外の展開に。なお、莉央はその後も“透け”ショットなどをサービスしてくれるありがたい存在です。

第1話で「入学」し、「同級生」「レポート」「勉強会」(は名ばかりで友だちの家で遊ぶ)と定番学園イベントを楽しみながら、日々は過ぎていきます。しかし、妹が同級生になってしまった真実はもちろん、実際お嬢なのに何故か通信制高校に通う莉央のほか、幼い娘が教室のアイドルになったシングルマザー女子など、色々と複雑な事情を抱えたクラスメイトたちの「ナマな姿」が次第に浮き彫りとなっていき……。

本当なら普通に高校へ入学して、それこそ大学へも進学して……。幼い娘の犠牲になってばかりで、娘は何も助けてくれないし……。「お前のせいで!」「全部アタシばっかり!」と、楽しさだけでは覆い隠せない人生のドロドロが真実たちを飲み込みます。そんなドロドロに対して、「お袋さん」と遺影を拝む昔気質な真実は、ド直球!対してケンカも強くないのに、体を張って立ち向かいます。

「人種のルツボ」通信制高校では「普通に」生きていたら知り合わない人種同士の出会いが、物語を予想外へと引っ張っていき、割と早めにデレてしまう莉央はいわゆる「ちょろイン」ってやつ!? いや、それより通信制に通うことになった莉央の過去とは一体何? お付きの少年も惚れてるな、アレ! と、第02巻以降へと気になる伏線が盛りだくさんです。

何より気になるのは、巻頭カラーで莉央が物語本編を「過去のできごと」として振り返っている点。このことを覚えておいて第02巻以降を読んでいけば、きっと良いことあると思います。たぶん。

記事・画像協力:
『中卒労働者から始める高校生活』
http://renta.papy.co.jp/renta/sc/frm/item/51785