今回ご紹介するのは1995年のスーパーファミコンソフト『ロマンシング サ・ガ3』。

ロマンシング サ・ガ3

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本作は、ゲーム中で描かれる僅かな期間だけでなく、ゲーム中で描かれる時代=聖王暦316年(聖王暦元年は聖王という人物が生まれた年)より616年前からの歴史を描いた作品ですが、果たして『ロマサガ3』が最も重点を置いて描いたものは何だったのでしょうか。

最初に言えることは、何しろ616年間の歴史を描いたスケールの大きな作品でありますから、『ロマサガ3』が最も重点を置いた点もスケールの大きな事柄である、という点です。まず手がかりになるのは、ゲームの本筋から外れたサブゲームではないでしょうか。本作のサブゲームは、ロアーヌ侯ミカエルを主人公にしたときにできるロアーヌ侯国の内政、マスコンバット(軍隊の会戦)、トーマスを主人公または仲間にしたときにできるトレードイベントの3つです。

まず、ロアーヌ侯国の内政について。主人公をミカエルにすると、徴税をしたり、産業を振興させたりすることができます。とは言っても、内政イベントは大したイベントではありません。その上、実は、本作品中の616年間の物語の中で、ロアーヌ侯国が中心となるのは、ゲーム本篇の冒頭(ゴドウィン男爵の反乱)だけですし、政治そのものについても、本作品中の歴史上最も偉大な英雄・聖王が政治に関わらなかったことが関係しているのでしょうが、616年間の物語の中で、政治の話は少ししか登場しません。但し、聖王暦301年にメッサーナ王国の国王・アルバート王の崩御に伴って勃発したメッサーナ内乱は、ゲーム本篇に於いて重大な事件であり、聖王暦25年から続いている秩序(註・この世界の権力者はみな聖王または聖王家と直接的ないし間接的に関係があり、形式的には聖王家の家臣ということになっています。但し、今は亡きゲッシア朝ナジュ王国だけは例外である可能性が高い)を揺るがす可能性を孕むものです。このゲームに登場する権力者にとって、聖王暦25年以来の秩序が崩壊の危機を向かえつつあることは、大変な政治的事件なのです(例えば、アルバート王が、人身を惑わすという理由で天文学者ヨハンネスの父を処刑したのは、既にこの頃、為政者が聖王暦25年以来の秩序が崩壊するのを恐れていたことを表しています)が、本作は、結局、聖王暦25年以来の秩序が崩壊したのか否かを描いていないので、政治のエピソードは中途半端な印象を拭えません。

続いて軍隊の会戦ですが、ゲーム本篇では、メッサーナ内乱の影響で、戦いが絶えることがありません。その上、聖王暦25年以来の秩序を破壊する可能性を持った新興宗教団体・神王教団も強大な軍隊を持っているので、それも軍事バランスを崩す要因となっています。しかし、ロアーヌ侯国は別に戦争ばかりしているわけではなく、外交政策もきちんとやっていました。さて、616年間の物語を見てみると、軍隊の会戦の話は2度登場しています。1度目は紀元前269年に勃発した魔王軍と東の国々との戦い、2度目はくだんのメッサーナ内乱です。とは言うものの、軍隊の会戦の話は、物語の中であまり重要視されていなかったような印象を受けます。

3つは、トレードイベントです。このイベントは、トーマスを主人公または仲間にすると、世界三大財閥の一つ・フルブライト商会の当主、フルブライト23世から会社を経営しないかと誘われることで始まるイベントで、全部で3つのイベントで構成されています。
最初は、企業の買収を繰り返して自社と傘下の企業の資本金の合計が1兆円を超えることを目指すイベント。
2番目のイベントは、モニカを主人公にした時、伏線を目にすることができます。モニカを主人公にすると、何者かが麻薬を船で輸送する様子を目撃するのですが、その何者かの正体が、2番目のトレードイベントで判明するのです。フルブライト23世の話によれば、世界三大財閥の一つ・ドフォーレ商会が、聖王が禁じた麻薬の密売をしているという。そして、2番目のトレードイベントは、ドフォーレ商会の麻薬密売をやめさせるのが目的でとなります。具体的には、ドフォーレ商会傘下のドフォーレ海運を買収することで、ドフォーレ商会の麻薬密売をやめさせることができます。

3番目のイベントは、魔界と手を組んだ企業連合・アビスリーグを打倒することが目的となります。主人公は、アビスリーグに加盟する企業を全て買収することで、アビスリーグを打倒することができます。この3番目のイベントでは、主人公の会社、フルブライト商会、2番目のイベントでは悪役だったドフォーレ商会、その他の企業が団結してアビスリーグと戦うのですが、魔界の者が人間の企業を篭絡したことと、2番目のイベントでは悪役だったドフォーレ商会が主人公の仲間に加わることは、616年間の物語の中で、重要です。このことを理解するためには、聖王の物語を知る必要があります。

それは、四魔貴族という魔界の貴族が世界を支配していた時代のこと。
聖王は、12歳の時に奴隷商人にさらわれ、以後、各地を放浪するのですが、聖王暦18年に、聖王のボロボロの姿に何かを見出したフルブライト商会当主・フルブライト12世の養子になります。そして、聖王は各地の諸侯を仲間にし、四魔貴族と勇敢に戦って四魔貴族を魔界に追い返すのです。なぜ聖王にそれができたのか。勿論、本人の人を惹きつける人徳と軍事力、そして優れた仲間があったからですが、縁の下の力持ち的存在で聖王を支えた静海沿岸地方の商人の経済力が極めて重大な要因となっていました。静海というのはゲーム中の世界にある海の名前で、その沿岸は世界で一番繁栄していた地域であり、フルブライト商会もドフォーレ商会も静海沿岸で活躍する会社です。そういう経緯があるから、聖王暦316年においても、先ほどまで悪役だったドフォーレ商会が、主人公の仲間(と言うよりフルブライト商会の仲間)となってアビスリーグと戦うのは、何ら不自然なことではないのです。一方、四魔貴族は、敗北から約300年の後、自らの敗因を分析し、人間の経済力に敗れたことを悟り、同じ轍を踏まないために人間界の企業を篭絡して経済界の支配を目論んだのです。

さて、トレードイベントの特筆すべき点は、厖大なデータの量です。全部で160社もの会社が登場し、それぞれ取り扱い品目が何で、資本金が幾らで、収支が幾らというデータが事細かに登場するのです。例えば、ファルス造船という会社は、ゲーム序盤では赤字続きの会社ですが、ゲームが進むと莫大な黒字を叩き出します。また、見世物小屋事務所という会社は黒字と赤字を行ったり来たりしています。サブゲームは外注によって制作されたそうですが、他の2つに比べてトレードイベントの気合の入り具合は半端ではありません。

聖王の時代において静海沿岸地方が一番繁栄していたことは既に述べましたが、聖王暦316年の現在においても、やはり静海沿岸の工業会社の力は圧倒的です。なぜ聖王の時代に静海沿岸地方の商人の経済力が四魔貴族打倒の要因となり、且つ現在のトレードイベントでも静海沿岸の工業会社が強力なのか。その秘密を探るためには、紀元前250年頃まで遡る必要があります。当時、世界を支配していたのは四魔貴族でしたが、4人の中の1人、フォルネウスは紀元前250年頃、人間を支配することに飽きてしまい、自らの宮殿である海底宮に引き篭ってしまいました。その結果、フォルネウスの直轄地であった静海沿岸地方の商人は自由に振る舞うことができるようになり、全世界が荒廃していた当時において、静海沿岸地方だけが復興し、経済的に繁栄したのです。

以上のようにサブゲームを手がかりにして『ロマサガ3』が何を描いた作品だったのかを考察しましたが、こうして見ると、『ロマサガ3』は、物語の分岐点を経済が握っている作品であったと言うことができます。また、ミカエルの内政が、一国だけの話であり、且つ、せいぜい百万オーラム(オーラムとは『ロマサガ3』世界の通貨単位)単位の金しか登場しないのに対して、トレードイベントは全世界を股にかけて展開し、且つ、十億オーラム単位の金が乱れ飛ぶ、スケールの大きなイベントでありました。本作は、経済のスケールの大きさを描いた作品であったというのが、本稿の結論です。

<スタッフ>
発売元・スクウェア、制作総指揮・河津秋敏、プロデューサー・岡宮道生、キャラクターデザイン・小林智美、音楽・伊藤賢治

(文:コートク)